「え、ネコ好きですか? 分かりました!」とゴールドが。
土曜日。
もうしばらくすると、ゴールデンウィークに入る。
栞がまた遊びに来ていた。
「栞さん、こんにちは」
玄関から俺が案内し、亜紀ちゃんが挨拶する。
「亜紀ちゃん、高校はどう?」
「はい、順調にやってます」
本当に順調で、テストはまだだが学年トップの実力は明白になりつつある。
亜紀ちゃんのことだ、何の心配もない。
クラブ活動はしていない。
家のことは心配しないで、好きにやれよと言った。
だが、結局どこにも入らないでまっすぐに帰って来る。
昼はパスタにする。
ボンゴレ・ビアンコだ。
当然、うちの場合はあさりは多め。
シシトウ、マイタケ、そしてツナも入れる。
亜紀ちゃんの高校、皇紀の中学の話が、食事中の中心になった。
皇紀もクラブ活動はしていない。
前に理由を聞いたら、うちにいた方が楽しいそうだ。
皇紀は最近、機械いじりが好きになった。
ロケット作りで興味を持ったようだが、最近ではラムジェットに挑戦している。
なんだか、とっても不安だ。
でも、ガレージの並びに工作室を作ってやり、そこで引きこもっていることも多い。
双子が時々遊びに行くようで、一緒に作業することもある。
食後のお茶を飲む。
双子以外はみんなコーヒーだ。
亜紀ちゃんと皇紀はミルクと砂糖を入れる。
双子はホットミルクをずっと飲んでいる。
「オッパイを大きくするんだ!」
前に聞いたら、そう言っていた。
栞に教わったらしい。
でもな、遺伝だぞ。
亜紀ちゃんもつつましいじゃないか。
栞が俺に言った。
「ねえ、石神くん」
「なんですか?」
「私もね、バイクに乗ろうかと思って」
「え」
意図は分かる。
俺と六花がしょちゅう一緒に出掛けるからだろう。
自分も一緒に遊びたいらしい。
「そうですか。でも、俺は六花としか一緒に走りませんよ」
「えー、なんで!」
「マジ泣きしますよ、あいつ」
「うーん」
意味は分からないが、俺のオチンチンの世話とバイクは、あいつの「お仕事」らしい。
それを本気で思ってることだけは、分かる。
だから俺が他人にそれを与えることはできない。
「大体、花岡さんは二輪の免許は持ってないでしょう」
「これから取るもん」
「でも、やっぱり六花が大事にしている領域ですからね」
「じゃあ、私も石神くんとの大事な領域を持ちたい!」
栞はもう、子どもたちの前で俺への愛情を隠さなくなった。
自然にそうなった。
「そう言われても」
「あ、じゃあ今日はネコカフェに行こうよ!」
「あそこですかー!」
俺は以前の大騒動を思い出した。
「いいじゃない。石神くんもネコ好きでしょ?」
「まあ、そうですけど」
俺がそう言った時。
一瞬、庭の隅が光った気がした。
「あ、私も一緒に行っていいですか?」
「うーん、そうね。亜紀ちゃんも一緒に行きましょう。でも亜紀ちゃんは響子ちゃん的な立ち位置ね!」
「?」
亜紀ちゃんが俺を見る。
分かるわけないだろう。
三人で出かけた。
双子も行きたがるかと思ったが、何も言わなかった。
「猫三昧」には、常連らしき若い女性が三人いた。
「はぁ! 猫神様!」
「いえ、石神です」
店員のタマが俺を見た瞬間、奥の店長を呼んだ。
「これは猫神様、またようこそお出でいただきました」
店長も、俺を猫神と呼ぶ。
今回は何の説明もなく、すぐに通された。
数多くのネコが、俺を一斉に見る。
「お客様方。申し訳ありませんが、ただいま猫神様がいらっしゃいました」
「え! 店長が前に話してた方?」
「お会いしたかったー!」
女性たちが口々に言う。
俺たちは三人とは離れたテーブルに案内された。
座った。
来た。
栞と亜紀ちゃんを乗り越えて、俺に群がってくる。
「ほんとだったんだー!」
「ねえ、すごいよ、あれ!」
「ネコまみれだぁー!」
三人の女性が口々に言う。
「また石神くんだけー!」
栞が怒っている。
俺に群がる一匹を無理矢理自分の膝に乗せた。
引っかかれた。
「タマ、また見られたねぇ」
「はい、店長。私はまだ信じられない気持ちです」
「お前もまだまだだねぇ」
のんきなことを言っている。
「あ、ロボだぁ!」
女性客の一人が叫んだ。
奥から、あのでかい白猫が歩いて来る。
「タカさん、寝た方が」
「またかよ」
俺が寝ると、ロボが俺の上に乗って来る。
「ロボが人に懐いてる!」
俺はロボの頭を撫で、全身も撫でてやる。
ゴロゴロと、嬉しそうな音をたてる。
「ロボが撫でられてるよ!」
「前に触ろうとした人が、指を千切られかけてたよね!」
おい。
栞と亜紀ちゃんは、俺の両側に座り、俺に群がった猫を撫でている。
「あーあ、石神くんの病気も治ったと思ったんだけどな」
「別に病気じゃないですよ」
「そういえば!」
栞が何か思い出したようだ。
「学生時代にね。石神くんたちと一緒に上野動物園に行ったのね」
「ああ、猿山で!」
「そうそう、亜紀ちゃんも聞いてたんだ」
「思えば、あの時から病気だったのね」
「だから病気じゃ」
店長とタマがカメラを持ってきた。
「どうか一緒に写真を」
俺は不貞腐れながら了承した。
三人の女性客も一緒に入る。
最後は俺が立って、ロボを抱いているポーズを撮らされた。
また、会計は断られた。
先ほどは気づかなかったが、入り口に俺のネコまみれの写真が引き伸ばされ、飾られていた。
《猫神様 御降臨》
そうキャプションがあった。
「あーあ、なかなか私と石神くんの共通項はないなぁ」
「何言ってんですか」
俺は栞と亜紀ちゃんの肩を抱き、三人で仲良く帰った。
「帰ったら、三人でお風呂に入りましょうか?」
俺は栞に殴られた。
俺が言ったんじゃねぇ。
亜紀ちゃんが嬉しそうに笑っていた。




