自重は無理そうだ。
月曜日。
俺は一江の報告を聞いていた。
「以上です。先週は長時間のオペ、お疲れ様でした」
「いや、やはり峰岸がいたから随分と助かったぞ」
「そうですか。優秀ですよねぇ」
「ああ。それにな、あいつのオペ室の作り方なんてなぁ」
俺は峰岸の仕事ぶりのあれこれを一江に話した。
「部長」
「あんだよ」
「今日はやけに峰岸のことを褒めますね」
「え、いや、そうかな」
「部長」
「な、なんだよ」
「峰岸と寝ましたね」
「バカなことを言うな!」
「私は部長の有能な秘書のつもりもあります」
「ああ、ありがとう」
「囲ってる愛人のことを知らずに、主人を守れると思いますか?」
「……」
俺は一江に顛末を伝えた。
「軽い気持ちじゃないからな」
「ゲスはみんな同じことを言います」
俺は一江の腹を殴った。
「でも部長、一体何人の女と関係を持つんですか」
腹を撫でながら一江が言った。
「俺にも分からんよ」
「部長はずっと清潔な人間関係でしたよね」
「お、おう」
「山中先生の子どもたちを引き取ってから、あれよあれよと言う間に、なんですかこの色魔状態は」
俺はもう一度一江の腹を殴る。
「はぁ。まあ、何かあれば私もそれなりの対処をしますけどね。でも、まさか子どもたちにまで手は出してないですよね」
「当たり前だ!」
「亜紀ちゃんとか、勘弁してくださいよね」
「大丈夫だ。一度だけ一緒に風呂に入ったくらいだ」
「ま、まあ、そのくらいなら」
「ああ。大学を卒業してから、ということを話してるからな」
「「!」」
「ロリ野郎がいるー!」
「バカ! 黙れ!」
何事かと部下たちが見ている。
俺は一江の肩を組み、ニッコリと笑った。
「お前も笑え!」
笑った。
小声で話す。
「いい加減にしてくださいよ! マジでぇ!」
「俺だってそうしたいよ!」
「山中先生、生き返ってきますよ!」
「おう、そうしたら大歓迎だ!」
「バカ!」
「あんだとこのやろう!」
二人で落ち着こうと言い合った。
「栞は知ってるんですか?」
「ああ、亜紀ちゃんのことも峰岸のこともな」
「そういうところはちゃんと言うんですね」
「お前にだって全部話すじゃないか」
一江が俺をまじまじと見つめる。
「確かにそうでした」
「ふん」
「とにかく、亜紀ちゃんにだけは「まだ」手を出さないで下さいね」
「分かってるよ! 大学生になったってな!」
「切っちゃった方がよくありませんか?」
一江が俺の股間を掴む。
「勘弁してくれ」
「ところで、先週末は大人しくしてたんでしょうね」
「ああ。栞と鷹が遊びに来て、鷹のマンションまで送って」
「そこでやったと」
「はい」
「日曜日は六花とバイクで遊んで。ああ、そういえば麻布の店でヘンなことを言われたな」
「え、ちょっと待ってください。まったくいい加減にしてくださいよね!」
一江はまたPCとスマホで検索する。
持ってくる。
「あなたは本当はバカなんですか!」
店の監視カメラらしい映像がアップされていた。
他にも数人のスマホ撮りらしき動画。
「やっぱ六花は綺麗だなぁ」
一江にチョップを入れられる。
「あのですねぇ。火消の苦労をもうちょっと分かってくださいよ!」
「すまんこって」
「まあ、最初の私の悪ノリもありましたから、これからも頑張りますけどね! でも、そろそろ本当に自重してくださいって!」
「申し開きもない」
響子の部屋へ行った。
走って1分ちょっとで着いた。
「タカトラー!」
六花が丁度タブレットを響子に渡したところだった。
早ぇ。
「あ、六花! コレじゃない?」
「ほんとですね。石神先生、カッコイイですよ!」
二人で楽しそうに眺めている。
「響子、この店は近いから今度一緒にバイクで行くか?」
「ほんとー! 絶対に約束ね!」
「ああ、必ず行こう」
「じゃあ、あの特攻服着てっていい?」
「もちろんだ。みんな「六根清浄」の仲良しだもんな」
「うん!」
俺は麻布の店のサルサバーガーの美味さを語った。
響子は楽しみだと喜んだ。
響子が幸せそうに俺を見ている。
六花も同じ目で俺を見つめる。
一江、やっぱ自重は無理そうだ。
俺はこいつらが大事なんだ。
苦労をかけるな。




