やっぱり、コーヒーの味。
鷹が遊びに来た翌日の日曜日。
俺は六花とバイクで走った。
首都高を適当に回る。
俺たちはまた、麻布でハンバーガーを食べた。
何度か来ているので、店員が顔を覚えて話しかけてくる。
「いつもありがとうございます。お二人が見えるようになって、お客さんも増えたんですよ」
「そうなんですか」
「はい。物凄い美男美女のカップルの常連の店として、噂になってまして」
六花が嬉しそうな顔をしている。
「大食い女の噂じゃなくて?」
今日は六花が4個のバーガーに挑戦している。
「いいえ! とてもお綺麗な彼女さんですよね」
「バイ、アギャドウゴビャイヴァズ」
店員が笑って戻った。
上機嫌の六花に、俺は鷹のことを話した。
六花は別にショックを受けていない。
「じゃあ、週休一日になったんですね」
「お前なぁ」
六花の感覚は、恐らく他の女たちも同じなんだろう。
俺に自由を与え、自分が愛するということだけを持っている。
「お前はあんまり峰岸とは交流はないよな」
「はい。お名前だけは、石神先生の関わりなので存じてますが」
「今度紹介するよ。明るくていい奴だ」
「はい」
六花の方は問題ない。
鷹は六花をどう思うだろうか。
こいつのことを事前に話しておくか。
しかし、こいつのアレは、説明しておくべきか?
六花はバーガーを全部平らげた。
「じゃあ、今日は私の日ですね」
「あ?」
「うちのマンションでいいですよね」
「おい」
俺は昨日のこともあり、後ろ暗い気持ちもあった。
流されて六花のマンションに寄る。
バイクなので、同じ六花の駐車場に並べて停める。
六花は、少しそれを眺めて、嬉しそうに俺の腕を組んだ。
六花のマンションは、いつも綺麗に片付き、掃除も行き届いている。
「お前のマンションは、いつも清潔でいいな」
「はい。いつでも石神先生がいらしても大丈夫なように」
前はものすごい部屋だったはずだが。
こいつも、徐々に変わってきている。
六花がリヴィングでいきなり裸になる。
「おい! コーヒーくらい出せ」
渋々と、そのままコーヒーを煎れに行く。
裸エプロンの情緒すらもねぇ。
俺にコーヒーを置き、そのまま目の前のテレビ台を開いた。
本当に、いつ俺が来てもいいようになっていた。
「道具」の数々をテーブルに並べ、俺のカップを囲む。
DVDをセットし、映像を流し始めた。
画面の中で、目の前のものとそっくりな「道具」を使っている。
六花が道具を持って俺を見つめ、目で早く飲めと訴えている。
俺はコーヒーを飲みながら、六花の準備を確認した。
確認するまでもなく、完了していた。
家に戻ると、亜紀ちゃんだけがリヴィングにいた。
「あ、お帰りなさい!」
何も言わなくてもコーヒーを淹れてくれる。
「ちょっとお疲れじゃないですか?」
「ああ、「走り」過ぎたかな」
「気を付けてくださいね」
亜紀ちゃんは大好きなホットミルクを作って、テーブルに一緒に座った。
「ああ、そういえば」
俺は亜紀ちゃんと羽田に行った時の動画が流れていることを話した。
亜紀ちゃんはすぐに自分の部屋からノートパソコンを持って来て、俺と一緒に確認する。
「あ、ほんとだ!」
嬉しそうに動画を眺める。
「良かった。これでいつでもあの時の映像が見れますね」
「だったら早めにダウンロードしておいた方がいいぞ」
「なんでですか?」
「一江が近いうちに削除するかもしれんからな」
「どうしてですか! もったいないじゃないですか!」
「そんなこと言うな。亜紀ちゃんを守るためだよ」
亜紀ちゃんは目をうるうるとさせた。
「私のためですか」
「ああ。こんな美人の動画、誰がヘンな気を起こすかもしれんからな」
亜紀ちゃんが俺に抱き着いてきた。
「ありがとうございます」
亜紀ちゃんが、俺の腿に乗って来る。
そのまま腕を首に回した。
キスをされた。
「ファーストキスって、コーヒー味なんですね」
亜紀ちゃんが笑い、俺は大笑いした。
俺は亜紀ちゃんの腰に手をやり、抱きかかえて立たせた。
「うわー」
俺の腕力に感動している。
「じゃあ、風呂に入るからな。亜紀ちゃんも早く寝ろよ」
「え、じゃあ私も一緒に!」
「バカを言うな!」
俺は脱衣所に入り、鍵をかけた。
ガチャン。
「あぁー!」
後から来た亜紀ちゃんが大声を出す。
「あ、あの時、柳さんって!」
何かを思い出したらしい。
クスクス笑いながら去っていく足音が聞こえた。
週休一日かぁ。
貴重な一日は死守せんといかんなぁ。




