《オペレーション・チャイナドール》 X
《異常な霊素反応を感知。妖魔ではありません》
《レイ》からそう通信が来た。
俺は一瞬で悟った。
「虎王」を握った俺には。分かったのだ。
隣の聖に言った。
寸秒の猶予も無い。
「聖! 「神」が出る!」
「なんだと!」
「俺が行く! 何とか頼むぞ!」
「おい、トラ!」
聖が叫んだが、俺はそのまま大空洞へ飛び込んだ。
俺が戦線を離脱することで、他の連中の大きな負担になることは分かっている。
だが、「神」の出現は絶対に放置できない。
あいつらが出てくれば、この戦線は崩壊する。
下級神ではなく、もっと上の奴らだと俺には感じられたのだ。
「虎王」が標的の位置を感じさせてくれる。
俺には「虎王」の感覚で、中級神の強烈な波動を感じていた。
54柱もいやがる。
「業」はどうやら今の激しい戦闘で死んだ妖魔を苗床にして召喚しやがった。
どこまでも抜け目がない。
とんでもない膨大な数の妖魔だけでなく、一気に決着をつけるともりだ。
しかも「神」の放つ波動のようなもののせいか。周囲の妖魔たちが離れて行く。
俺はその空間に向かった。
周囲にはまるで結界のようなものが展開されていた。
「神」が妖魔と一緒の空間にいることを嫌っているかのようでもあった。
俺がその結界ごと切り裂き、内部へ飛び込んだ。
俺と54柱の神々だけになる。
ここが正念場だ!
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
トラが抜けたせいで、妖魔が抑え切れなくなった。
俺に託してくれたのに情けない!
でもどうにもならねぇ。
トラの攻撃が余りにも凄まじかったのだ。
スピードの速い奴らが、たちまちに移動してしまう。
それを追うことすら出来なかった。
決壊したところから物凄い速さで飛び出して行った。
「クッソォォォォーーーー!」
石神家の剣聖がさらに10人程応援に来た。
竹流も来てくれた。
それで何とか大空洞から漏れ出す奴は留まったが、既に出た奴らがいる。
《妖魔20京、日本へ向かっています》
《レイ》から通信が来た。
「20けい」ってなんだか分からんが、とにかく大量の妖魔がここから脱してしまったのは確かだ。
それが日本へ向かっているだと!
「業」はこちらが隙を見せると、たちまちに次の手を打ちやがる。
敵としても大したものだ。
でも俺たちにはどうしようもない。
もうここは一杯一杯だった。
飛び出した妖魔たちは《ウラノス》が何とか対処するだろうが、一体どうなるのか。
トラが最も気にかけている日本に上陸したら、どんなことになるのか。
でも今はここで戦うしかねぇ!
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
超量子コンピューター《オオサカ》から緊急の発報があった。
タカさんたちが中国大陸で大規模な侵攻作戦を始めていたのは知っていたが、どうもとんでもない数の妖魔が出て来て日本へ向かっているようだった。
その数20京。
当然これまでに無いほどの膨大な数の妖魔だ。
そんな数が日本へ到達すれば、防衛機構も何も無い。
あまりにも数が多すぎる。
《オオサカ》は金沢を中心に侵攻して来ると予想していた。
僕たちがいる大阪、それに京都の道間家が一番近いが、《御虎シティ》や全国から応援を頼む必要がある。
「道間城」には常に石神家の剣聖の方々が控えているのだが、今は中国大陸に駆り出されてしまっていた。
一部のソルジャーたちも同様で、今の日本では防衛線力が足りない。
いつもの状態であっても、29京はあまりにも大規模過ぎるのだが。
応援は欲しいけど、他の拠点が手薄になれば、そこを狙って「業」が新たな攻撃を仕掛けて来る可能性もある。
「風花さん、中国から20京の妖魔が日本へ向かっているそうです!」
「ええ、急ぎましょう!」
僕らはすぐに石川県の輪島市の日本海側に向かった。
敵はウラジオストックあたりに集結しつつあるようだ。
大阪にいる戦える人間は総動員し、《語虎シティ》からも応援を頼んだ。
今は肝心の石神家のみなさんは全員中国へ飛んでいた。
アラスカからの応援を待つしかないが、恐らく間に合わない。
麗星さんから連絡が来た。
「天狼を連れて参ります」
「ありがとうございます!」
麗星さんが天狼を連れて来てくれるらしい。
麗星さんの「大赤龍王」がいてくれると頼もしいが、天狼もきっと強力な能力を持っているのだろう。
僕たちでも、道間家のことは詳しくは知らなかった。
でも天狼はまだ12歳だ。
強いとはいえ、どれほどの能力を持っていることか。
やはり僕と風花さんが中心となるだろう。
輪島市の日本海沿岸に着くと、霊素観測レーダーから詳細な情報が来た。
妖魔は20京だが、それ以上は増加しない予測だ。
今は中国大陸ウラジオストックの沿岸に集結し、一度に日本へ来るようだった。
今はまだ集結中で、そう遠くなく終わる。
集団が散開して来れば、まだ防衛腺は楽だろうが、恐らく一挙に来るのだ。
20京もの妖魔が一遍に来たら大変なことになる。
僕たちでは到底手に負えない。
僕が全力で「城壁」を展開しようとしたが、多分意味が無い。
この近辺が幾らか攻撃に耐えるだけで、その後は膨大な数の妖魔に呑み込まれ蹂躙されるだけだろう。
風花さんが僕の手を握った。
覚悟を決めている顔だった。
「大丈夫ですよ」
「ええ」
お互いに微笑んだが、余裕の無さが滲んでいた。
その時、金華と銀華が飛んで来た。
「バカ! 何しに来たんだ!」
「お父さん、お母さん、私たちも戦います」
「お前たちでは無理だ! すぐに帰れ!」
「いいえ、お父さんとお母さんが戦うのであれば、私たちも一緒です。死ぬのならば一緒に!」
「何言ってんだ!」
風花さんがまた僕の手を握った。
「皇紀さん、一緒ですよ」
「風花さん!」
「絶対に勝ちましょう」
「!」
ようやく僕にも分かった。
僕たちは家族なのだ。
どこまでも一緒なのだ。
ああ、タカさんも同じ気持ちだったのだろうか。
僕たちが一緒に戦うと言った時、こんな気持ちでいたのだろうか。
巻き込みたくは無かっただろうけど、僕たちの気持ちを汲んでくれたのだ。
そうか、この気持ちか!
こんな場合なのに。僕は懐かしく、そして嬉しかった。
タカさんも言ってたじゃないか。
僕たちは家族だからと。