《オペレーション・チャイナドール》 Ⅷ
突然目を閉じていたハオユーがこちらを向いて言った。
「《ウラノス》から北京市工作船の承認を得ました。御影大佐、宜しくお願いします」
「そうか、分かった。任せてくれ」
しばらく遅れてズハンも俺に言った。
ハオユーとは別に、石神さんと直接通信していたらしい。
「石神様の承諾も頂きました。《ウラノス》の承認に変更があります。作戦全体が変更されました。全部隊が北京に集結。「イシガミ・レギオン:」も増員の上で同行します。追加で剣聖30,剣士3万を派遣。明朝6時に北京に集結。石神様もいらっしゃいます」
「なんだと!」
流石に俺も驚いた。
俺の単なる予感に対し、それほど根底的に作戦を変更するとは。
それに余りにも大胆な変更が即決されてしまった。
しかも戦力があまりにも巨大だ。
ズハンが少し置いてまた話し出した。
「続けます。超攻撃衛星も上空に移動して待機。「トラキリー」の勧告後30秒で変化の無い場合は総攻撃を開始。「ニーズヘッグ」300,「ウラール」20機で最初に攻撃後、各隊が随時に攻撃。各自「魔法陣」の使用を許可。……」
俺はズハンが次々と話していく内容に驚いていた。
「ちょっと待ってくれ、それは余りにも……」
ハオユーが微笑みながら言った。
ハオユーに更に指示が来たらしい。
「石神様からの伝言です。「御影大佐に感謝する」、以上です」
「なんだと!」
とんでもないことになった。
作戦が根底から変わった。
つまり、中国全土の浄化作戦から、北京攻略に変わったのだ。
しかも、北京を相当強大な戦闘地域と認定したということだ。
どうしてそこまで石神さんは決心されたのか。
俺が戸惑っていると、ハオユーが言った。
「石神様がいらっしゃいます」
「!」
俺と伊庭は慌てて本部テントを飛び出した。
すぐに上空から石神さんが降りて来られる。
二人で敬礼し、お迎えした。
「御苦労」
石神さんも敬礼を返し、テントの中へ入った。
すぐに当番兵が石神さんにコーヒーを持って来る。
「話は聞いた。俺の手配はもう聞いているな?」
「はい!」
「結構大きな戦力を動員する。もちろんお前たちも来い」
「あの、まずは自分たちで」
「うるせぇ!」
石神さんも何かを感じておられたのは、俺にも予測出来た。
しかし流石にもう敵の戦略を見破っていたのか。
石神さんに怒鳴られた。
「北京は半端じゃねぇぞ!」
「え、どういうことです?」
石神さんが話してくれた。
「俺も気になっていたんだ。ここに来る前から何か嫌な予感があったからな。だから「ブレイド・ハート」に散々偵察をしてもらってたんだし、今でもそうだ。それに《ウラノス》にも「業」の戦略パターンを予測させていた」
「そうなんですね」
「だけどよ。幾つものパターンは出来たんだが、俺が納得出来るようなものは無かったんだ。可能性として挙げられたものでも、俺の度肝を抜くようなものではない。だから困ってたんだよ」
「え、じゃあ北京のことは?」
石神さんが大笑いしておられた。
「だからよ! 御影が北京に向かうって言い出しただろう! それで《ウラノス》に北京に絞った「業」の戦略を計算させた。そうしたら分かったんだよ!」
「え、分かりませんが?」
「バカヤロウ!」
石神さんは怒鳴りながら笑っていた。
「元々北京は最終目標だった」
「そうですね」
石神さんは三つの都市、大連、重慶、北京を特に重視し、戦力の高い「紅六花」に侵攻させることに決められていた。
「俺も元々はヤバい気配を感じていたんだ。鷹たちが持って来たデータを見てな。だから「紅六花」に任せた。六花の「クリムゾン・ヘル」があれば都市ごと浄化出来るからな。それに亜紀ちゃんや虎蘭も《ハイブ》攻略を終えて、「紅六花」が北京に着く頃には一緒に行けるだろうってな」
「なるほど、お見事です!」
流石は石神さんだ。
既に考えておられたのか。
「でもよ。《ウラノス》が出した結果は、とんでもねぇものだった」
「そうなんですか! 一体何が起きるんです?」
「あ。分かんねぇ」
「へ?」
あれ?
「まだ分からねぇんだよ! でも何か途轍もないものがあることだけは分かった。《ウラノス》があらためて解析した結果、都市ごとが異空間に繋がってる可能性を言って来た」
「え、それは?」
「「ゲート」どころじゃねぇ。多分だが、とんでもねぇ数の妖魔が出て来る。「業」は中国全土を生贄にして、そんな巨大な穴を空けたんだろうよ」
「!」
「「ヘート」で送り込める妖魔は今では1000兆を超える。それでも脅威なんだが、北京に作った@穴:はそれを遙かに超える数の妖魔を既に内包しているか縫精がある。一挙に地球全土を覆い尽くせるほどの数である可能性があるわけだ。何としてもそいつらを「穴」から出すわけには行かん:
とんでもねぇ……
「だから急いで強力な戦力を集結させる。聖にも声を掛けた。あいつは今ロシア国内の侵攻作戦を準備してるが、こっちを優先させる」
「どれだけの妖魔がいるんでしょうか?」
「だから分からねぇよ。とにかく今までの規模じゃねぇ。俺は妖魔以上の奴の出現の可能性も考えてる」
「それは「神」……:
石神さんがうなずいた。
「ああ、だから俺も行くぜ。恐らく「虎」の軍の最大の戦闘になる。後手に回れば危うかった。100京以上の妖魔が出た場合は俺たちが対応出来ないという《ウラノス》の計算もあるからな。場合によっては最終兵器も出す」
最終兵器とは何なのかは知らない。
多分「虎」の軍の中でもほんの一部の人間しか知らないものだろう。
石神さんは何手も先を見通している方だ。
「でも最終兵器が出れば、恐ろしく広大な範囲が消滅する。中国だけに留まらんだろう。限定的に運用出来ればいいんだがな」
「……」
どういうことかは俺にも分からない。
でも、石神さんはそれを使いたくはないのだということは分かった。
「御影! 全力で対応しろ! 頼んだぜ!:
「はい!」
俺と伊庭が立ち上がって敬礼し、石神さんはそのまま本部テントを出て行かれた。
これから《轟霊号》で作戦会議が開かれるのだろう。
《オペレーション・チャイナドール》の最大の山場が始まる。