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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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《オペレーション・チャイナドール》 Ⅵ

 作戦開始から4日が経過した。

 レベル4以下の《ハイヴ》は全て攻略し、残るレベル7以上のものとそれ以下のハイレベル《ハイヴ》、合計89カ所となった。

 これは当初からの作戦計画の通りで、まずはレベルの低い《ハイヴ》を優先的に潰して来た。

 何しろ中国本土には《ハイヴ》の数が多いので、他の都市侵攻部隊の露払いの意味もあった。

 なるべく周囲の予想外の攻撃を排除するためだ。

 《ハイヴ》はただ大人しくしているだけではなく、そこから攻撃戦力が出て来ることもあるのだ。

 いよいよこれからが本格的な《ハイヴ》攻略になる。

 これまでのように気楽には行かないだろう。

 《ハイヴ》の規模も全く違うし、何よりも底にいる妖魔の強さが桁違いだ。

 特にレベル7ともなると、相当に強い。

 私たちの手に余る可能性だってある。

 タカさんから「魔法陣」の使用に関して限定されているので、場合によっては限定解除の許可を取るか、他に応援を頼む事態もあり得るのだ。

 そういうこともあったので、一度虎蘭さんたちに会いに行った。


 「亜紀ちゃん!」


 虎蘭さんたちは非常にお元気だ。

 剣士120名を連れているが、一人も負傷者は無い。

 圧倒的な戦力で、余裕で《ハイヴ》を攻略している。

 初日は54か所も潰したので驚いた。

 半数は「ウラール」の《シャンゴ》の爆撃も無く潰していた。

 石神家の剣士たちが大勢いるので可能なのだ。

 それにしても物凄い!


 「お元気そうですね!」

 「亜紀ちゃんたちも。3人ではなかなかきついでしょう?」

 「いいえ、まだ低レベルの《ハイヴ》でしたから。《シャンゴ》でほとんどが終わりでしたよ」

 「そうじゃないでしょう。ここでは底にいる奴はなかなか強い。まあ、亜紀ちゃんたちなら大丈夫だろうけど」

 「エヘヘヘヘヘ」


 まあ、今日までのところは本当に楽勝だった。

 真夜と真昼にも疲労は無い。

 作戦上の進捗率で言っても、60%を超えている。

 

 「昨日、「虎酔会」のみなさんにもお会いして来ました。あそこも元気ですよー!」

 「アハハハハハ、そうだろうね。よく一緒に鍛錬してるから実力は分かってる。あの人たちも強いよ」

 「そうですよね!」


 虎蘭さんたちと一緒に食事をした。

 初日以外は、みんな戦場で食事をしている。

 戦場の空気を感じるためだ。

 《轟霊号》で安全・安心で休んでいては、戦場の空気は感じられない。

 まあ、全員戦場生活は慣れているから、さほど緊張も無いのだが。

 もちろん虎蘭さんも平然としているので、思わずからかいたくなった。


 「青月たちに会いたいでしょう!」

 「大丈夫だよ。虎白さんがちゃんと面倒を見てくれてる」


 虎蘭さんの子である青月と美空はアラスカでは無くて盛岡の石神家に預けられている。

 別にアラスカでも良いのだが、虎白さんが二人に会いたいのだ。

 斬さんと同じく、ベタベタのおじいちゃんになる。


 「でも会いたいでしょ?」

 「亜紀ちゃん、何を言ってるの。今はそれどこじゃないでしょ」

 「あー、無理しちゃってぇ!」

 「もう!」


 虎蘭さんの愛情の強さはよく知っている。

 鍛錬を欠かさない人だが、常に子どもたちを傍に置いている。

 そしていつも笑顔を向けている人だ。

 戦うことには貪欲な人だったが、こんなにも熱い愛情を持っているのだ。

 そうじゃないか、強い愛情があるから、あの闘神のような人なのだ。

 タカさんに似ている。


 「あ、もしかして急いで《ハイヴ》を落としてるのは、早く青月と美空に会いたいから?」

 「もう、本当に何言ってるのよ!」


 私たちは大笑いした。

 虎蘭さんの顔が真っ赤になって、それが分かったのだ。

 虎水さんも笑ってる。


 「でもさ、何と言ってもタカさんには会いたいでしょう?」

 「え、うん」

 「「「「!」」」」


 虎蘭さんがあまりにも素直に認めるので、私たちが驚いた。

 虎蘭さんが自分でも気づいて、また真っ赤になる。

 みんなでまた大笑いした。

 しばらく楽しく話し、虎蘭さんが真面目な顔で言った。


 「亜紀ちゃん、分かってるかもしれないけど、油断しないでね」

 「はい」


 私にも感じられていた。

 この《オペレーション・チャイナドール》はあまりにも順調に進み過ぎている。

 「業」からほとんど何の反撃も無いのがおかしい。

 当然、虎蘭さんたちも感じていたのだ。


 「きっと何か来る。それもとんでもないものだよ」

 「虎蘭さんには分かるんですね」

 「うん、感じるよ。怪物が大きな口を開いて待っているような」

 「タカさんに話しました?」

 「うん、高虎さんも感じてた」

 「直接言いに行きました?」

 「あ!」

 「なんだ、チャンスだったのに」

 「その手があったかー!」


 またみんなで笑った。

 でもすぐに真剣な顔になった。

 きっと何かが待っている。

 まだそれは分からないけど、絶対に来る。

 でも不安は無い。

 虎蘭さんたちも、それは同じだった。


 「亜紀ちゃん、私は高虎さんの剣。何があっても敵を斬り裂くだけ」

 「はい」


 この人は本当に凄い。

 自分の生き方、在り方を既に決めていて、常にそれを研ぎ澄ましているのだ。

 タカさんを愛し、子どもたちを愛する。

 でも戦いになれば、虎蘭さんは「自分」を喪う。

 本当に一振りの剣になって、敵を殲滅するのだ。

 そしてその二つのことは、虎蘭さんにとって同じことなのだろう。

 理解出来ていることではないが、私には分かる。





 私もタカさんの剣になりたいのだ。 

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