表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

299/3161

峰岸鷹

 一江に週明けのいつもの報告をさせる。


 「よし、じゃあ水曜日の俺のオペは峰岸を必ず入れてな」

 「了解です!」

 峰岸はオペ看のベテランで、非常に信頼している。

 オペ看は通常はシフトで決まっているが、俺のオペは難手術が多いので、ある程度は人選を自由にさせてもらっている。


 「部長は峰岸がお気に入りですね」

 「まあな。あいつはオペの「流れ」を掴むからな。言われたことをやる、普通の看護師とはまったく違うんだよ」

 「分かります。私も峰岸が入っていると、全然余裕の度合いが違いますね」


 「ところで部長」

 「あんだよ」

 「先週は聞きそびれましたが、最近はネットを騒がすようなことはしてないでしょうね」

 「なんだよ、信用ねぇなぁ。大丈夫だよ。先週は奈津江のお兄さんを呼んだけだしな。送りはしたけど、どこにも寄ってねぇ」


 「先々週は?」

 「ああ、亜紀ちゃんの高校入学祝を家でしたな」

 「それだけですか?」

 「うん。その後ドライブに行ったけどな」


 「え!」


 「お前! なんだその態度は!」

 「すみません。でも、ドライブで走っただけですか?」

 「城ケ島に行って、しばらく海を見た」

 「え!」

 「大丈夫だよ。あんな寒い所、誰もいなかったからな」

 「そうですか」


 俺はちょっと思い出した。


 「じゃあ、大丈夫そうですね」

 「お、おう」

 「ちょっと、部長。何で目線を逸らすんですか」

 「何言ってんだよ。お前がブサイクだから」


 「あー! この歩く東京ドーム! また何かやらかしましたね!」


 「いや、別にあれだけのこと」

 「やっぱり! 白状してください!」


 俺は、帰りにちょっとだけ羽田空港に寄ったことを話した。

 そこで一曲だけ歌ったことも。


 「ちょっと待ってろ! チンドン屋!」

 「……」


 一江は自分のデスクでPCとスマホを検索する。

 たちまちのうちに一つの動画を探し出した。


 「こうなってますよ、オッサンジャニーズ!」


 俺が歌った『エアポートふたたび』が、フルコーラスで出ていた。

 既に10万件の閲覧があり、その前のラーダースーツなどの動画とリンクしていた。


 「部長の脳には、悪性のなんかがありますね」

 一江が俺の頭を小突きながら言う。


 「す、すまんこって」

 「はっきり言って、双子ちゃんでもいい加減聞き分けますって。小学生以下ですね、まったく」

 「……」


 部下たちがこっちを見ている。

 俺が手を振り上げると、一斉に下を向いて仕事に戻った。

 面白くねぇ。

 俺は響子の部屋に向かった。







 「タカトラー、私にも歌って!」

 早ぇ。

 さっきから5分も経ってねぇ。

 六花もベッドに座って、響子と一緒に俺を見ている。

 目が「さあ、どうぞ」と言っている。


 「今度、カラオケででもな」

 「あ、いいですね!」

 六花が響子に「カラオケ」の説明をした。


 「うん! 絶対行こうね!」

 メールの着信があった。

 見ると栞からだった。


 「今日は二時頃に昼食です。絶対に来ること」


 逃げていてもしょうがない。

 俺は部屋に戻った。

 峰岸が来ていた。


 「あ、石神先生!」

 「おお、どうしたんだ?」

 「一江副部長に、オペの資料をいただきに来ました」

 「ああ、宜しく頼むな」

 「はい! こちらこそ」

 俺は部下の視線が痛かったので、峰岸を部屋に入れて少し話をした。


 「どうだよ、調子は」

 「はい、いいですよ。石神部長も絶好調ですよね」

 「なんだよ?」

 「先ほど、一江副部長に動画を見せていただきました」

 「あいつー!」

 峰岸が笑っている。


 「本当に石神先生は面白いですよねー!」

 「……」


 「あ、またお宅に呼んで下さい。久しぶりに亜紀ちゃんとかにも会いたいです」

 「おう。去年は峰岸がいねぇんでお節も作り損ねたからなぁ」

 「すいません」

 「いや、別にいいんだよ。前は峰岸に亜紀ちゃんがいろいろ教わったって感謝しててな。是非また来てくれよ」

 「ありがとうございます」


 「あ、そうだ。今日一緒に昼食をどうだ?」

 「え、いいんですか?」

 「ああ、二時くらいになるけど、大丈夫かな」

 「はい、問題ありません」






 「石神くん」

 「はい」

 「それで、どうして峰岸さんがいるの?」

 「防波堤的な?」


 「あの、お邪魔だったでしょうか」


 「「ぜんぜん!」」

 二人で一生懸命に否定した。

 俺たちは近くの洋食屋「平五郎」に向かった。

 カレーが絶品で、他の料理ももちろん美味い。

 残念ながら、カレーは木曜日なので今日は食べられない。

 カウンターしかないので、込み入った話はしにくい。

 俺の計算だ。


 「はぁ。あの羽田の動画だけど」

 「あ、それさっき私も見ました」

 「え、そうなの。だったら話が早いわ。峰岸さんからも言ってやってよ」

 「はい?」

 峰岸は分かるはずもない。

 俺は簡単にネットでのトラブルの話をしてやった。


 「なるほど。そういうことがあったんですね」

 「まあ、俺が多分に悪いんだけどな。でも最初の方はあの一江の陰謀だから」

 俺は一江のマンションのドアをすべてぶち壊した話をする。


 「でもそっからは全部石神くんの責任でしょう!」

 「はい、すいません」

 峰岸がクスクス笑っていた。


 「石神先生って、本当に面白いですよね」

 「峰岸さん。そんなことを言ってる場合じゃないのよ。本当にこの人は調子に乗るんだから」

 「いや、そんな。ただ亜紀ちゃんのために歌を歌っただけで」

 「そのせいで、亜紀ちゃんがネットで曝されたらどうするの!」

 「花岡先生、そんなに怒らなくても」

 「そーだそーだ」

 「石神くん!」


 カウンターでマスターがびっくりしている。


 「まあ、やってしまったことはしょうがないわ。陽子も何かしてくれるだろうし。でも、本当に気を付けてね」

 「はい、すいません」


 「何かあったら、私も力になりますよ」

 「ほら! こういうのだよ、愛っていうのは!」

 「ちょっと、石神くん!」

 峰岸はまた笑った。


 「ほら、峰岸。おかわりはどうだ?」

 「いえ、大丈夫です」

 栞が睨んでいる。

 峰岸を連れてきて良かった。


 「石神くん、私もうちょっと食べてもいいかな」

 「もちろん。自分のお金で払うんだから、好きなようにするといいですよ」

 「えぇー!」

 「峰岸はもちろんご馳走するからな」

 「ありがとうございます」


 「また木曜日に来よう。ここのカレーは世界最高だからなぁ」

 「私も平五郎のカレーは好きです」

 「そうか! 俺たちは気が合うなぁ!」

 「そうですね!」

 栞が睨んでいる。


 「花岡さんは、あんまりお好きじゃないんだよ」

 「そうなんですか」

 「私も大好きです!」

 マスターがニコニコと笑っていた。


 「本当に石神先生はうちのカレーがお好きですね」

 「「もちろん!」」


 「あ、あたしも」









 俺はちゃんと三人分払った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ