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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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第八回石神くんスキスキ乙女会議 「久しぶり、花見だヨ!」

 石神が顕さんを送り届けた頃。


 「それでは、第八回「石神くんスキスキ乙女会議《久しぶりだね、花見だヨ!》」を開催します」

 「あ、今回はなんか長い」

 「はい、そこ毎回うるさい」


 昨年、新橋で蓼科院長と石神の降臨を経て、呪われた女子会は浄化された。

 しかし、それでも尚、それ以前の悲惨な結末に恐怖し、一江たちは踏み切れなかった。

 それではいけない、一江は思った。

 美しい桜を見ながら、再起出発を決意した。

 ガンバレ、一江。





 今年は気温が低い日が続き、東京の桜の満開は4月上旬にまでずれ込んだ。

 待ちかねた多くの人間たち。

 上野の恩賜公園では、大勢の花見客が集まっていた。


 「ここ、結構いい場所じゃない?」

 栞が弁当を拡げながら言う。


 「ああ、今回はあたしたちの記念すべき再出発だからね。気合を入れたんだ」

 「じゃあ、陽子が朝早くから?」

 「いや。石神部長が懇意にされている便利屋さんに場所取りを頼んだ」

 便利屋は、石神の友人たちが集まると聞き、三日前から居座った。


 「最初はお金はいらない、なんて言うから困ったのよ」

 「そうなんだ」

 「あの人、部長には大変な恩義があるからって」

 「私たちは違うのにね」


 栞の用意した弁当は、花見の定番の唐揚げや卵焼き、ウインナーにチューリップ、様々な種類のおにぎりなど。


 「最初はちょっとコワイ人かと思ったけど、真面目でいい人だったよ」

 「ああ、刺青Tシャツ」

 栞は何度か石神の家で見ていた。

 異様な服装で、ヘンな鼻歌を歌いながら掃除や草むしりなどをしていた。

 亜紀ちゃんたちは慣れていて、親しげに話している。

 特に双子は懐いていて、一緒に遊んだりもしていた。


 一江は酒類を用意していた。

 クーラーボックスにビール各種。

 日本酒にワイン、自分が好きな薩摩焼酎もある。

 大森は栞と同じく料理担当だ。

 得意の中華を大量に作ってきた。

 餃子、シウマイ、春巻き、チャーハン、酢豚、などなど。


 六花は食器類と菓子類を。

 それに、念のためにいつ石神が来てもいいように、振動系の機械も持参していた。

 誰かの肩が凝っても大丈夫だ。


 豪勢な準備が整った。

 各自、好きな酒を手にし、乾杯する。


 「ああー! 色々考えたけど、やっぱり来てよかったー!」

 栞が満開の桜を見て言う。

 冷えたビールを飲んでいる。


 「そうでしょ? 最初栞は渋ってたけど、本当に良かったじゃない」

 一江も上を見上げて、綺麗に晴れた青空と桜とのコントラストを楽しんだ。


 「もう、あたしたちは大丈夫だよな?」

 身体に似合わず慎重派の大森も、嬉しそうに桜吹雪を眺めていた。


 「ばい、だんのじんばいもあじゃぜん」

 六花は口一杯に唐揚げを詰め込んで笑顔になっていた。


 乙女たちは、穏やかな時間を過ごす。


 「それにしてもさー、新橋の乙女会議は笑ったよねー!」

 栞は思い出してクスクスと笑った。


 「うん、部長ってとんでもないことを考えるからねぇ」

 「ああ、あれは酒を飲むどころじゃなかったよなぁ」

 一江と大森も笑っていた。


 「ブホ、バファファファ」

 六花も嬉しそうに頬張っている。


 「栞のお弁当、美味しいな」

 「大森さんの料理も本格的じゃない」

 「あたしの酒があってこそ、だよ!」

 「バファファ、ゴビャバヴ」

 話も弾み、みんなで花見を楽しんだ。

 今日は、本当に来て良かった。


 「あ、そろそろ日本酒をいただこうかな」

 「「え?」」 

 「ヴゃ!」

 栞が紙コップに日本酒を注ごうとするのを、一江と大森が止めた。


 「栞、今日は最後まで穏やかに過ごそうよ」

 「うん、そーだけど」

 「栞、あたしからも頼む。今日はビールにしよう」

 大森が手を掴んで頼んだ。


 「え、もうお腹が膨れちゃうよ」

 「びゃめげず」

 六花も一升瓶の口を上に向けた。


 「えー! 私日本酒飲みたいのにー!」

 三人に囲まれ、栞は文句を言う。


 「はぁ。分かったよ。でもちょっとだけにしてね」

 一江が諦めた。

 栞が飲みたいと言うなら飲ませてやろう。

 よく考えれば、こんな綺麗な雰囲気の中で、何が起きるはずもない。

 ああ、桜がこんなにも綺麗じゃないか。


 他の二人も栞から離れた。

 一江は栞のコップに酒を注ぐ。

 栞は嬉しそうにゴクゴクと飲み、大森の作った餃子を頬張った。


 「おい、ペースが速いよ」

 「だいじょーぶよ! 陽子は心配性ね」

 栞が幸せそうに笑った。

 まぶしい程に美しかった。






 「きれーなねーちゃんたちだなぁ!」

 体格のいい中年の三人組が近づいてきた。

 酔っている。

 男たちの一人が、勝手に栞の作ったチューリップを食べた。


 「お、うめぇ!」

 「やめてください。あっちへ行ってください」

 一江が立ち上がって男たちに言う。

 「ブサイクは関係ねぇ! すっこんでろ!」

 「なんだと、お前ら!」

 親友をけなされた大森も立ち上がる。


 「だからすっこんでろ! ブタゴリラ!」

 男たちは勝手に栞と六花の隣に座ろうとする。

 大森が手を伸ばすと、男の一人が腹に蹴りを入れた。

 大森は膝をついて蹲る。

 蹴った男は栞の隣に座り、身体を密着させる。


 「おい、俺らはなぁ。上野の」


 喋っていた男が悶絶した。

 栞の胸に触ろうとした瞬間だった。

 栞の掌が男の腹に触れていた。

 男は口から泡を吹き、少しの血が混じっている。


 「おっぱいねーちゃん!」


 そう言ったもう一人の男の身体が宙を舞った。

 五メートルも先の桜の幹に激突し、大量の花びらを舞わせた。





 「ま、魔王降臨……」





 一江が呟く。

 最後の一人は栞に慎重に向き合う。

 腹巻から小刀を取り出す。


 「俺たちは上野の」


 栞の手が動いた。

 触れてもいない小刀が粉砕された。

 握っていた右手から大量の血が滴る。


 「アニキっ!」


 向こうから十数人の男たちが駆け寄ってくる。

 桜の木に投げられた男が連絡したらしい。


 「おい、なんだよ、これ」

 「大森、大丈夫か?」

 「ああ、あんな体重が乗ってない蹴りなんて。ちょっと痛いだけだ」


 栞は歩道へ出た。

 手にした一升瓶を煽り、空になった瓶は、不思議と栞の手から消失した。

 頬を膨らませた六花も一緒に出る。


 「この展開は……」

 「大森、急いで片付けるぞ!」




 集まった男たちは、栞に触れることなく次々に倒されていく。

 六花もハイキックで男の一人を沈めた。

 栞に倒される男たちは、徐々に悲惨になっていく。

 手足があり得ない方向へ曲がり、それが関節以外でも曲がっていくようになる。

 一人の男の胸がへこんだ。

 最後の一人は口から大量の血を吐いた。


 「ヤバイ!」


 一江が栞の手を取り駆け出す。

 大森はレジャーシートにすべてをくるんで肩に担いでいる。


 「は! あたしは「タイガー・レディ」!」

 「おい、六花! お前も早く来い!」


 仁王立ちで高笑いしている六花を、一江が叫んで呼んだ。












 

 石神家の夕飯後。


 「へぇー、上野でヤクザ同士の乱闘だってよ」

 「怖いですねー」

 亜紀ちゃんがソファでテレビを見ている石神に、コーヒーを持って来て言う。


 「何言ってんだ。亜紀ちゃんがヤクザごときに負けるわけないだろう」

 「そんなー」

 亜紀ちゃんも自分のマグカップを持って、石神の隣に座る。


 「そう言えば、一江たちが今日は花見をするって言ってたな」

 「そうなんですか」

 「ああ。花岡さんや六花も一緒なはずだ」

 「いいですねぇ。来年はうちも一緒にやりましょうよ」


 「いやー。あいつらと一緒はなー」

 「えぇ、いいじゃないですか。絶対楽しいですよ」

 「でも、最後は血の雨が降りそうだからなぁ」

 「もう、タカさん。何言ってんですか」


 「アハハハハ」

 「アハハハハ」








 石神家は穏やかに時間が流れていた。

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