表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

290/3160

奈津江 Ⅳ

 四人で出かける日。


 俺は御堂を紹介し、栞を紹介された。

 栞は俺たちと同じ、医学部だった。

 美しい女性だった。





 上野動物園に出掛けた。


 「ねえ」

 「なんだ?」


 「私たちは付き合ってるんだから、お互いに名前で呼ぶのね」

 「そうなのか」


 「そうなの!」



 付き合うのに必須なことらしい。



 「ねぇ、高虎」

 「なんだ」


 「「なんだ、奈津江」、でしょ!」

 「なんだ、奈津江」


 腕を組んで頷いている。

 カワイイ。




 「何から見に行く?」

 「順路でいいんじゃねぇか?」


 奈津江と栞は相談した。

 猿山に行きたいと言う。




 「あ、一杯いるよ!」


 俺は柵に寄りかかって、猿たちを見た。

 俺を見ている奴がいたので、手を振った。


 猿がリンゴを投げてきた。



 「おい」

 「「「え?」」」



 三人が呆然と見ている。

 

 「奈津江、喰うか?」


 「いらないわよ!」



 「すいませーん! 大丈夫ですかー!」

 下から飼育員の人が声をかけてきた。


 「あいつ、気に入った人に投げる癖があって。大丈夫でしたかー?」


 「はい! これ、戻しますね!」


 俺は飼育員にリンゴを放った。




 「高虎って、猿にもモテるの?」

 「知らねぇよ」


 御堂が腹を抱えて笑っていた。

 栞も笑っている。



 「ちょっと離れて歩いてください!」

 「おい」


 「だって、いろんなもの投げられたら嫌だもん!」


 「……」





 俺たちはブラブラと歩いた。


 シロクマが水浴びをし、フラミンゴが音楽に合わせて行進した。


 奈津江は大喜びでいろいろな動物を見て、栞も楽しそうだった。


 「悪いな、連れ出しちゃって」

 俺は御堂に話しかけた。


 「いや、僕も楽しいよ」





 虎の檻に言った。


 「寝てるね」

 つまらなそうに奈津江が言った。


 「どうしてれば良かったんだよ」


 「うーん、獲物を狩るとか?」

 「それは無理だろう。切り身を喰ってるんじゃないか?」




 「じゃあ、高虎が戦ってくるとか」

 「無茶言うんじゃねぇ」


 「でも、なんか勝てそうじゃない?」

 「得物があれば、なんとかなるかもな」


 栞の目が輝いた。


 「ナイフとか?」

 「ああ、そうですね。刃渡りが長いものがあれば」


 「ちょっと、ダメよ栞!」

 奈津江が立ち塞がった。



 「付き合って早々に未亡人になりたくない」

 「喰われる前提かよ」


 俺たちは笑った。





 最後に、メインのパンダを見に行った。


 いなかった。



 「詐欺よね、これ!」

 「しょうがねぇだろう」





 俺は子どもの頃の話をした。


 「最初にランランとカンカンが来た時にさ、日本中が大騒ぎだったじゃない」


 「うん」


 「うちは貧乏で行けなかったんだけど、親父が誰かにでかいパンダのぬいぐるみをもらってきたんだよ」

 

 「へぇー」


 「俺は大して嬉しくもなかったんだけど、近所の奴らが持ってたのが、ずっと小さいものだったのな。だからみんなうちに見に来たわけだよ」


 「そうなんだ」


 「そのうち、俺も大事にするようになってさ。やっぱりみんなが羨ましがるからな。カワイくなってきた。毎晩一緒に寝たりな」


 「なんかイメージじゃない」


 「俺だってカワイイ子ども時代があったんだよ!」


 三人が笑っている。




 「だけどな。ある日学校から帰ったらパンダがいねぇの」

 「どうしたの?」


 「お袋に聞いても知らないって。盗まれたのかと思ったよ」

 「かわいそう」


 「その晩に、新しい枕が出たのな」

 「え?」


 「お袋が、パンダの中身を引っ張り出して、枕に仕立てたんだよ」

 「「「えぇー!」」」


 「優しいお袋だったんだけどなぁ。あの時だけはちょっと怖くて泣いたな」


 三人が大笑いした。





 「あのパンダも中身を抜かれてる最中だったりして」

 「お前、怖いこと言うなよ」


 「泣いちゃう?」


 奈津江がニコニコしていた。



 「パンダって、雑食らしいよ」

 御堂が言った。


 「へぇー。お前何でも知ってるなぁ」


 「それでね。ここじゃ笹とか食べてるじゃない」

 「うん」


 「だから大人しいんだけど、肉をやると狂暴になっていくんだって」


 「お前、肉好きだろ!」


 奈津江が俺の胸を叩いた。


 



 奈津江が栞に、「付き合ってく自信がない」と言った。


 「じゃあ、私に譲って」








 「絶対にダメ!」


 そう言う奈津江が、本当に愛おしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ