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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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亜紀、ドライブ。

 亜紀ちゃんは、当然のことながら、志望高校に合格した。


 主席だった。

 当たり前だ!




 三月後半の土曜日。


 みんなでお祝いをした。


 まあ、昼に寿司をとって、おめでとうと言っただけだが。

 もちろん、寿司の量は尋常ではない。




 亜紀ちゃんが好きなネタを言い、それを好きなだけ注文していいということにした。

 他の三人は俺が決めて、適当にとった。


 亜紀ちゃんは戦争もなく、好きなだけ寿司を堪能した。



 「タカさん。僕も中学生になりました」

 「ほう」


 「僕のお祝いはどうなるのでしょうか」

 「あんだと?」


 「いえ、何でもありません」



 皇紀は中学生になったそうだ。

 へぇ。




 まあ、義務教育のうちなんだから、別に祝う必要もない。

 

 「まあ、高校生になったらな」


 「はい」




 亜紀ちゃんは努力して、一流校に入った。

 だから祝う。

 皇紀は努力している。

 中学生になった。

 ふつー。



 「皇紀ちゃん、どんまい!」

 「そのうちいいことあるって!」


 双子に慰められた。




 一応、皇紀にはミニコンポを買ってやった。

 DENONだ。

 それにDALIのスピーカーだ。

 クラシックがいい音で鳴る。



 亜紀ちゃんにはエルメスのケリーバッグを。

 まあ、使うことは少ないだろうが。






 亜紀ちゃんは幸せそうに寿司を食べている。


 「皇紀ー!」


 皇紀が亜紀ちゃんを見る。


 「この大トロね、本当に美味しいよ!」


 箸でつまんで振って見せる。

 悪魔だ。


 「タカさーん!」

 皇紀が俺を呼ぶ。


 俺に言っても知らねぇ。

 大トロは、とっくに双子に喰われていた。








 食事を終え、俺は亜紀ちゃんとドライブに出掛けた。


 「どこか行きたいところはあるか?」


 「じゃあ、海が見たいです」



 みんな同じことを言うなぁ。

 俺はフェラーリを横浜方面へ向けた。






 「亜紀ちゃん、仲良しの二人とは別な高校になったな」


 「はい。残念ですが、こればかりは」


 「まあ、こう言っちゃなんだけど、本当の友達は一緒にいる必要がねぇからな。だから、俺なんかはやっぱり高校以降の友達が断然多いよ」


 「なんでそうなるんですかね」


 「それはな。一緒に「苦労をした」という体験なんだ。思い出って、楽しいことを一緒にやってもダメなんだよ。むしろ、辛いこと、嫌なこと、悲しいことを一緒に体験したことが、後から美しい思い出になるのな」




 品川を抜け、また湾岸道路を目指す。

 まだ3時台なので、そとは明るい。




 「高校のお友達って、どういう方々なんですか?」


 「暴走族の連中や、柔道部だよな。「ルート20」の連中は、何度も死に掛けた経験もあるしなぁ。柔道部は練習がきつかったとか、先輩にいびられた、とかな」


 「なるほど」



 「それでたまに集まるじゃない。そうすると、本当にくだらない話しかしねぇんだよ」

 「どんなことですか?」


 「例えば柔道部の奴なんて、ハナクソが手に突き刺さった話とかな」

 「えぇー!」


 「そいつが冬場に鼻をかんだんだよ。思い切り。そうしたら、鼻の中で硬く尖ったハナクソが掌に突き刺さったのな。手が真っ赤になってるから、俺らは鼻血が出たと思ったんだよ。そしたら「イッテェー!」って言うの。見たら1センチくらいのハナクソが突き刺さってたんだよ」

 「アハハハ!」


 「今でもそいつが来ると、「おい、手を見せろ」だからな。まだ痕が残ってんだよ」

 「おかしい!」


 亜紀ちゃんは大笑いしていた。



 「な、くだらねぇだろ? でも、そういう話で、あの時にみんなで頑張ったよなって時間が甦るんだよ。それが「思い出」というものだ」




 「そうかー」



 目を輝かせ、前を見つめる亜紀ちゃんは綺麗だった。





 「大学の時は、御堂とか山中とか。それに花岡さんもな」


 「はい」



 



 「あの」

 「なんだ?」


 「前からお聞きしたかったんですが」

 「うん」


 「どうしてタカさんは結婚しなかったんですか?」


 「結婚なんてできる人間じゃなかった、というだけだよ」


 「そんなこと、絶対にないです!」


 

 軽く流すことはできなかった。



 「タカさんは、私が知ってる誰よりも優しいです。それに誰よりもカッコイイ。ダンディでお金持ちで。大事な人をいつも大切に思って何でもやってくれるじゃないですか」


 「そんなことはないよ」


 「いえ! タカさんは素晴らしい方です!」


 「おいおい」


 俺は苦笑するしかなかった。




 「私たちのことだって。タカさんは苦労すると分かっていながら引き取ってくれました。それはあの日に私が「助けてください」と言ったからですよね?」


 「……」



 車は三浦半島に入る。




 「あの、すみません。タカさんの個人的なことなのに、夢中になってしまって」


 俺は亜紀ちゃんの頭を撫でた。


 




 「俺が結婚しないのは、結婚したかった人がいたからなんだよ」


 「その人は?」


 「死んでしまった。だからもう結婚できない。そういうことなんだけどな」


 「……」




 「大学時代に、花岡さんの友達がいたんだ」




 俺は奈津江のことを話し出した。

 亜紀ちゃんに、どこまで話すのか、そういうことすら考えられずに、俺の中から溢れてきた。








 溢れ出たものは、もう止められなかった。

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