六花、マーキング。
翌朝、六花は早く起きた。
俺は抱き着かれて目を覚ました。
「身体は大丈夫か、六花?」
「はい。久しぶりに酔いつぶれてしまったようです」
「緊張していたんだろう」
「はい」
「お前は英語が苦手だからなぁ」
「はい」
六花は、俺の身体をまさぐってくる。
外は明るくなっているが、まだ日は昇っていない。
「元気そうだな、タイガー・レディ」
クゥーっと六花が呻く。
身体を折り曲げて喜んでいる。
「シャワーを浴びよう。お前、酒臭いぞ」
ニコニコして俺を見ている。
「じゃあ、一緒に」
俺は手を引かれて一緒にシャワーを浴びた。
丁寧に全身を洗われた。
浴室で求め合い、濡れた身体のまま、ベッドにもつれ込む。
8時頃に会計をしようとすると、既に全額支払われていると言われた。
俺たちは駐車場のバイクに跨った。
「タンパク質を補いましょう!」
「普通に食事と言え!」
昨日の店ではもったいないので、もう一軒の有名店へ行く。
俺と六花は、でかい第七艦隊バーガーを二つずつ注文した。
俺はコーヒーを、六花はトマトジュースを頼んだ。
「おい、タイガー・レディ!」
「はい!」
元気よく返事する。
「お前、俺の女なら、英語くらい話せないとな」
六花はトマトジュースを噴出した。
店員が慌てて布巾とティッシュの箱を持ってくる。
「お前なぁ」
「すいません。でも石神先生がいきなり」
「俺の女で英語を話せないのは、お前だけだぞ?」
「え?」
「響子はもちろん。栞だって話せる。柳もそうだし、緑子だってな」
「緑子さんというのは?」
しまった。
「な、なんでもねぇ」
「そこのところを詳しく」
「うるせぇ! 今はお前の話だぁ!」
六花が俺を睨んでいる。
睨みながら、片手の指を折って数えている。
「週休二日ですね」
「いや、なんの話?」
「でも、どうして石神先生の女は英語が話せないといけないのでしょうか」
「お前が英語を聞くたびにビクビクしてるのを見てられないんだよ」
「!」
「別に大したことじゃないんだぞ? 俺だってカタコトのうちだ。でも意志疎通はちゃんとできる。その程度でいいんだよ」
「はい」
「今度、アビゲイルに頼んでみる。前に俺も勧められたしなぁ」
「じゃあ、石神先生と一緒にレッスンを!」
「俺は別に必要ねぇからな」
「そんなぁ」
「六花は頭が悪いわけじゃないからな。やってみればいいんだよ」
「はい、いつものアレですね」
「アレだよ」
「夕べ、マリーンと繋がりができたからな。今後はお前も一緒に行動することもあるかもしれん」
「そうなんですか?」
「まあ、分からんけどなぁ」
俺たちは足りなくて、第七艦隊バーガーをもう一個ずつ頼んだ。
「大丈夫ですか?」
店員が心配そうに聞いて来る。
「タンパク質を大量に喪ったので」
六花がそう答えた。
帰りの途中、六花が羽田空港に寄りたがった。
仕方なく、付き合う。
「マーキングをします」
よく分からないことを言った。
朝にあれほど食べたのに、もう小腹が空いている。
また下の店でホットドッグを食べた。
「こないだ、亜紀ちゃんとも来たな」
「マーキングへのご協力、ありがとうざいます」
「……」
六花は、はみ出したソーセージを舐めながら俺を見る。
「もうタンパク質は補えましたね」
「バカなことを言うな!」
「あ、そうだ!」
六花は、俺を展望デッキへ引っ張っていった。
椅子に一緒に座る。
「誰か撮ってくれませんかね?」
「何を考えてんだ?」
俺たちはしばらくのんびりと昼の羽田空港を眺めた。
いつの間にか眠ってしまった。
俺が先に目を覚ます。
ぐっすりと眠っている六花を揺り起こした。
「お前、よだれが出てるぞ」
「はっ!」
慌てて手で拭う。
翌週の月曜日。
六花は一江に何事か頼んで部屋を出て行った。
数分後、一江が俺にスマホを持ってくる。
俺と六花が寝ている画像だ。
六花の少し微笑んだ美しい顔。
口からはよだれが零れていた。




