マグロを食べよう。
響子が寝ている。
最近、一日の行動が変わった。
朝、8時半に起床。
9時に軽い朝食。
このあたりは一般の入院患者と違う。
大分遅い。
ちなみに、一般の入院患者の食事は、病院側の都合に拠っている。
食事の時間帯を早めないことには、業者に負担をかけるためだ。
響子の場合は、直接ホテルなどから取り寄せるので、関係ない。
食事が終わると、響子はセグウェイに乗る。
俺が許可した範囲を巡回し、所々で挨拶する。
たまに、検査を受けるときもある。
そういう時は、多少不機嫌になるので、六花がその前に遊んでやっている。
30分も乗っていると疲れてくるので、ベッドに戻る。
本を読んだり、映画を観ることもある。
体調による。
昼食の後は、今まで通りに俺が抱いて部屋に連れて行く。
甘えてきたらベッドに戻し、昼寝をする。
2時間ほどで目を覚ますので、またセグウェイに乗る。
今度は六花が一緒にいて、屋上で遊ばせるか、六花も一緒に遊ぶ。
1時間ほどでまたベッドに。
夕食までまったりと過ごす。
ここまでセグウェイに夢中になるとは思わなかった。
「寝たな」
「寝ましたね」
「おい、一緒にマグロを喰いに行こう」
「はい! すぐに着替えてきます!」
規定ではないのだが、暗黙のルールとして、看護師服では外で食事をしない。
白衣も同様だ。
店に入ると、ギョッとされることがあるためだ。
別に病原菌に塗れているわけではないのだが、そういうイメージがある。
俺たちは、近くのビルの地下にある、マグロを売りにしている寿司屋へ入った。
相変わらず客は少ない。
路面店であれば違うのだろうが。
しかし、推しているだけあって、確かにマグロが美味い。
俺と六花はマグロづくしの20貫を頼む。
ランチメニューにはない。
「美味しい!」
六花が喜んでいる。
マグロを味わいながら、俺は六花に相談した。
「週末のツーリングはどこへ行こうか?」
「え、石神先生にお任せしますが」
「いや、ツーリングはみんなで話し合って決めないとな」
「!」
「お前! なんで涙ぐむんだ!」
六花は俺をじっと見ている。
「いえ、嬉しくて」
「ヘンな奴だな」
苦笑しながら言った。
「それで、お前は行きたい所はないのか?」
「はい、そういうことでしたら、海が見てみたいかと」
「海かぁ。いいじゃないか!」
六花が嬉しそうに微笑んだ。
「それと、ハンバーガーの美味しいお店!」
「お! 今日の六花ちゃんはいつも以上に綺麗だな!」
「アハハハ!」
「よし、じゃあ横須賀なんてどうだ?」
「行ったことありませんが、両方揃っているということですね」
「ああ。やっぱりハンバーガーはアメ公のが美味い。横須賀は海軍基地があって、米兵が好む店が多いんだよ」
「なるほど!」
「ドブ板の店がいいんだよ。牛肉からの肉汁がまたすごくてなぁ」
「すぐに行きたいですね!」
「じゃあ決まりだな!」
「あー、なんか楽しくなってきました!」
「俺もだぁ!」
俺たちは、しばらくハンバーガーの話で盛り上がった。
会計の時に、大将に言われた。
「マグロも、どうぞよろしく」
「「すいません」」
病院へ戻りながら俺は幾つかのコースを話したが、やはりできるだけ海沿いを行こうということになった。
響子と三浦半島にドライブへ行ったコースだ。
「なんだか燃えて来たな!」
「はい、そうですね!」
「たまには響子にセグウェイで勝って泣かすか!」
「泣いた響子もカワイイですよね!」
「「よし!」」
俺の部屋の内線が鳴った。
「今、響子が起きました」
「よし、すぐ行く!」
俺たちは三人で屋上に上がった。
パイロンでコースを作る。
「じゃあ、三周して一番早くゴールした奴が勝ちな!」
俺と六花は本気で走った。
呆気なく、響子に負けた。
走りなれているということ以上に、響子の体重が軽かった。
俺はハングオンでコーナーを攻めて、派手に転んだ。




