紅の友 Ⅸ
双子がいつものように、俺を起こしに来た。
ドアをガチャガチャしている。
当然、俺は夕べは鍵を掛けていた。
六花がいるからだ。
「アレ? 鍵がかかってるよ?」
「ほんとだ。困ったね」
「緊急事態?」
「密室殺人だぁ!」
「じゃあ、花岡バスターで開けるね!」
2秒で物騒なことを言い始めた。
「おい! よせ! 生きてるって!」
俺は慌てて起き上がって叫ぶ。
「今朝はゆっくり寝たかったんだ! もう起きたからな!」
「「はーい!」」
双子がクスクスと笑いながら去っていった。
危うくドアが吹っ飛ぶどころか、命まで危なかった。
MBT以上の猛獣と一緒に暮らすのは大変だ。
もちろん双子もジョークのつもりだろうが、花岡の技を使いたがってるのは分かってる。
何か理由をつけて、本当にぶっ放しかねない。
六花が俺を見ている。
俺の腕を掴んでいる。
俺は上になって、軽くキスをした。
舌を絡めようとしてくるので、顔を離す。
不満そうな顔をしやがる。
「おい、起きるぞ」
「はい」
いつものごとく、六花は裸だ。
今日は、それを見せつけるように床に立っている。
俺の反応を見ている。
「あ」
反応してしまった。
「いい加減にしろ!」
俺は顔を洗い、急いでリヴィングへ降りた。
六花には、ゆっくりと来いと言ってある。
「「「「おはようございます!」」」」
「石神さん、おはようございます」
「おはようございます」
子どもたちと一緒に、タケたちが挨拶してきた。
「ああ、おはよう。ゆっくり眠れたか?」
「はい、いいベッドでした」
「そうか」
六花が降りてきた。
またみんなが挨拶する。
「石神先生、おはようございます」
「ああ、おはよう」
六花はニコニコしながら挨拶してきた。
朝食は、パンケーキにした。
それほど種類はないが、好きなようにトッピングが選べる。
双子がタケたちに、自分たちのベストの組み合わせを教えた。
「かぁー! また朝食もオシャレですねぇ」
「こんなの食べたことないぞ」
六花はたっぷりと生クリームを乗せ、フルーツを幾つか選んだ上に、はちみつを少し垂らした。
ニコニコしてそれを頬張っている。
「六花さん、今朝はゴキゲンですね!」
亜紀ちゃんが目ざとく言った。
「はい!」
元気がいい。
タケたちも嬉しそうに見ている。
子どもたちが食事の後片付けをしている間、俺たちはゆっくりとコーヒーを飲んだ。
「今日はどうするんだ?」
「はい。総長のお宅へ、荷物を取りに寄ってから帰ろうかと思います」
「そうか。何か寂しい気がするな」
「そうですね」
俺と六花が言った。
「ありがとうございます」
「そうだ、こないだ冗談半分で六花に言ったんだけどよ」
「はい」
「久しぶりにバイクに乗りたくなったなぁ」
「「「いいですね!」」」
「そうだよな!」
「石神さんは、何に乗るんですか?」
タケが大乗り気で聞いてきた。
「うーん、カワサキの「Ninja 1000SX」もいいんだけど、やっぱりドカティの「スーパーレッジェーラ V4」がいいかと思ってるんだよ」
「なるほど!」
「怪物ですよねぇ」
さすがにタケもよしこも分かってる。
「総長はいかがですか?」
「あたしは乗りなれた「CBR」とかで」
「じゃあ、六花は「Ninja」にしろよ。そうすれば俺が両方乗れる」
「でも、私にはちょっとパワーがありすぎます」
「そんなの、俺が幾らでも教えてやるよ」
「今、即決しましたぁ!」
タケたちが笑った。
「じゃあ、本当にお二人が買われたら、教えてください。あたしらも用意しますから」
「そうかよ。じゃあ本気で考えてみるか!」
「一緒にツーリングに行きましょう!」
「そうだよな!」
「どこがいいですかねぇ」
よしこが楽しみそうに、そう言う。
「うーん。お前らとならどこへ行っても楽しそうだけどな。ああ、群馬にいいとこがある。知り合いのでかい家なんだけど、押しかけていろいろ壊してやると喜ぶんだよ」
「な、なんですか、それ?」
「いや、それはその時のお楽しみでな」
「「「?」」」
俺は斬のじじぃのことを思い出していた。
なぜここで、俺の頭に浮かんだのかは分からない。
タケとよしこが帰っていった。
送ると言ったが、三人で電車で帰ると言う。
まあ、それもいいだろう。
子どもたちに見送られ、俺は一緒に地下鉄の駅まで歩いて行った。
「じゃあ、また来てくれな」
「はい、本当に楽しかったです」
「昨日は最高の一日でした!」
三人は地下鉄の階段を降りて行った。
別れとしては、何とも味気ない。
しかし、また会える連中だ。
こんな別れ方がいいのかもしれない。
午後に六花から電話が来た。
何度もタケたちのことの礼を言い、これから響子に会いに、一緒に行かないかと言われた。
俺は喜んで引き受けた。
「ちょっと響子の様子を見てくる」
俺は亜紀ちゃんに言った。
「はい、分かりました」
「夕飯には帰るからな」
「はい」
「絶対に帰るからな!」
「はい、分かりました」
「おい、絶対だからな!」
「だから、分かりましたって!」
今日は六花に引きずられないぞ。




