KYOKO DREAMIN
北アメリカ航空宇宙防衛司令部・NORAD。
《Anti-TORA同盟》司令本部は大混乱だった。
「司令長官! ロシアの80%が壊滅しました!」
「どういうことだ!」
「ディアブロ・アキの攻撃です。2分前に偵察軍事衛星が巨大な粒子加速を観測。その二秒後にロシア全土が消滅しました」
「アラスカのマザー・キョウコからの最終通告は本気だったというのか!」
「トラ」の長女ディアブロ・アキ。
「トラ」ファミリーの最大戦力がユーラシア大陸をたった一撃で蒸発させた。
「あれがディアブロ・アキの真の力か……」
司令本部の全員が蒼褪めた。
司令長官のゴールドマン大将は悔いていた。
世界は「カルマ」による「バイオノイド」軍団と「ジェヴォーダン」と呼ばれる怪物たちにより、瀕死の状態だった。
その後の謎の化け物たちの攻撃では、為す術もなく膨大な被害を浴びた。
それを救った「トラ」ファミリーとその軍「タイガー・ホール」。
しかし、その力はあまりに強大であり、各国の軍は恐れていた。
「トラ」ファミリーの壊滅は、大国を中心とした国際社会の密かな願いとなっていた。
密かに、アメリカを中心とした各国で反トラ同盟が一部の軍人や政治家たちによって結成された。
幸いにして、「トラ」ファミリーは国際社会への侵略は行なわなかった。
その期に、反トラ同盟はこぞって軍事力を増産し、「トラ」ファミリーへの軍事的対立を狙っていた。
そして「トラ」との敵対行為を緩和しなければ、全世界で最終的戦闘を展開するというマザー・キョウコの最終通告。
しかしその通告により、「トラ」ファミリーへの脅威から、各国の反トラ同盟が蜂起した。
自家用ジェットで飛行中の「トラ」を、200機もの次世代戦闘機F99を中心とする戦闘機で攻撃した。
しかし、それらが次々と「トラ」によって180機が落とされたため、最終手段として核ミサイルが使用された。
「トラ」の自家用ジェットと共に、全機が消滅した。
「全偵察衛星の情報を集めろ! 大至急だ!」
数分後、続々と報告された事実に、司令本部は絶望する。
「アメリカ13カ所の軍事基地でキョウコ・チルドレンと思われる同時攻撃を受けています!」
「チルドレン13人全員の総攻撃か!」
マザー・キョウコの13人の子どもたちは、全員が「ハナオカ・アーツ」を極めた強靭な戦士たち。
それがアメリカ攻略に総動員されている。
アメリカの「反トラ同盟」の壊滅は必至だった。
普段はその半数がニューヨークの「ロックハート家」を守備している。
度々の「ロックハート家」襲撃作戦は、すべてキョウコ・チルドレンと「コウキ・システム」により壊滅している。
マザー・キョウコ自身は、他の主要メンバーに比較してそれほどの戦闘力を有していないというのが、各国軍部の見解だった。
しかし、マザー・キョウコは常に「トラ」ファミリーの中枢にいた。
「中国に、タイガー・レディとクリムゾン・リッカの軍団を確認。既に国土の30%が消失しています!」
「タイガー・レディはリッカだけか!」
「今のところ、フウカは確認されていません! フウカはアルティメット・ディフェンス・コウキと共に、オーサカにて日本本土を防衛していると思われます」
「リッカがマザー・キョウコの護衛を離れたか。本当に総力戦なのだな」
最も「トラ」に絶対の忠誠を誓う狂信者にして強大な能力者「タイガー・レディ」。
その二人の美しい姉妹は、各国軍部が恐れると共に、憧れる兵士たちも多い。
普段は姉のタイガー・レディ・リッカはアラスカでマザー・キョウコを護衛している。
しかし、度々配下の「クリムゾン・リッカ」を率いて各地の戦場に現われ、圧倒的な力で瞬時に敵戦力を壊滅させてきた。
そして「タイガー・レディ・リッカ」に従う、同じく「トラ」の狂信者たる「クリムゾン・リッカ」たちも、絶大な戦力を誇り、「トラ」の命ずるまま、戦場で圧倒的な強さを見せていた。
妹のタイガー・レディ・フウカは、主に日本本土の防衛を担い、度重なる日本本土への侵攻をオーサカにて防いで来た。
各国の艦隊は、数千キロ先で壊滅している。
「EUはどうなってる!」
「デスキング・シオウです。母親のマザー・シオウリは未確認。しかしシオウが出てきただけで、もうヨーロッパは絶望的です」
「マザー・シオウリ」は「トラ」との間に子どもを持ち、その子「シオウ」は無敵にして超絶の力を持つ。
「ディアブロ・アキ」と並び、「トラ」ファミリーの最大戦力の一人だった。
そして「マザー・シオウリ」自身もそれに次ぐ破壊力を有する。
「イギリスがいる! すぐに戦略核攻撃を要請しろ!」
「ロシア消失と同時刻に、フランスのカレー海岸にてシオウによる巨大な閃光を確認! 爆塵のため衛星での画像が確認できませんが、イギリスは壊滅と思われます」
「南米はどうだ?」
「チリにてドラゴン・レディ・リュウの粒子加速による雷撃を確認! 毎秒10キロで北上中! 未確認ですが、ドラゴン・レディのチルドレンのものらきし粒子加速をブラジルにて観測!」
「ドラゴン・レディ・リュウ」も「トラ」ファミリーの強大な戦力であり、またその子どもたちも各々が一国の軍に匹敵する能力を持っていた。
しかし、「ドラゴン・レディ」と「タイガー・レディ」は同時に戦場に現われたことは無い。
タイガー・レディ・リッカがマザー・キョウコの護衛を離れる時、ドラゴン・レディ・リュウが護衛の任に就くと考えられていた。
二人の戦力が必要になるほどの戦場が、今まで無かったとも言える。
「インドの空軍基地にて弾道ミサイルの発射を確認! しかしその1秒後に周辺200キロに亘り消失しました!」
「どういうことだ?」
「我々が観測していない粒子加速のパターンです! もしかすると、あの存在だけを噂されていた……」
「タイガー・レディ・リッカの子ども、フブキか!」
「トラ」ファミリーの次世代のチルドレン。
マザー・シオウリにはシオウ。
キョウコ・チルドレン。
ドレゴン・レディ・リュウのチルドレン。
そして、当然タイガー・レディ・リッカにもその存在が以前から噂されていた。
量子コンピュータが膨大な「トラ」ファミリーの事象を解析した結果、「フブキ」の存在が浮かび上がった。
しかし、今日まで表舞台に出たことはなく、マザー・キョウコと同様に、他のチルドレンのような傑出した能力を有していないのかもしれないと考えられていた。
「解析結果が出ました。「リッカ」の粒子加速のパターンに類似しています!」
「やはり能力者だったか……」
「衛星からの画像が来ました!」
司令本部に嘆息に似たため息が響く。
「美しい。やはり「リッカ」の子ども「フブキ」に間違いないか」
更に次々と情報が入って来る。
北欧にサイレンス・タイガー。
「トラ」の西安基地よりブシン軍団の出撃。
中米にサウザンド・サクラ。
中近東にセイント。
中東には謎のネコ(?)。
その他、大量のデュール・ゲリエや観測不能の攻撃が相次いでいる。
「全米の核攻撃システムの起動を急げ! タイガー・レディ・リッカがいない今、アラスカへ全核ミサイルをぶち込むんだ!」
「キョウコ・チルドレンにより、90%の同盟のミサイル攻撃基地が既に壊滅。それに恐らくアラスカはルイン・ツインズ(破滅の双子)が守っています。それ以前に、あの「ヘッジホッグ」にはミサイル攻撃自体が無効です」
アラスカは「トラ」の子、双子のルイン・ツインズによって支配されて久しい。
白人は追い出され、原住民は全員「ハナオカ・アーツ」を学んでいる。
「ハナオカ・アーツ」を核兵器以上の戦力に高めたのがディアブロ・アキと同じく「トラ」の子「ルイン・ツインズ」と言われている。
そして、どちらも「トラ」の強大な戦力であり、同時に「トラ」ファミリーを強力な組織に築き上げた立役者と見做されている。
既に幾つもの地域に壊滅的な打撃を与えた「トラ」の独自の軍団「タイガー・ホール」を、自在に操っている。
「ルイン・ツインズ」も、もちろん「トラ」ファミリーの主力戦力だ。
謎の多い二人ではあったが。
「では、残存全戦力を日本へ投入しろ! 弔い合戦だ!」
「無理ですよ! アラスカと同様に、日本にはコウキ・システムがあります。「ハナオカ」の力を応用したコウキ・システムは、すべての攻撃を無効化します! それに日本には《絶対防衛のコウキ》自身がいますし、ドラゴン・レディの片割れフウカの攻撃力で、50000キロ圏内には近づけません!」
「トラ」の子の長男「アルティメット・ディフェンス・コウキ」。
核攻撃を含めたあらゆる攻撃から防御する鉄壁の存在。
これまで数々の日本国土侵略作戦は、「コウキ」の存在によって阻まれていた。
「トラ」と「アキ」「シオウ」を除いた、「トラ」ファミリーの攻撃にも、唯一対抗できる可能性があると解析されている。
そして、「コウキ」が開発した「コウキ・システム」が、各地の「トラ」の拠点を防衛しており、そのいずれも過去に突破されたことはない。
「洋上の各国の艦隊が消失を続けています! ディアブロ・アキとマザー・シオウリの攻撃です。米海軍は既に1隻も残っていません。各国の原潜も真っ先に攻撃されました。現在マッハ130で洋上を尚進攻中です!」
「司令長官! この一斉攻撃はマザー・キョウコだけの指示ではないと思われます」
「お前は「トラ」が生きていると言うのか!」
「はい。タイガー・レディとドラゴン・レディの同時出撃は、「トラ」の命令以外に考えられません」
「なんということだ」
「ハナオカ・アーツを見誤っていた。核兵器を上回る威力を個人が有するなど、誰が想像したか」
「はい。数十回に亘り工作員を潜入させましたが、キャロット・オピウムのせいで、全員がハナオカの奴隷になりました」
「ああ、恐ろしい麻薬だ」
「そもそも、ロックハート財閥が「トラ」だけでなく、ハナオカ・ファミリーの後押しをしていたことは、予想外でした」
「異常な戦力が、巨大な資金を得て急速に拡大したのだな」
「あの、ロックハート財閥を上回る資金を「トラ」ファミリーが有していたという噂もあります」
「今となってはどうでもいい。我々は判断を誤ったのだ」
「ミドウ・ファミリーから生存者を受け入れるとの通信が入っています! 恐らく、ロックハートの《全世界通信》が使用されています」
「ミドウ・ファミリーか。「トラ」ファミリーの盟友だな。どういうつもりなのか」
「『「親友」の裁きを生き残った者は、日本国内また各地の「トラ」の拠点への移住を許可する』と!」
「世界は「トラ」に呑み込まれるのか」
「ミドウ・ファミリー」は「トラ」の盟友と見做されていた。
彼らは「トラ」を神と崇める元米海兵隊の精鋭たちによって護られている。
「アフリカで、動物の大集結を観測! 「トラ」の存在と思われます!」
「衛星で確認しろ!」
「無理です。野生動物たちの群れが何重にも覆っていて、「トラ」の姿は見えません!」
「司令長官! 「トラ」です! 「トラ」からの通信です!」
「なんと言っている!」
「南極大陸で、最終奥義「アベル」を発動すると!」
「ハルマゲドンか。「トラ」の審判が降されるのだ」
「司令長官、基地周辺に、キョウコ・チルドレンが集結しています」
「自爆装置を起動する。願わくば「トラ」の一端くらいは道連れにしよう」
NORADの自爆システムは発動することなく、すべての構造物が、2秒後に粉塵と化した。
三日後、南極から大陸を覆う閃光が偵察衛星によって観測された。
その閃光は世界を覆い、アラスカと日本、そして各地の「トラ」の拠点を除き、地球全土を包んだ。
しかし、それを受信した人間は既にいなかった。
(うん? ナニコレ? うーん、とりあえずモゾモゾしよう)
「響子、起きたか?」
「タカトラー!」
「なんか、ニコニコしてたぞ」
「うーん、ヘンな夢を見てた」
「どんな夢だよ」
「うーーーーん、なんか忘れちゃった!」
今日も響子はかわいかった。




