岡庭くん、結婚します! Ⅱ
栞はご機嫌だ。
俺は眠い。
岡庭は、俺たちのためにホテルを予約してくれていた。
結婚式も、このホテルの会場で行なわれる。
俺がチェックインすると、なぜかダブルベッドの部屋だった。
栞が一緒に入る。
「ねえ、ここって。スイートルームじゃない?」
「そんなことはないでしょう。でも随分と豪華ですね」
大勢の同期が来るはずなので、俺はてっきりツインかと思っていた。
「とにかく、俺は少し寝ますから。花岡さんも自分の部屋へ」
「えー、いいじゃない。添い寝してあげる」
「必要ありません」
「いいじゃない」
俺は一刻も早く寝たかったので、栞に押し切られた。
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(石神くんが来た! 石神くんが来た! 石神くんが来た!)
(フロントを買収して連絡をもらったけど、やっと石神くんと!)
(待っててねー!!)
廊下を走りながら、服を脱ぎ捨てる。
密かに預かったキーで石神の部屋へ侵入する。
(あ! なんで花岡さんが一緒に!)
二人で寝ている光景にショックを受ける。
涙が流れた。
(チクショー!)
廊下の服を拾い、そのまま帰った。
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昼過ぎに起きた。
3時間ほどしか寝ていないが、もう気分はいい。
横で寝ている栞を起こし、俺たちは昼食を食べに出た。
ホテル内にレストランがあったので、そこに入る。
「おい、石神!」
大学時代の連中が5人ほど一緒に食事をしていた。
懐かしく栞とともに語り合い、隣のテーブルで食事を取る。
電話が来た。
「御堂も着いたってさ」
俺はレストランにいることを伝えた。
「やあ、会えたね」
「おう、元気そうだな」
「御堂君、久しぶり」
栞は少し緊張している。
「花岡さん、お久しぶり。相変わらず綺麗だね」
「そんな」
御堂も一緒に食事をし、三人で語らった。
「花岡さん」
「はい」
「石神の子どもたちがうちに遊びに来たよ」
「うん、聞いてる」
「とっても良い子どもたちだね」
「そうね。大変なこともあるけどね」
「石神があの子たちを引き取って良かったでしょ?」
「うん、そう思う」
「僕は反対したけど、間違ってたよ」
「え」
御堂はにこにこと笑っていた。
「ありがとう、御堂君」
俺は御堂に「梅田精肉店」の話をし、食事に関して随分と助かっていることを伝える。
「じゃあ、私もう少し寝たいから、ちょっと失礼するね」
栞が立ち上がって部屋へ戻った。
「気を利かせたんだろう」
俺はそう言い、御堂と話し込んだ。
御堂の家に行ってから後のこと。
特に宇留間の事件と子どもたちの暗殺拳について。
電話で概略は話していたが、詳細を御堂に話した。
「そうか、大変だったな」
「まったくだ。身から出た錆とはいえ、銃弾までぶち込まれるとはなぁ」
「死者が出なかったのは幸いだね」
「まあ、ご本人以外はなぁ」
大使館での死王の話もしている。
「そっちはその花岡さんの弟のことが一番気になるね」
「やっぱりそう思うか」
「うん。終わってないと思う」
死王はまた来る。
御堂はそう言っている。
俺もそう考えている。
「まあ、多少は対策を練っているけどな」
「子どもたちかい?」
「ああ。申し訳ないが、もう俺の家族だ。一蓮托生だ」
「ははは、石神らしい考え方だね」
「死王だけは不味い。子どもたちも標的になるのは分かってるからな。そうなら巻き込むもなにもねぇよ」
「なるほど」
「石神、死ぬなよ。子どもたちもな」
「分かってるよ」
俺は周囲を見渡した。
食事の時間は終わり、俺たち以外には離れたテーブルにしか客はいない。
「それでな、これは誰にも話してないんだけど」
「なんだい」
「花岡さんだ」
「え?」
「死王というのは、弟が勝手に名乗ってるらしいことは言ったよな」
「うん」
「多分、花岡家の最高峰、または到達点のような名前なんだと思う」
「……」
「斬のじじぃは、花岡さんに最高の子どもを産ませるために、俺に子種を寄越せといってる」
「うん、聞いたね」
「栞は、「死王の理」なんじゃないかと考えているんだ」
「どういうことだ!」
珍しく御堂が動揺した。
「花岡さんに子どもたちが教わっていて感じるんだ。花岡さん自身の強さはそれほどのものではない。でもな、花岡の技はすべて花岡さんの中にある。そして、恐らくその技を子どもに伝える能力がある」
「石神、それは」
「あくまでも想像でしかないよ。それにそうであっても別に花岡さんへの気持ちが変わることはないしな」
「でも、大変なことだよな」
「そうだな。だけど、俺は別に花岡家が最強になろうとなんだろうと関係ねぇ。俺はお前や子どもたちや、大事な人間と生きていくだけだ」
「まったく、お前らしいなぁ」
御堂は苦笑した。
「僕にできることなら、なんでも言ってくれよ」
「ああ、頼む。もしかしたら子どもたちを匿ってもらうかもしれないしな」
「それは親父も喜ぶよ」
「そうか」
俺たちはその後も話し込み、ゴールドの話やその後の動物大集合の話をし、御堂を爆笑させた。
「そろそろ時間だね」
「そうだな。じゃあ、岡庭の雄姿を見よう」
俺たちは着替えて、会場へ向かった。




