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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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六花と風花 Ⅲ

 ホテルでドアマンが迎え、店の場所を聞くとすぐに案内してくれた。

 風花はとても緊張している。


 個室の豪華な部屋に、また驚き、俺が勧めないと席にもつかなかった。



 風花にジュースを頼み、俺たちもジンジャーエールを頼んだ。

 コースを予約していたが、メニューをもらい、美味そうなものを全部頼む。



 「あの、こんなお店、初めてで」

 「ああ、自由に食べてくれな。ワリカンだけどな」


 「え!」


 「冗談だよ! ちゃんとご馳走するよ」


 風花はちょっと笑ってくれた。





 「本当に突然で申し訳ない。風花さんがどんなに驚いているかと思うと、申し訳ないばかりなんだけどな」

 風花が俺を見ている。


 「でも、この六花は、俺にとって大事な人間なんだ。だから妹がいると分かった時点で、どうしても会わせてやりたかった。本当にごめんね」


 「いえ。私も驚いてはいますが、今まで自分は一人なんだと思ってましたから、お姉さんがいるなんて」


 お姉さんがいて「嬉しい」とは言わなかった。




 俺はもう一度、アレクサンドラ(サーシャ)・アシュケナージさんのことを話す。

 六花の父親の暴力が原因で家を出なければならなかったこと。

 その後、六花も苦労して看護師になったことを話した。


 「その後、転々として大阪に来たらしい。そこである男性と親しくなって、君が生まれた」

 「はい。でも、私が生まれてすぐに母は亡くなったそうですので、私にはまったく記憶はないんです」


 「うん、それも分かっている。大変だったね」

 「ええ、でも施設でちゃんと育ててもらいましたから」

 

 六花は涙ぐんでいた。


 「今のお店は、社長さんがいい人のようだけど」

 「はい! 本当に優しい方で、私は親がいないので就職も難しかったんですが、それでも採用してくださったんです。寮も用意してくださって、よくしてもらってます」


 「そうか。良かった」

 六花もうんうんと頷いている。


 その後もしばらく、塩野社長さんのことや仕事のことを聞いた。

 今は肉の加工部門で働いているそうだ。

 身体はきついこともあるが、自分を雇ってくれた社長さんのために、一生懸命に働きたいと言った。





 料理が運ばれてきて、風花はこんな美味しいものは食べたことがないと言った。

 俺と六花はどんどん食べろと勧める。


 俺はうちの子どもたちのピラニアぶりを話し、風花は大笑いした。




 風花がもう食べられませんと言う。

 俺は少したったらまた喰えるからと、ちょっと休ませた。




 「あの」

 風花はトートバッグから、厚紙に挟んだ一枚の紙を取り出した。


 「これは母の遺書なんです。あの、母は日本語が書けませんでしたから、カセットテープに録音していたそうです。後で警察の方が紙に書いてくれて」


 六花が緊張した。


 「母のものって、これだけなんです。私は顔も知らなくて。六花さんにお見せできるのは」

 「ありがとう!」


 六花は風花の手を握った。

 大粒の涙が毀れてくる。


 「おい、大事なものを濡らすな」

 俺は六花の肩に手を置いて言った。


 「すいません」


 「見せてもらってもいいかな」

 「はい、どうぞ」




 そこには、孤独な女性の悲痛がありありと描かれていた。

 捨ててしまった娘への謝罪。

 そして生まれた娘への一層の謝罪。

 弱い自分を許して欲しいという懇願。

 最後に、故郷へ帰りたいと書かれていた。


 俺が読み上げると、二人とも泣いた。



 俺が調べたサーシャさんのことをすべて話す。

 そして六花は、最後の母親の写真を風花に渡した。


 「綺麗な人だったんですね」


 風花は写真を抱きしめた。





 六花が話す。


 「風花、こんなことを言ってまた困らせてしまうかもしれないけど、良かったら東京で一緒に暮らさない?」

 「え!」


 風花は驚いて、少し考えていた。


 「あの、申し訳ないんですが、私は今の社長にとても感謝しているんです。ですから、私はここで恩を返したいと思います。すいません」


 「いいのよ。それでいい。でも私たちは姉妹なんだから、困ったことがあったら何でも言ってね」

 「はい」




 俺はサーシャさんの墓を建てたことを伝えた。

 納骨も済ませてある。


 俺たちは明日墓参りをするつもりだと言い、よかったら一緒に来ないかと誘った。


 「是非お願いします」


 また朝に店まで迎えに行くこととし、風花を寮まで送った。





 俺と六花は、少し飲もうと言い、夜の梅田を歩いた。


 「なあ、六花」

 「はい」


 「大阪っていうのは暖かくていい街だなぁ」

 「そうですね」


 東京とは違う、人の温もりが溢れているように感ずる。

 派手な店構えやバカみたいなネオンがいい。

 行き交う女性の派手な服がいい。

 大声で怒鳴りあってる酔漢がいい。


 「本当にいい所ですよね」

 「ああ。風花も、ここがやっぱりいいんじゃねぇか?」

 「そうですね」

 六花は寂しそうに笑った。









 俺たちはホテルに戻り、寝た。

 その前に5回やった。





 俺の大阪が泣いているぜ!

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