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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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猫神一族

 変調ではないのだが、困ったことがある。



 ゴールドが死んで少し後のことだと思う。




 やたらと動物が寄って来る。




 双子と散歩に出ていた。

 途中で紅葉山公園に寄り、ベンチに座って休んだ。

 ルーにジュースを買って来させ、三人でまったりしていた。


 「あ、犬がいるよ!」

 ハーが二頭のアイリッシュセッターと散歩している女性を見つけた。

 双子はゴールドを喪ってから、犬を見ると気にするようになった。




 「こっちに来るね」

 ルーが言う。


 「カワイイ」

 「そうだな」


 俺ものんびりと眺めていた。




 近づいてくる。

 近づいてくる。

 近づいてくる。


 俺の膝に二頭が乗ってくる!




 「すいません、すいません、コラ! 二人とも!」


 女性が慌てて謝ってくる。

 二頭は首を伸ばし、俺の顔を舐めようとする。


 ベトベトになった。


 女性が強い力で引き、なんとか離れてくれた。


 「申し訳ありませんでした。いつもはちゃんと言うことを聞いてくれるんですが」

 「いえ、気にしないでください」



 犬たちは、尚も俺に近づきたがっていた。




 「あ、おっきい犬が来るよ!」

 ルーが言った。


 「駆けて来る!」

 ハーが言った。



 セントバーナードだ。

 離れていても、あの大きさで分かる。


 「大丈夫だよ、ちゃんとリードを持ってるから」

 俺は二人を安心させようと、そう言った。



 「あ、転んだよ!」


 リードを持っていた男性が派手に転んだ。

 リードを放されたセントバーナードは、ミサイルのように一直線にこちらへ走ってくる。



 俺は双子の前に立った。


 押し倒された。


 もの凄い勢いで、俺の顔をでかい舌で舐めてくる。


 男性が走り寄って来た。


 「すいません、すいません、コラ! ジョージ!」





 「あ、一杯来るよ!」

 「あっちからも来るよ!」



 俺は二十頭を超える犬にのしかかられた。

 


 警察が呼ばれ、俺は助けられた。







 それから、出勤途中にカラスが頭に止まった。

 髪の毛をかき回した上で、くちばしをこすりつけてきた。


 ネコが二階の窓から飛び降りて来た。

 俺の肩に乗り、スーツを派手に破いて着地した。

 その後にまた飛び乗り、肩に乗って耳を舐めてきた。


 病院の廊下の真ん中で、ネズミが俺の前でダンスした。

 「グリーンマイルかよ……」

 俺は駆除業者を呼んだ。


 響子の部屋に行ったら、スズメが窓に群れて、入りたいのか一斉に硝子を嘴で突いて来る。

 「ナニアレ?」

 響子が呆然と見ていた。





 夕食の席で、俺は子どもたちに、一連のことを話した。


 「どうにも困ったもんだな」

 

 「なんか、スゴイですね」

 亜紀ちゃんが言う。

 双子から話を聞いているので、まったく疑ってはいない。


 

 「タカさん」

 ルーだ。


 「ネコカフェに行きたい!」

 「突然なんだ?」


 「だって、タカさんと一緒に行けば、ネコにモテモテじゃん!」

 「そうかぁー!」

 ハーも乗ってくる。


 「あ、いいかもしれませんよ。ショック療法的な」

 「全然違うだろう」

 「でも、私も見てみたいかも」

 亜紀ちゃんが推してきた。


 「僕もみたいかな」

 「お前まで」

 皇紀もだ。


 「そうだ! 花岡さんも誘いましょうよ!」

 「なんでだよ」

 「だって、花岡さん、ネコが大好きらしいですよ?」

 「亜紀ちゃん、それは今回のこととは」

 「いいじゃないですか!」


 うやむやのまま、押し切られた。






 土曜日。


 俺たちと栞は、中野の駅前のネコカフェに行った。

 栞は前からネコカフェ情報を集めていて、そこがいいと推した。

 一人では恥ずかしいので、今回が初めてらしい。

 なんでも、店長のネコ愛が素晴らしいとのことだった。


 「『ネコ三昧』か」

 「早く入りましょう!」

 栞が俺の手を取り、引っ張る。


 「こんにちは! 予約していた花岡です!」

 「はいはい、こちらへどうぞ」


 俺たちは簡単な注意事項とオプションの説明を受け、中に入った。

 一段高くなった店内は、靴を脱ぎ、柔らかな絨毯になっていた。

 絨毯は、当然ネコの毛だらけだ。



 俺もネコは好きだ。

 イヌもいいが、ネコの方がいい。


 実験のためということで、俺は一人みんなとちょっと離れた位置に座る。

 「人懐っこい子もいますから、大丈夫ですよ」

 店員が明るく笑って、そう言っていた。



 たちまち、ネコが集まってきた。

 



 俺だけに。




 50匹以上いるという。


 そのほとんどが俺にたかってくる。

 膝の上はもちろん、肩に上がり、頭にも乗って来る。


 「「「「「スゴイヨ!」」」」」


 みんな驚いている。

 俺もだ。


 


 「店長! あのお客さん、マタタビ使ってますよ!」

 女性の店員が言った。

 

 「タマ!」


 (タマ?)




 「お前はまだまだだね! よく見てご覧。ネコたちは元気にじゃれているじゃないか! マタタビじゃ、ああは行かないのさ」

 初老の店長が言った。

 長い銀髪をカーリーにしている女性だ。



 「え、でも」


 「あたしは40年前にロシアで見たよ」


 (ロシア?)



 「何をですか?」


 「Кошачий бог(コーシャチウス・ボーク)、猫神さ!」


 (俺は「石神」だ!)



 「なんと!」


 「北欧じゃ、「ケットシー」と呼ばれるね」


 (ケットシー?)



 「じゃあ、あの方は!」

 「そうだよ。猫神は国ごとにいるんだよ」


 (ほんとうかよ)




 俺は大量のネコにまとわりつかれていた。

 次々に、ネコが争って俺に昇ろうとしている。


 「石神くん、ちょっと分けてよ!」

 「そんなこと言ってもですね」

 「石神くんだけ、ずるいよ!」

 栞が怒っている。



 「タカさん、横になった方が良くないですか?」

 亜紀ちゃんがアドバイスしてくれた。

 確かに、ネコたちの爪で服が引っ掛けられている。


 横になると、もうネコ天国だった。





 「あぁ! 店長、「ロボ」ですよ!」


 (おい、それはオオカミの名前だろう!)


 「なんと! あの「孤高のロボ」が!」


 (なんだよ、それは!)




 一際でかいネコが来た。

 その体格で、他のネコを押しのけて俺の身体に乗る。


 「ロボが人に懐いている!」

 店長を見ると、涙を流していた。

 隣のタマも泣いていた。


 (お前らなぁ!)




 「店長! ロボが他のネコが触れても怒りませんよ!」

 「ああ、神の下では、皆平等なのさ」

 「なんて崇高な!」


 (おい!)




 ロボは、俺の顔をペロペロと舐めている。

 他のネコも身体のあちこちを舐め出した。

 俺はもう諦めて、なすがままになった。



 亜紀ちゃんは、オプションの写真サービスを頼み、猫神一族を一杯撮った。

 店長とタマが、一緒に撮ってくれと割り込んできた。

 最後は全員が俺を囲み、ピースして写った。




 俺は三十分かけて一匹ずつ離され、猫はみんな隣の部屋に入れられた。

 にゃーにゃーと騒いでいた。


 俺のコーヒーはネコに倒され、水だけ飲んだ。


 会計をしようとすると、店長が「いいものを見せてもらった」と言って無料にしてくれた。




 「タカさん、ネコくさい」

 ルーが言った。

 そりゃそうだろう。


 「石神くんだけ、ずるい」

 栞が拗ねていた。


 俺は玄関に入る前に、亜紀ちゃんに丁寧にブラシをかけてもらった。

 大量のネコの毛が落ちた。

 皇紀に掃除させた。



 俺はゴールドの墓に手を合わせ、「勘弁してくれ」と言った。


 その後、異常な動物集めは収まり、ちょっと寄って来る程度になった。












 しばらく、栞が口を利いてくれなかった。  

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