響子たん、マジ天使。
双子の「花岡流」がなかった。
その代わり、俺の頭をなでなでしていた。
「お前ら、身体の調子が悪いのか?」
「「それはタカさん!」」
「はい」
リヴィングに下りると、亜紀ちゃんが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「何が?」
皇紀もじっと見ている。
「夕べ、ちょっとおかしかったですよ」
「そんなことはないだろう」
尚も心配そうに見ている。
「今日はウシガエルが喰いてぇな」
「「エエェッー!」」
「冗談だ!」
まあ、結構美味いのだが。
「なんだよ、俺を「かわいそうな子」みたいに。大丈夫だって」
「はぁ」
まあ、多少思考が鈍っていた記憶はある。
でも、今朝は快調だ。
朝食を食べながら、オークラで会場を借りるつもりだと言った。
500人くらいは余裕で入れる。
よく保守党の政治家のパーティなどで使われている部屋があるのを知っていた。
何度も呼ばれて行っている。
実は家で、と考えたのは理由がある。
情けない話だが、今回の事件で俺は結構な出費をした。
探偵事務所に支払った金額も大きいが、キャリア官僚の先輩たちに配った金額も結構なものだ。
最大はピョートルに渡したもので、1億円を用意した。
あんな始末にはなったが、戻ってくることはない。
数億円が消えた。
もちろん、資産に余裕は十分にある。
それでも、締めるところは締めたいと考えていた。
ホテルでは、恐らく二千万円くらいか。
まあ仕方ねぇなぁ。
自分が撒いた種だからな。
「タカさん、涙目になってますよ」
亜紀ちゃんが心配そうに言う。
しばらく、「かわいそうな子」扱いされた。
ホテルの予約は、俺が言うと宴会担当が飛んできた。
料理の内容がメインだ。
俺は別途、一江を呼び出す。
「おい、今回はいろんな人に迷惑をかけたから、パーティで労うぞ」
「いえ、自分はそんな」
俺はマジで一江の頭にチョップを入れる。
「てめぇ! 当たり前だ。お前は俺以上に迷惑人間だろう!」
「す、すいません!」
「お前、パーティでゴイスーな芸をやれ」
「は?」
「会場が沸かなかったら、花岡さんの「螺旋花」な!」
「死んじゃいますよ!」
「ああ、命がけでやれ」
子どもたちにも頼んで、ちょっとした芸をやってもらう。
六花が一江に聞いたのか、自分も協力させて欲しいと言ってきた。
「一応聞くけどさ。なんとなく分かる気もしないでもないんだけどさ。お前、何やるの?」
「はい、シロクロショーなど、ゲッフッ!」
俺は鳩尾に手刀を突き刺す。
「俺に恥をかかせるのか!」
「いえ、私と石神先生とで、一緒に恥をかこうと」
一応こいつにも「恥」の概念があることを知って驚いた。
でも、恍惚な表情を浮かべているので、そうではないことを理解した。
あとはどうしようか。
二時間枠だから、間は持つかな。
考えていた俺に、スペシャル・ゲストが現われた。
「タカトラ、私、マジックをやろうか?」
響子たん、マジ天使。




