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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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入院ってさ、見舞い客を断り辛くて困っちゃうんだよな。

 結局、俺はまた三日間寝込んだ。

 今回は意識はある。


 ただ、六花がまたしょっちゅう尿瓶とオシメを持ってくるのに閉口した。


 「お前、もうそれはいらないぞ」

 「いいえ、無理はなさらないでください」

 「……」


 使わないが、脱脂綿で拭う作業だけやっていく。

 段々、脱脂綿の面積が小さくなっていった。


 響子もよく来て、ときどき六花の「作業」を興味深げに見ている。

 自分もやりたいと言うが、六花に拒否された。


 「これは、私の「お仕事」です。慣れない者がやってはダメです」

 「六花は慣れてるのね!」

 「その通りです」

 ニコニコと笑って、六花はそう言った。


 


 栞もよく来た。

 花を替え、果物などを剝いてくれる。


 「本当に終わってよかった」

 俺からは詳しいことは言っていないが、恐らく斬のじじぃから聞いているのだろう。


 「じじぃにはお世話になりました」

 「いいのよ、おじいちゃんは石神くんが好きでやってるんだもの」

 背筋が寒くなる。


 「でも本当にじじぃのお蔭で何とかなりましたから。俺が感謝していると、言葉には出さずに、気持ちがちょっとだけ伝わるようにお伝えください」

 「どうやればいいのよ、それ!」


 

 「ねぇ、石神くん」

 「なんですか?」


 「私のこと、怖い? 気持ち悪い?」

 栞は俺を見ずにそう言った。

 栞の手を握る。


 「そんなこと、あるわけないじゃないですか」

 「でも、今回のことで、うちの花岡が……」


 「何を言ってるんですか。ずっと前に「暗殺拳」の家だって話してくれたじゃないですか」

 「そうだけど」


 「愛しています」

 「え、そんな、急に」

 「愛してる、栞」


 栞が俺の胸に飛び込んでくる。

 激痛で、息が止まった。

 しかし、カワイイけど、ちょっとチョロすぎないか?

 まあ、俺の本心だから何の問題もないが。



 「私も、ずっと、昔からずっと……」


 俺たちは唇を重ねた。


 「あの、花岡さん」

 「あ、喋り方が戻った!」

 「いえ、ちょっとだけ胸が痛いんですが」

 「あ、ごめん! すぐにどくね!」

 栞がベッドに手を付いて身体を動かそうとする。

 俺の固い物に触れた。


 「「……」」




 「あのさ」

 「なんですか」

 「ちょっとおとなしくさせようか」

 「いえ、大丈夫ですよ」

 「ちょっとだけだから」

 「いや、まずいですって」


 栞が布団をめくった。




 「あ、花岡さんも「お仕事」するの?」

 響子が入り口で叫んだ。

 六花もいる。


 「あ、違うのよ! ちょっと怪我の具合を見ようとしてて」

 「花岡さん」

 「はい!」

 「それは私の「お仕事」です」

 六花が、泣きそうな顔で言う。


 「石神くん! どういうことなの!」


 「いや、俺は何も!」




 騒がしくてしょうがねぇ。

 



 部下たちはもちろんしょちゅう寄って来る。

 まあ、仕事の指示などもあるから、いい。


 大勢のナースたちも、とっかえひっかえでしょっちゅう見舞いに来る。

 仕事中に立ち寄ってるのか、見舞いに来ているのか区別もつかない。

 追い出すにも俺を心配し、また迷惑をかけたことなので追い出しにくい。

 一応、みんなにも危険な目に遭わせているからなぁ。



 俺の部屋には花や果物や様々な見舞いの品が溢れた。

 一江に言って、時々片付けてもらう。




 熱はまだ高かったが、院長に挨拶に言った。

 今回の件で多大な迷惑をかけ、また院長に命を救われたことを感謝した。


 「俺は詳しいことは何も知らん。チンピラが病院に紛れ込んで、お前が身を盾にして患者とナースを守った。それだけだ」


 アビゲイルからも、同じようなことを言われた。

 とっくに大体の事情は把握しているのだろうが、俺には響子を守ってくれたという礼だけが述べられた。

 必要なら、今後俺に警備を付けようと言ってくれたが、断った。




 俺の子どもたちは、栞、そして一江、大森が中心になって面倒をみてくれた。

 まだ俺が撃たれてから一度も顔を合わせていない。

 事情は上手く一江が説明してくれている。


 暴漢が紛れ込んで、俺が銃で撃たれた、というストーリーだ。

 響子や六花を守ったということは伏せられている。

 今回のことで、余計なことを考えさせたくはない。


 今は念のために、警備員に守られていることになっている。

 子どもたちを近づけないためだ。

 熱が下がれば家に帰れる。

 その時には、犯人が捕まったとでも言おう。

 それで日常が戻る。




 響子と六花がまた来た。


 「ねぇ、タカトラ」

 「なんだ」

 俺はうんしょ、うんしょと言いながら、ベッドに潜り込んだ響子の身体をくすぐってやる。

 キャッキャと喜んでいる。


 「どうして私と一緒の部屋で寝ないの?」

 響子の部屋は豪華だ。

 様々な設備も整っている。


 「それはお前」

 「だって同じ病院にいるのに!」

 「愛し合ってる二人がいつもいちゃいちゃしてると、みんな仕事が手につかなくなるだろう」

 「エヘヘヘ」

 響子が嬉しそうに笑った。


 「響子はカワイイから、嫉妬する男が一杯いるしな」

 「えー、だって私はタカトラのヨメだよ!」

 「そうだよな」

 俺も嬉しくなって笑う。

 胸がちょっと引き攣る。


 「でも一緒にねたいなー」

 「俺もそうなんだけどな」

 「ザンネンねー」

 「ザンネンだよなー」

 

 「石神先生、そろそろ私の「お仕事」を」

 「お前は空気読め!」













 結局、響子はそのまま眠ってしまった。

 響子の体温が心地よい。

 俺もいつのまにか眠った。

 六花はそっと部屋を出て行った。

 多分、笑っているだろう。

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