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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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ゴールド Ⅲ

 三日もすると、ゴールドはすっかり子どもたちに慣れた。

 もうリードを着ける必要も無く、子どもたちと遊んでいる。


 俺が帰ると、真っ先に迎えに出て来る。


 「うちの子どもたちは、迎えにも来ないのにな! お前はエライぞ!」

 ゴールドをよしよしと撫でてやる。



 子どもたちが慌てて出てきた。

 「「「「おかえりなさい!」」」」


 「おう! 犬以下のみなさん、ただいま!」


 「「「「……」」」」





 ゴールドは食事も俺たちと一緒に食べるようになった。

 ゴールドの餌の皿は、もうキッチンにある。


 俺は子どもたちに、人間の食べ物を与えるなと注意した。

 ゴールドが欲しがってもダメだ、と。

 人間と犬とは身体の構造が違う。

 犬には犬の食べ物があるということを、教えた。


 五十嵐さんは普通のドッグフードを与えていたようだが、俺は肉や魚なども食べさせた。

 肉を与えたときには、ゴールドは小さく唸りながらがっついた。

 美味しかったのだろう。




 「いいか、ゴールドは言葉が話せない。だから何が欲しいとか、気持ちいいとか、またその逆も俺たちが見て考えてやってやらなければいけないんだ」


 俺の話に子どもたちが真剣に耳を傾ける。


 「ゴールドは突然飼い主がいなくなってしまった。その気持ちはお前たちなら分かってくれるだろう?」

 「「「「はい!」」」」


 「じゃあ、宜しく頼むぞ!」





 ゴールドは俺が帰ると、俺から離れなくなる。

 風呂に入ると一緒に入ってくる。

 犬って、そういうものなのか?


 俺がシャワーを浴びても一緒に濡れるので、身体を洗ってやった。

 一応犬用のシャンプーを買ってある。

 五十嵐さんの用具にはなかったから、どうなんだろうか。


 湯船にも短時間だが、一緒に入ってくる。


 上がってから身体を拭いてやるが、毛を乾かすのは子どもたちに任せている。

 めんどくせぇもん。




 寝るのも一緒になった。

 ドアは開けてやり、トイレなどは自由に行けるようにした。

 水の皿だけは新たに置いてやるようになった。



 毎日の餌、トイレの始末、散歩、諸々のゴールドのための世話が増える。

 基本的に子どもたちが喜んでやるので任せているが、何故か俺にべったりだ。



 次に仲良しなのは双子だ。

 亜紀ちゃんと皇紀は帰ると迎えに出るが、その時だけだ。

 二人とも悔しがっている。


 毎週の映画鑑賞も一緒にいる。

 亜紀ちゃんとの梅酒会にも出席する。

 俺の近くにいるが、亜紀ちゃんが撫でてやると気持ち良さそうにする。



 響子と六花を呼んでゴールドに会わせてやったが、二人とも吼えられた。

 ゴールドはメスだった。





 俺は家でのゴールドの写真を撮り、五十嵐さんにたびたび持っていった。

 「本当に楽しそうで良かった。石神先生、ありがとうございます」

 「いえ、うちの子どもたちも楽しそうで、こちらこそありがとうございます」


 「でも、石神先生のことを一番好きでしょ?」

 「はあ、俺もゴールドが大好きですから」

 「ええ、分かりますよ。ゴールドのことは全部分かります」


 五十嵐さんは嬉しそうに笑っていた。





 一度、ドライブに連れて行った。

 前に乗せたハマーで行く。



 窓を少し開けてやると首を突き出し、気持ち良さそうに風に当たった。


 俺は皇紀を連れて来た桟橋で車を降り、一緒に散歩した。

 ゴールドにニーチェの話をしてやるが、俺をじっと見詰めている。

 さすがに分からんか。


 顔をクシャクシャにしてやると、尻尾を振って喜んだ。







 五十嵐さんの容態が悪化した。

 ICUに入れられるが、もう長くは無いと誰もが分かっていた。

 娘さんが呼ばれて来たが、延命措置は不要と言われる。

 五十嵐さん本人の意志もあり、そのまま最期を迎えた。



 その数日前から、ゴールドは餌を食べなくなった。

 俺が特選和牛などを出しても、一口しか食べない。

 そのまま俺に擦り寄ってくるので、抱きかかえて一緒に寝た。



 五十嵐さんが亡くなったと連絡が来た。

 9月の中旬の早朝だった。

 不思議と、この時間に逝く人が多いことは、経験で分かっている。




 俺が電話に出ると、ゴールドがいない。

 探しに行くと、リヴィングで双子が起きていた。

 その足元にゴールドが臥せっている。


 「どうしたんだ、お前たち」


 双子が、リヴィングの壁を指差している。

 「あのおばあちゃん、誰?」

 「どこから入ってきたの?」


 何も見えない。


 ゴールドがその壁の方へ歩いていく。


 「「あっ!」」


 双子が同時に叫んだ。


 「どうした、何が起きたんだ!」


 「おばあちゃんが、ありがとうって」

 「ゴールドを連れて行くって」


 「なんだと?」





 双子が泣いている。

 ゴールドは息を引き取っていた。









 「そうか、そういうことがあったか」

 院長が腕を組んで、俺の話を聞いていた。

 「石神!」

 「はい」


 「ご苦労だった」

 「はい」







 ゴールドは、俺の家の庭に埋めた。

 五十嵐さんの家にとも思ったが、娘さん夫婦が家を売り払うと聞いて、やめた。

 









 「短い付き合いだったけど、楽しかったぞ」

 俺は小さな石に手を合わせた。 

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