別荘の日々 XⅨ
子どもたちは急いでノルマを終え、俺の手伝いに入った。
折角大量の魚介類があるので、俺はアヒージョを亜紀ちゃんに教える。
「今日はアヒージョを作るじょ!」
一瞬亜紀ちゃんは硬直したが、大きな声で笑い出した。
顔が引き攣っている。
皇紀は六花と一緒に、バーベキューの台を出している。
二人にセッティングを任せる。
響子は外の椅子に座り、それを眺めていた。
双子は食材を外へ運んでいく。
短時間でバーベキューの用意ができた。
俺は最初から子どもたちに焼かせ、好きなように食べさせた。
響子のために、伊勢海老を焼いた。
ホタテを殻のまま焼き、貝が開いたところで醤油とバターを入れる。
食欲をそそる香りが立つ。
子どもたちが真似をしだした。
「ほら、響子。ホタテができたぞ」
響子の前に置き、熱いから少し待って食べろと言う。
幾つかの魚介類をアルミホイルに入れ、野菜も入れてバターと醤油を垂らして閉じた。
「あれ、絶対美味い奴だ」
双子が真似をする。
軽く炙った魚介類を、寸胴で沸かした湯に次々と入れる。
キノコ類と玉ねぎ、幾つかの香草を入れ、蓋をして弱火にする。
沸騰したら、塩コショウで味を調えた。
響子にスープカップに注いでやる。
伊勢海老は鋏で殻を縦に割ってやり、辛さを抑えたマスタードソースで食べさせる。
どれも、響子は驚き、ニコニコとしながら食べた。
「美味し過ぎるー!」
子どもたちは、いつもの争って食べるでもなく、俺の一連の食べ方をじっと見ていた。
「タカさん」
亜紀ちゃんが泣きそうな顔で俺に言う。
「お願いですから、私たちにも食べ方を教えてください」
「俺の話が面白かったと言ってくれたのは響子だけだからな」
「そんなぁ」
「お前らは好きに食べればいいじゃないか」
子どもたちと六花がまたテーブルに集まって相談する。
「まだ怒ってたんだぁ」(る)
「どうしよう」(は)
「やっぱりみんなで謝ろうよ」(こ)
「そうだね、謝らなきゃ」(あ)
「私にお任せください」(バカ)
六花が双子に尻を蹴られた。
「おい、冗談だよ!」
俺が呼び寄せる。
「悪かったよ。でも俺のやり方を見ていただろう。同じようにやればいいんだ。スープは沢山作ってあるからな」
「「「「「はい!」」」」」
「包み焼きの要領は分かったな。塩コショウでも美味いぞ。軽く包んで、煮汁が沸騰したら開け。ただ、熱いから軍手をしてやれな」
「伊勢海老は俺が焼いてやる。向こうのテーブルで切り分けて「仲良く」食べるんだぞ」
「ホタテは蓋が開いてから調味料を入れろ。バター醤油は間違いねぇが、そのままでも野生の味がいいからな」
「「「「「はい!」」」」」
子どもたちは笑顔になり、バーベキューのちょっとした工夫を知る。
肉と違って、焼加減が異なるので、俺がタイミングを指示してやる。
六花は要領を得ず、苦労している。
皇紀がいつものように助けてやっている。
「皇紀さん」
「なんですか?」
「ちょっとなら触ってもいいですよ」
「!」
俺は伊勢海老の殻を顔に投げた。
アヒージョは大評判で、たちまち食い尽くす。
響子は少し苦手なようで、一口で終えた。
その響子も魚介スープは喜んで、三杯も食べた。
いい傾向だ。
子どもたちに好きにやらせ、俺は響子を連れて風呂に入った。
六花は食うか付いてくるかで一瞬迷ったが、結局風呂に入ってくる。
「お前、食ってればいいじゃないか」
「いえ、石神先生の裸が見れる機会は逃せませんので」
「六花エッチ」
二人で響子を泡だらけにして遊びながら洗ってやる。
響子は悲鳴を上げながら喜んだ。
六花も響子と二人で同じようにして洗う。
ヘンな声を出すので、たびたび引っ叩く。
次は俺だと言われた。
「六花、なんでタカトラのオチンチンばっかり洗うの?」
「そんなことはありません」
握りながら六花が言う。
俺は笑いながら、髪だけ頼むと言った。
風呂から上がると、子どもたちが片づけをしていた。
適当に終わらせて、早く風呂に入れと言う。
響子はたくさん食べたので、早く眠くなるだろう。
寝かせてもいいのだが、屋上でのひと時を楽しみにしている。
子どもたちが風呂に入っている間、俺はミキサーでバナナジュースを作った。
ミキサーを洗っていると、子どもたちが全員揃った。
六花と自分のために、ウォッカ・トニックを作る。
屋上へ向かう。
今日は少し曇り、時折月が顔を出していた。




