別荘の日々 XⅦ
翌朝、いつもの時間に起きてキッチンに入ると、既に朝食が作られていた。
響子は夕べ遅かったので、まだ寝ている。
六花も来ていない。
目玉焼きにウインナー。海苔の佃煮ときゅうりの浅漬け。味噌汁は大根だった。
「早く起きて、全部作っておきました!」
ルーが言う。
「さあ、タカさん、お座りになってください。すぐに御用意しますから」
亜紀ちゃんが俺の椅子を引いて待つ。
子どもたちが俺を見ている。
「へぇー。ウインナーなんか食べるんだ」
俺がそう言うと、子どもたちが青ざめ、顔を見合わせる。
「俺の記憶が確かなら、肉は食うなと言ったはずだけどな。ああ、俺のつまらない話なんか、聞く気はねぇわけだよなぁ」
子どもたちが、ソファの方へ移動した。
俺は自分の前にある食事を食う。
「相当機嫌が悪いよー」
「あれはまずいよ」
「そうよね。まだ怒ってるよね」
「お姉ちゃん、ちゃんと謝ろうよ」
「俺の話はとことんつまらねぇからな。どうせ俺なんかどうでもいいんだよ」
「あ、あの、タカさん? 今日の朝食のお味ははいかがですか?」
亜紀ちゃんが近づいてそう言った。
「あ? ああ、普通じゃねぇの? まあ、こういうのも俺が教えたやっただけだけどな。つまらない教え方で申し訳ないな!」
亜紀ちゃんが戻り、またみんなで頭をくっつけて相談している。
「今日のタカさん、めんどくさいよー」
「こら! そんなこと言わないの!」
「だってぇー。もう何言ってもダメじゃん!」
「だからみんなで土下座してさ」
「だめだよ、そんなことしても。頭踏んづけられて終わりだよ」
六花が降りてきた。
異様な気配に気付き、席には着かずに子どもたちの方へ行く。
「どうしたんですか?」
「実は……」
亜紀ちゃんが事情を話しているようだ。
「分かりました。私にお任せください」
「え、六花さん、大丈夫なんですか」
「はい。絶対に何とかできます。お任せください」
六花が俺に近づく。
「石神先生、今日も一緒にあの林に行きましょう!」
「行くわけねぇだろう?」
六花が子どもたちの所へ戻る。
「申し訳ありません。ダメでした」
「「「「ハァー」」」」
双子が六花の頭をはたいた。
俺は立ち上がり、ルーとハーのウインナーに箸を突き刺してムシャムシャ食べた。
「「ギャァー!!!!」」
「あ、あたしのウインナーがぁ!」
「生きていけないぃー!!」
俺は亜紀ちゃんの目玉焼きに醤油をかける。
「アァー! 私は絶対ソース派なのにぃー!」
皇紀の味噌汁を飲み、ガラガラとうがいをしてから椀に戻す。
ちょっと量が増えた気がする。
「…………」
響子が起きてきた。
目をこすってまだ眠そうだ。
「アレ? みんなどうしたの?」
響子もいつもと違う雰囲気に戸惑う。
「タカトラ、おはよう!」
「ああ、おはよう」
俺は近づいてくる響子を抱きしめ、額にキスをしてやった。
子どもたちが信じられないという目で見ている。
「タカトラ」
「なんだ?」
「夕べのお話面白かった!」
「そうかぁ! お前は本当にカワイイなぁ!」
俺はほっぺたをペロペロする。
響子が嬉しそうに笑った。
「はい!! 私も最高に面白くて笑っちゃいました!!!」
「僕も可笑しすぎて、全然寝れなくなっちゃって困っちゃいました!!」
「私たちも、いつまでもお話を喋り合って、眠れませんでした!!」
「そうそうそうそう!!!!!!」
しょうがねぇ。
「分かったよ! もういい! 今日は気分転換に、街に行くか!」
「「「「はい!!!」」」」
俺はウインナーを二袋出し、炒めて大皿に盛ってやった。
亜紀ちゃんは「お醤油も美味しいですね!」と言う。
皇紀はしばらく味噌汁の椀を見ていたが、三人の目線に押され、一気に飲み干す。
ちょっと涙を浮かべていた。
三人は皇紀に親指を立てて、その勇気を讃えていた。
六花にハマーを運転させる。
帰りは俺が特別仕様車を運転し、子どもたちは六花の運転するハマーになるからだ。
大丈夫だろうが、ハマーはでかいし六花も慣れておいた方がいい。
あのスーパーに行く。
駐車場で六花に聞いた。
「どうだ、運転は大丈夫そうか?」
「はい、特に問題はなさそうです」
「そうか、帰りは宜しく頼むな」
「はい、お任せください」
六花の運転が上手くて助かる。
まず買い物をして、昼食は面倒だからここで食べるつもりだ。
皇紀と来た時に、フードコートが充実しているのを見ていた。
駐車場で、店長が駆け寄ってきた。
「石神様! 今日もお越しくださって、ありがとうございます!」
「いえいえ、わざわざお出迎えいただかなくても」
「そんなわけに参りません! 石神様には大変お世話になりましたから」
店内に向かう途中で、店長は俺の壮大な買い物が話題となって、ネットで評判になったことを話してくれる。
そのお蔭で、前年比300パーセントになりましたと、ニコニコと語った。
またネットかよ。
「みなさん、石神様のお子様ですか?」
「ええ、こちらの四人がそうです」
「では、そちらのお美しい方が奥様で?」
「私はにごう、ゲフッ!」
俺の手刀突きを横腹に喰らって、六花は身を折る。
「こいつは部下で、この金髪の子は」
「タカトラのヨメの響子です」
「アハハハ! 面白い方々ですねぇ」
店長は愛想笑いをする。
「今日は何かお求めでしょうか」
「はい。子どもたちと一緒に選びながら楽しみたいので、どうぞお構いなく」
「かしこまりました。荷物を運ぶ際には、またお手伝いさせてください」
「その時には、よろしくお願いします」
店長は深々と礼をし、離れていった。
「誰ですか、あの方は」
亜紀ちゃんが俺に聞く。
「ここの店長さんらしいよ。前に来たときに、いろいろ買い物を手伝ってもらったんだ」
「タカさんって、どこに行ってもモテますよねぇ」
「そうかな」
俺は六花から響子を預かり、抱き上げながら店内を回った。
今日もバーベキューをするつもりだった。
野菜類が結構余っているので、一気に減らしたかったのだ。
「肉もいいけど、魚介類も欲しいな」
「いいですね!」
みんなで鮮魚コーナーへ向かう。
子どもたちは好きなものをカートに入れていく。
量のバランスは、亜紀ちゃんに任せた。
段々食材管理のスキルが上がってきた。
伊勢海老があった。
珍しいので、四尾とも買う。
魚介類で結構な量になったので、亜紀ちゃんと相談して肉はいいものを少量だけ買った。
カートが6つになった。
今日は子どもたちが異様に気を遣い、すべてのカートを引き受けている。
俺は響子を空のカートに乗せてやり、響子が大変喜んだ。
「お前は幾らかな?」
「私はタカトラ以外、買っちゃダメ!」
イチャイチャしていると、子どもたちが愛想笑いをして見ている。
また店長が飛んできて、レジに回してくれる。
俺たちの専用のレジが開き、優先して会計してくれた。
店長は車に積みましょうと言ったが、俺たちがフードコートで食事をすると聞き、買い物を預かってくれた。
冷蔵のものも多かったので助かる。
広いフードコートは昼時ということもあり、結構混んでいた。
店長が俺たちのために大きなテーブルを二つくっつけて用意してくれた。
俺は子どもたちに、好きなように注文して来いと言う。
亜紀ちゃんが子どもたちを集め、どこに並ぶのか作戦を練る。
それに任せ、俺は響子と椅子に座ってイチャイチャする。
六花は、いつの間にか亜紀ちゃんの指示下に入っていた。
とんでもない量の料理が並んだ。




