寮歌祭 暗殺戦
10月最初の木曜日の夜。
御堂と一緒に食事をしていた。
ホテル・オークラの九兵衛だ。
マグロを中心にコースを頼んだ。
久兵衛のマグロは絶品だ。
ロボにも土産を頼んだ。
「石神も最近は海外によく行くな」
「ああ、本格的になって来たからな」
夏からポーランド、南アフリカ共和国、トルコと連戦だ。
この東京の平和が懐かしくも思う。
しかも相手は御堂だ。
最高だ。
料理が運ばれてきて、俺たちは食べ始めた。
個室の外にはダフニスとクロエが見張っている。
「来週は大丈夫そうか?」
「ああ、寮歌祭だよな。大丈夫だよ」
「去年のお前の電報はみんな感動してたよ」
「そうか。なんだか恥ずかしいな」
「お前が来れば、みんなも喜ぶだろうよ」
「ああ、それに小島将軍にも挨拶しないとな」
「多分、今年も来るだろう。そう聞いている」
運営委員で第四高等学校の伊藤さんから、特別に聞いていた。
「そうか」
「柳も来るしな!」
「アハハハハハ!」
御堂と柳はほとんど顔を合わせていない。
俺も連れて来たいのだが、何分御堂と話す内容が機密ばかりなので難しい。
今日も南アフリカ共和国とトルコの「虎」の軍との連携の話があった。
どちらも俺たちが強硬に政府を無視して活動しているからだ。
南アフリカ共和国は軍事クーデターを起こしたが、トルコは政府が国民からバッシングを受けて、近いうちに政府は崩壊する。
ジャングル・マスターが世界情勢とトルコ国民を動かしている。
次の政権を俺たちの手でコントロールする必要がある。
「今いろいろと探して検討はしているんだけどな。新たな政権には御堂にも連携して欲しいんだ」
「ああ、分かった。早速会うようにするよ」
トルコと日本がどのような関係にするのかを話し合った。
俺たちはそういう話し合いが増えてきた。
その日も場所を変えながら深夜まで御堂と話した。
「今度は柳も連れて来れればいいんだけどな」
「そうだね」
疲れているはずだが、御堂はまったくそんな様子は見せなかった。
10月の2週目の土曜日。
新宿の高層ビルの地下階で寮歌祭が開催される。
俺は子どもたちとハマーで出掛け、御堂はダフニスとクロエを伴って来た。
「御堂!」
「ああ、来たよ」
俺は御堂を連れて受付に案内する。
御堂はちゃんとダフニスとクロエの名前も登録する。
事前に受付の人間は聴いているので、御堂たちを歓迎し、席表やパンフレットなどを受け取った。
「地下に子どもたちがいるよ」
「石神は?」
「あの方を待っている。先に行っててくれ」
「僕も一緒にいようか?」
「いや、護衛の人間がいるから俺だけの方がいい」
「そうか。じゃあ、下に行っているよ」
開始時間の5分前に小島将軍が護衛を連れてきた。
俺は近寄って挨拶した。
もう護衛たちは俺を警戒しない。
「今年もお会い出来て光栄です」
「俺もだ。今日が本当に楽しみだった」
小島将軍は笑っていた。
この人が本当に笑うことは、滅多にないだろう。
また自分で受付を済ませ、一緒に下の大宴会場へ降りた。
数人の人間が頭を下げたままで、小島将軍を迎える。
第一高等学校の席へ案内し、子どもたちが挨拶する。
御堂を連れて行った。
ダフニスとクロエは離れている。
「御堂か。お前も来たのだな」
「はい、石神に誘われまして」
「そうか。今日は楽しめ」
「はい」
やがて開会式が始まった。
いつものように黙祷からだ。
来賓の挨拶などがあり、今回は御堂の出席が発表され、全員が喜んで拍手をした。
御堂が壇上へ呼ばれ、短い挨拶をした。
もう、こういうことにも慣れて、堂々と祝辞を述べた。
各学校の寮歌が始まる。
「どうだ、凄い集まりだろう?」
「そうだね。食事も豪華だね」
「なー!」
子どもたちに御堂のために料理を持って来させようとしたが、既に誰もいなかった。
俺は笑って自分で取りに行った。
少しの間外しただけで、御堂はいろいろな人間に囲まれていた。
みんな御堂の政策を褒め讃えている。
「徴兵制は実現しますか?」
「時期を見てと考えています」
「日本を変えてください!」
「それは必ず。そのために命を懸けています」
俺が今日は寮歌祭なのでと人を宥めた。
理解のある人たちなので、みんな自分の席に戻って行った。
「結構多くの人を知っているよ」
「そうか」
日本を支えてきた方々だ。
高齢にもかかわらず現役の人も多い。
子どもたちが帰って来た。
大量の料理を運んでくる。
「お前ら! ちょっとは遠慮しろ!
「「「「「はい!」」」」」
美味そうな皿を俺が奪い取って御堂の前に置いた。
亜紀ちゃんがすぐに指示を出し、またみんなで取りに行く。
「まったく、あいつらはよ!」
「アハハハハハ!」
俺たちはしばらく談笑しながら、顔見知りの人間に挨拶して行った。
俺のスマホが鳴った、
早乙女からだった。
「どうした?」
「石神! 便利屋さんからだ。何体かの妖魔が新宿の高層ビル街に出現したようだ!」
「分かった! 今子どもたちもいる。外に出るぞ!」
俺は亜紀ちゃんに外で妖魔を迎え撃つように言った。
「ルーとハーに索敵させろ」
「分かりました!」
亜紀ちゃんが全員を連れて行く。
便利屋の話では、大した強さではないようだが。
子どもたちも油断はしていない。
俺たちは、そういうことを学んでいた。