表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2079/3030

「業」との再会

 俺たちはシベリアの原野を横切り、中国との国境を目指した。

 俺たちを追えるレーダーは無いはずだが、行きとは違うコースで飛行した。


 そして、国境に近づいた時、目の前に異様なものを感知した。

 ルーが全員を停止させる。


 「タカさん!」

 「……」


 俺たちのコースを予見したかのように、そいつは待ち構えていた。

 上空1キロにまで達する細長いモノ。

 但し、実際の直径は10メートルはあるだろう。

 紐のような見た目だが、そこから10メートル程の触手のようなものが無数に生えている。

 まるで樹木のような化け物だ。

 その巨大さでは、これまで遭遇した敵の中で最大のものだった。


 「亜紀ちゃん、全力の「虚震花」を撃て」

 「はい!」


 亜紀ちゃんが即座に構えて撃った。

 

 「あ!」


 樹木の化け物の身体がブレたように消えかかり、亜紀ちゃんの技は何も起こさなかった。


 「柳! 「オロチ大ストライク」だ!」

 「はい!」


 柳が渾身の技を撃つ。

 だが、やはりブレたようになり、技はすり抜けた。


 「ルー! ハー! 4時と8時の方向から「オロチブレイカー」を撃て!」

 「「はい!」」

 

 「え! なにソレ!」


 柳が騒ぐが無視した。

 ルーとハーが二手に分かれて技を放つ。

 同じく樹木の怪物はブレたが、触手がはじけ飛んだ。

 心無し、怪物の身体が苦しそうに捩れた。


 「やった!」

 「タカさん、有効だよ!」

 「まだ分からん!」


 「えー! 今のなにー!」

 「柳、黙れ!」


 技の開発の天才の双子が、密かに柳の「オロチストライク」を改良していた。

 柳がショックを受けるので、今まで黙っていた。


 「柳! ブランたちをコース08で帰投させろ! お前が護衛につけ!」

 「は、はい!」


 「亜紀ちゃんと皇紀は異変があった場合の救助だ!」

 「「はい!」」

 「ルー、ハー! 俺が出るから、出来るだけ解析しろ!」

 「「はい!」」


 俺は「虎王」を二本抜いて怪物に迫った。

 10キロの距離を一挙に詰める。

 「虎王」が激しく反応した。


 「こいつは!」


 俺は無線で全員に伝えた。


 「逃げろ! こいつは「柱」だ!」


 「タカさん!」


 亜紀ちゃんが叫んだが、皇紀が即座に亜紀ちゃんを抱きかかえて脱出した。

 ルーとハーも高速で移動する。


 俺には分かった。

 こいつは早乙女のところのあの「柱」と同じものだ。

 つまり、「神」だった。


 怪物の周囲に激しい雷撃が覆う。

 俺にはもう一つ分かった。

 あの柱の化け物は、この「神」の力を宿したものだったのだ。

 だから俺たちも苦戦したのだ。

 今更ながらに、羽入たちが生還したことがどれほどの奇跡かと思った。


 俺の身体は「虎王」の極星結界で守られていた。

 単純な雷撃であれば、問題はない。

 但し、攻撃も出来ないが。

 防御に精一杯で接近出来ない。

 雷撃は、周囲100キロを覆っている。

 俺たちのいる高度に限っているが。

 遠方からは、雷雲のように見えるのかもしれない。


 俺は「七星虎王」で極星結界を築きながら、「五芒虎王」で攻撃した。


 「星魔!」

 

 本流のように斬撃が伸びて行く。

 「柱」の表面にぶつかり、爆散した。


 「おい!」


 千切れ去った部分に、上空の胴体が落ちて来る。

 そのまま接合された。


 「だるま落としかよ!」


 雷撃が薄くなったので、俺は「星魔」を放ちながら上空へ移動する。

 下から雷撃が追って来るが、俺の速度には及ばない。

 受肉しているため、神経速度のようなものが追いつかないのだろう。


 俺は「柱」の真上から「星魔」を放った。

 そのまま「連山」で切り刻んで行く。

 巨大な身体が上方から四散していった。


 「柱」の破壊されて行く傷口が、大きく開いた。

 俺を呑み込むように拡がっていく。


 「煉獄!」


 俺は拡がる中心へ飛び込み、押し包む「柱」を爆散させた。

 そのまま「連山」でまた切り刻んで行く。

 巨大な身体のため、地上まで30分掛かった。

 岩場の周辺に、「柱」の肉塊が散らばって堆積していた。


 俺は一際邪悪な気配を感じていた。





 「「業」、いるな」


 俺は肉塊が最も積もった場所に向かって言った。


 「石神、久し振りだな」

 「ああ」


 黒い靄が現われ、「業」の姿が出て来た。

 昔と変わらず、妖しい美貌のままだった。

 だが、その周囲には漆黒の霧が絶えず噴出している。


 「お前、すっかり人間を辞めたんだな」

 「お前もな」

 「俺は人間だ!」

 「バカなことを」


 「業」が堆く積み上がった「柱」の肉塊を見ていた。


 「もう「神」でもお前を殺せないか」

 「お前が何をやろうと無駄ということだ」


 「業」が笑った。

 楽しそうな表情と、恐ろしい気配が混同している。

 こんな顔は、人間には出来ない。


 「さて、決着を付けるか」

 「無理だ。俺の本体はここには無い」

 「試しに斬ってやるよ」

 「無駄なことだ。今日はお前と話しに来た」

 「斬られながら話せ」


 「業」は一層笑った。

 一層邪悪な気配が濃厚になった。


 「お前の権能は、いつも俺よりも上だった」

 「なんだ?」

 「だが、今回だけは違う。俺は権能から外れることが出来た」

 「何を言っている?」

 「お前が幾ら権能を積もうが、俺は別な動きを取ることが出来る」

 「……」


 「もうお前に負ける要素が消えた。今度こそは俺が世界を滅ぼしてやる」

 「……」


 「もうしばらく待て。お前はせいぜいまた権能を高めろ。俺はその外側でお前たちを滅ぼしてやる」

 

 「「業」、お前が何をしようと、俺たちは負けない」

 「そうか」

 「またお前はそれを確認するだけだ」

 「言ってろ。お前の絶望の顔が楽しみだ」

 

 「「業」、お前は絶望を知らない」

 「何だと?」

 「お前はいつも、次があると思っていた。だから本当の絶望を知らずにここまで来た」

 「そうか」

 「だからお前は絶望から生まれるものを知らない。それがお前の負けて来た原因だ」

 「何を言うか」


 「業」は高らかに笑った。


 「では、答え合わせはそのうちにな」

 

 俺は「業」に斬り掛かった。

 「業」は笑いながら霧散して消えた。


 あれほど堆積していた「柱」は、腐臭を放ちながら崩れ去って消えた。

 




 俺が蓮花研究所に戻ると、全員が集まって来た。


 「タカさん! 無事ですか!」

 「ああ、大丈夫だよ」


 亜紀ちゃんが泣き顔で俺に抱き着いた。


 「よかったですぅー!」

 

 俺は笑って頭を撫でてやった。

 皇紀も双子も柳も俺に抱き着いて来る。


 「お前ら、よくすぐに逃げてくれたな」

 

 みんな泣いている。

 ブランたちも近づいて来る。


 「タカさん! 信じられないくらい大きな気配があったけど!」

 「ああ」


 ルーとハーは「業」の気配を感じたようだ。


 「大丈夫だ。全部片付いた」

 「タカさん! 念のために検査を」

 「ああ、分かったよ」


 亜紀ちゃんがどうしようもなく心配している。

 安心させるために、また一通り検査を受けなければならないだろう。

 蓮花が駆け寄って来て、亜紀ちゃんを押しのけて俺を抱き締めた。

 

 「心配いたしました!」

 「大丈夫だ。ああ、一応検査するから準備をしてくれ」

 「はい!」


 返事をしながら、蓮花は泣いて俺から離れなかった。

 亜紀ちゃんもちょっと不満そうな顔をしていたが、蓮花の気持ちを優先した。


 俺は蓮花を抱き上げて、本館に入った。

 みんなが付いて来ようとするので、食事の準備をしてくれと頼んだ。

 ロボが抱き上げた蓮花の上に飛び乗って来た。

 しきりに俺の匂いを嗅いでいる。


 「大丈夫だろ?」

 「にゃー!」


 ロボが俺の肩に両手を乗せて、俺の顔を舐めて来た。


 




 もう、「神殺し」は俺にとって「罪」では無くなった。

 俺は否応なく変わった。

 だが、「業」も変わっている。

 

 俺たちの戦いは、まだ行方は見えない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 業は業で手を尽くしているみたいですね…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ