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オムスク基地 報復作戦

 日本への核弾頭ミサイル発射に対し、御堂は即座にロシア政府に厳重な抗議を申し出た。

 日本の外交下手は世界中に知られてはいるが、ロシア政府はいつもの如く日本の抗議を頭から無視していた。

 そればかりか、日本が自国に対して勘違いも甚だしい主張をしていることを非難して来た。

 狸穴の駐日ロシア大使館からも、日本政府に厳重抗議が来た。

 しかし御堂は屈せずに、駐日ロシア大使を呼び出し釈明と賠償を請求した。

 もちろん無視された。

 

 御堂はアラスカからの弾道ミサイルの解析データとアメリカの軍事衛星からの画像を示し、国際社会に訴えた。

 アメリカやEU各国がロシア政府に対し、御堂と同様に抗議した。

 それでも、ロシアは自国の主張、核弾頭ミサイルの発射などしていない、ロシア政府を貶める国際的プロパガンダだとの意見を曲げなかった。


 ロシアはそういう国だ。


 俺は「虎」の軍としてロシア政府に宣言した。

 日本政府の主張を認め、謝罪と賠償を行なわなければ、ミサイルの発射基地を破壊すると言った。

 ロシア政府は「虎」の軍に対して沈黙したままだった。


 そこまでに、一ヶ月の時間が掛かった。

 もう言うべきことは言った。

 都心を核ミサイルで攻撃したのだ。

 それなりの報いを受けてもらおう。

 これは、日本政府のものではなく、超国家組織「虎」の軍としての行動だ。

 

 もちろん、ロシアを戦争をしたいわけではない。

 この機に「虎」の軍がロシアを攻撃する意志を持っていることを知らせ、同時にその破壊力を思い知らせるためだ。

 「業」に操られつつあるロシア政府を思い止まらせる思惑があった。

 だから、徹底的にミサイル基地を破壊するつもりだった。


 ロシアは陸海空軍の他に、戦略ロケット軍というものがある。

 要は核ミサイルを運用する特別な軍だ。

 ミサイル基地は公表されているものの他にも、秘密基地もある。

 今回は公表されているオムスクの戦略ロケット軍基地を叩く。

 俺たちが報復すると公言しているのだから、それなりの準備をしているだろう。

 だが、通常の軍のように俺たちには「準備」がいらない。

 いつ来るのかは分からないはずだ。

 諜報的にも、「虎」の軍の行動は一切ロシアに知られることはない。

 準備はしていても、即応は出来ないのだ。

 航空機で向かう必要がなく、大規模な兵器を向ける必要もない。

 俺たちは、個人が戦略爆撃機並の破壊力を有し、俺や子どもたちは核弾頭ミサイル以上の破壊が可能だ。






 9月の中旬。

 俺たちは蓮花研究所から出発する。

 俺と子どもたち、それにブランの連中を連れて行く。

 攻撃は俺と子どもたちで十分だが、ブランたちに戦場を体験させるためだ。


 出撃前の、最後のブリーフィングを行なった。

 ルーが作戦指揮官となり、全員にスクリーンを前に説明する。

 基地の全容は、既にデュールゲリエを飛ばして撮影して来ている。


 「とにかく広い基地ですので、破壊目標を決めています。ミユキさんたちは司令部の破壊、アナイアレーターの皆さんは飛行場とハンガーを、亜紀ちゃんはミサイルの発射施設、皇紀ちゃんはレーダー施設、ハーは列車施設、柳さんは地上の車両の破壊と反撃勢力の鎮圧をお願いします」


 全員が心得ている。

 既に各員が、その手順まで認識していた。

 

 「タカさんは、妖魔が出た場合に対応をお願いします」

 「おう」


 「妖魔が出る可能性はありますか?」


 ミユキが質問する。


 「あります。日本への核弾頭ミサイル発射などは、「業」の命令が無ければ絶対にしません。それが実行されたということは、「業」に既に侵食されているものと考えられます」

 「妖魔は自分たちで対応しても宜しいですか?」

 「それはこちらで判断します。対応を指示された場合は、それに従って下さい」

 「分かりました」


 妖魔の規模は即座に判断しなければならない。

 中級妖魔まではミユキたちであれば対応出来るが、それ以上は即時撤退だ。

 「飛行」で脱出するように命じなければならない。


 「妖魔に関しては不確定要素です。出現の場合は指示しますが、それまでは各自目標の破壊に専念して下さい」

 

 俺が話した。


 「妖魔に関しては油断は出来ないが、出て来ない可能性の方が高い。「業」もまだ、完全にロシアを掌握したわけではない。核ミサイル基地まで侵食するには、相当深くロシア政府を掌握する必要がある。前回の弾道ミサイル発射は、単にロシア政府に利益を与えてのことではないかと俺は考えている」


 全員が黙って聞いている。


 「但し、基地の防衛に関わって、妖魔を配置している可能性もある。だから現地に行かなければなんとも言えない問題だな」


 ブラジリアやグアテマラでのライカンスロープ開発の施設を思えば、まだロシア軍の基地に配する余裕はないものと考えている。

 「業」にとって、通常戦力の軍事力などは不要と言ってもいいだろうからだ。


 その後もルーによって作戦行動の説明が続き、質疑応答の上でブリーフィングを終えた。

 私設軍とも言える「虎」の軍が、一国の軍事基地を襲うことに、国際世論の同意は得ている。

 まあ、元々はロシアが無茶なことをやったのだ。

 その報いを受けるだけだ。


 俺たちは現地に未明に到着するように出発した。

 蓮花とジェシカや研究所員たちが見送りに出て来る。

 ブラン全ての出撃は、今回が初めてだった。


 「石神様、どうか御武運を」


 蓮花が俺に言った。

 本当は全員が無事に帰って欲しいと言いたかったのだろ分かる。


 「安心しろ。必ず俺が護る」

 「はい!」







 全員が「Ωコンバットスーツ」を着込み、他は特殊装備のある者だけがそれを持っている状態だ。

 ミユキ、前鬼、後鬼の専用武器と、羅刹が「黒笛」。

 他は通信機器と救急の「Ω」「オロチ」の粉末を携行しているだけだった。

 「花岡」で戦う者たちだ。

 デュールゲリエも20体同行するが、それは主に撮影のためだ。


 10分で、オムスク基地の上空に到達する。

 俺たちの飛行速度が桁違いなので、まだ何の動きも無い。

 レーダーで個人の大きさを捉えること自体が困難なのだ。

 しかも「Ωコンバットスーツ」はジャミングの効果がある。


 「各自、目標を撃破! 作戦開始!」


 ルーの号令で、俺たちは地上を強襲した。


 俺は「虎王」で妖魔の気配を索敵していく。

 妖魔が出た場合は、主に俺の対応になる。

 ルーは俺の傍で作戦の進行を管理する。

 ようやく警報のサイレンが鳴り響き、既に破壊工作は順調に進んで行った。

 司令本部はミユキたちの攻撃でもう半分は崩壊している。

 「花岡」の特大の「ブリューナク」が撃ち込まれて行く。


 遠くで激しい雷光が閃いている。

 アナイアレーターたちが「トールハンマー」で滑走路やハンガーを破壊しているのだろう。

 亜紀ちゃんと皇紀、ハーが戻って来る。

 亜紀ちゃんは全ての発射サイロを「虚震花」で消し飛ばして来たはずだ。

 皇紀とハーは即座に終えただろう。


 「タカさん、妖魔の気配は?」

 「今のところは無いな」

 

 「反撃は殆ど無いですね」

 「まあ、瞬殺だからな」


 兵士たちはほとんどが通常のアサルトライフルと機関銃程度だ。

 それも発見次第、俺たちに消されて行く。


 「これから他の基地から空軍戦力が来るだろう」

 「地上部隊は?」

 「到底間に合わねぇよ」

 「そうですね!」


 ブランたちも、目標施設の破壊が終わりそうだった。


 「タカさん! アラスカから入電! 戦闘機50機がこちらへ向かってるよ!」

 「誰が行く?」

 「はい!」


 亜紀ちゃんが手を挙げて獰猛に笑った。

 空中へ飛び出していく。


 100キロ先で光が閃いた。

 亜紀ちゃんが撃墜したのだろう。


 ブランたちが集結する。

 俺たちはまた空中へ上がった。


 「亜紀ちゃん、「最後の涙」を全力で撃て! 大穴を空けてやれ!」

 「はい!」


 亜紀ちゃんがぶっ放し、半径40キロに亘って地上から一切が喪われた。

 深さも最大2キロが抉られ、地表は高熱で赤く輝いている。


 「帰投!」





 全員が笑顔で、ルーを先頭に飛び去った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 核なんて持ち出してどうなるかと思っていましたが、しっかり報復していて何よりです。 この先はどうなるかな…。
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