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聖、石神家本家へ Ⅴ

 俺はしばらく虎白さんに奥義の型を教わって行った。

 覚えがいいと褒められたが、俺はもっと先へ行きたかった。

 一週間後、一通りの奥義を教わったそうだ。


 「これからは他の剣士と遣り合って身体に馴染ませて行けよ」

 「分かった」


 そういう稽古に切り替わった。

 俺の相手は、虎白さんや「剣聖」と呼ばれる上級者の人たちが相手してくれた。

 俺が初日に若い剣士にとんでもない技をぶち込もうとしたせいだ。

 俺はまだまだ未熟だが、突出したものがあるので危ないそうだ。


 他の人間と斬り合っていると、油断すればとんでもないことになる。

 手足が斬り飛ばされることも珍しくないらしい。


 「まあ、昵懇の病院で何とでもなるんだけどな」

 「そうなのか」

 「切断されても、綺麗にくっつけてくれるよ」

 「へぇー」

 「首が飛んだらどうしようもねぇけどよ」

 「……」


 冗談じゃねぇ。

 

 まあ、基本は破壊力がでかいから、滅多に奥義は出さない。

 ただ、「型」を繰り出してその感覚を身に付けようとする動きはある。

 そういうことも段々分かって来て、俺も「剣聖」だけではなく、他の剣士ともやらせてもらえるようになった。


 また一週間後。

 虎白さんに言われた。


 「聖、大分仕上がって来たからよ。そろそろ「黒姫」さんのとこに行くぞ」

 「黒姫?」

 「ああ、全力でやって構わねぇからな」

 「あ、ああ」


 何だかよく分からなかったが、その夜に山の裏の岩場に連れて行かれた。

 若い剣士たちが、何頭もの鹿やニワトリ、それに酒などを運んで行った。

 周囲は暗かったが、岩場に着くと一人の着物姿の髪の長い奴が立っていた。


 「黒姫さん! 今日もお願いします!」


 そいつが振り向くと、綺麗な顔をした男だか女だか分からない奴だった。

 刀を抜いた。


 「聖、行け!」

 「おう!」


 俺が突っかかると、口をニタリと開いて笑った。

 その中に無数の鋭い牙が見えた。

 俺は気合を入れて剣技を叩きこんで行く。

 黒姫は笑いながらそれをかわしていった。


 「連山!」


 俺が何度ぶち込んでも、黒姫には通用しなかった。

 そのうちに俺にも攻撃が飛んで来た。

 石神家の技では無かったが、鋭い手だった。

 俺の身体にも幾つか入る。


 俺は本気で斬り掛かった。

 先ほどとはリズムを変え、それを崩しながら攻めて行く。

 ようやく黒姫にも幾つか刀身が入るようになった。


 「虎白! あれは!」

 「黙ってろ!」


 後ろで声が聞こえたが、気にしている余裕が無かったので無視した。

 黒姫の攻撃も変わっていた。

 石神家の奥義が混ざって来る。

 俺はその返し技を瞬時に構築し、対応して行った。

 更に黒姫の攻撃が速く鋭くなっていく。

 俺も自分のエンジンを唸らせて攻撃した。


 俺の中で石神家の奥義が活性化し、連携していった。

 そして閃いた技を繰り出す。


 「おい!」


 後ろで虎白さんが叫ぶのが聞こえた。

 俺が螺旋状に繰り出した刀身が黒姫の胸に入り、黒姫が霧散した。

 3時間もやっていた。

 俺は荒い息を吐きながら地面にへたばった。

 戦闘を終えて、こんなにだらしなく無防備になることはこれまで無かった。

 それほど疲弊していた。

 虎白さんたちが近寄って来る。


 「お前、倒しちまったのかよ」

 「……」


 返事が出来なかった。

 若い奴が水筒を俺にくれ、俺は一気に飲み干した。

 味も分からない。


 「まったく、お前には驚かされるぜ」

 「やっちまって良かったのか?」

 「ああ、問題ねぇ。黒姫さんはあっちだ」

 

 俺が虎白さんの指さす方を見ると、でかい四つ足の何かがいた。

 5メートルもあるオオサンショウウオだった。

 その背中に人間の上半身がある。

 2メートルもの長い髪の、裸の女だった。

 さっきの美しい黒姫の顔だった。

 俺を睨んでいる。


 「倒しちまう奴は滅多にいねぇ。よくやった」

 「あいつは無事なのか?」

 「ああ、幻影だからな。でも、一定の攻撃を喰らうと弱まって消えんだ。だから剣士の腕前を測るのにいいんだよ」

 「そうか」

 

 若い連中が、オオサンショウウオに持って来た獲物を喰わせていた。

 下のでかい口と、上の女の口で獲物を千切りながら喰って行く。


 「妖魔か」

 「そうだ。俺らに協力してくれてる」

 「へぇー」


 俺が喰らった傷は幻影ではなかった。

 トラに預かった「Ω」「オロチ」の粉末を飲んだ。

 俺たちは家に戻った。


 


 

 今日はもう終わりかと思っていたが、大きな集会場のような場所に連れて行かれた。

 石神家の剣士35名が全員揃っていた。


 「虎白さん、なんだこれは?」

 「ああ、ちょっと聖に聞きたいことがあるんだ」

 「え?」


 みんな真剣な顔をしていた。


 「お前、怒貪虎さんって名前に覚えはあるか?」

 「いや、知らない」


 ドドンコってなんだ?


 「そっか。まあ、お前が嘘をついていないのは、全員が見て分かっている。じゃあ、本当に知らないんだな」

 「知らないよ。なんだ、そりゃ?」


 虎白さんが剣聖たちと話していた。


 「まあ、石神家の秘密だから詳しくは話せねぇんだがよ。お前のさっきの虎相が怒貪虎さんのに似てたんだよ」

 「あ?」


 虎白さんが、虎相にはそれぞれ特徴があるのだと教えてくれた。


 「そいつ独自のものでな。同じ虎相は無い。滅多に無いが、たまに親子で似ていることはあるんだ」

 「そうなのか」

 「でもまあ、虎影と高虎のものは全然違うしな。基本的に親子ったって、違うものになるんだよ」

 「へぇー」


 俺にはさっぱり分からねぇ。

 

 「別に話さなくたっていいんだけどよ。お前の血筋を教えちゃもらえないか?」


 別に隠したいものでもないので、自分が東堂家の血筋だと話した。


 「ああ、あの財閥か」

 「そうだ、母親が東堂家だった」

 「父親は?」

 「知らない。誰も教えてくれなかった」

 「そうか」


 話はそれで終わった。

 石神家にとってドドンコとか俺の虎相のことは大事なものらしかったが、俺にも説明は出来なかった。

 それを分かってくれた。


 「悪かったな。つまらねぇことを聞いちまった」

 「いや、いいよ」


 その晩はそれで終わった。

 トラに電話した。

 黒姫のことや、その後の話し合いのことを話した。


 「ドドンコって知ってる?」

 「あ、あー。まあ、説明がしにくいなー」

 「じゃあ、いいよ。でも、俺の虎相が、なんか似てんだって」

 「なんだと!」

 「おかしいのか?」

 「いや、俺にもわかんねぇ。でも、なんかあり得ねぇとは思うぞ」

 「そっか。まあいいや。俺の親父に関係してんのかなー」

 「それはねぇと思うけど」

 「俺も親父のことは全然知らないしさ。よく分かんねぇや」

 「そうだな……」


 まあ、トラに話して多少スッキリした。





 そろそろ一ヶ月が経とうとしていた。

 石神家の皆さんには散々世話になった。

 

 「あ」


 荷物を整理してて、土産が出て来た。

 すっかり忘れてた。

 トラが持たせてくれたものだ。

 トラが知り合いのガラス工房に頼んだ、剣士の小さな像。

 それに虎白さんには別途、双子の天使の像があった。

 朝に虎白さんに謝って、土産を渡し忘れてたことを伝えた。


 「あんだよ、気にすんなよ。でもありがたく頂くぜ」


 虎白さんに双子の天使の像があるのだと渡した。

 包を解いて、虎白さんが急に泣き出したので驚いた。


 「……ちょっと悪いな。これはみんなに配っとくから」


 そう言って部屋を出て行った。

 トラがまた優しいことをしたんだろう。

 俺は事情は知らないが、そう思った。


 もう一度部屋に戻って、また気付いた。


 「あ」


 来る時の新幹線で、着物の女が持っていたものだ。

 これもすっかり忘れていた。

 毎日部屋に置いてあったものなので、不思議だった。

 また風呂敷を解いて、改めて確認した。


 自動小銃は、H&K HK416に似ているが、フォアグリップもサイトも無い。

 それに、口径が「9.9ミリ」という特殊なものだった。

 簡単な仕様書も付いていたが、俺は見なくても分解が出来た。

 機構が美しい。

 ガス圧式のショートストロークピストン式で、発射ガスが撒き散らかされない。

 それに、一つ一つの部品が非常に丁寧に仕上げられている。

 全体に堅牢でそのために重量はあるが、素晴らしい銃と感じられた。

 量産品ではない、ユニークモデルだ。

 左に「聖光」と刻印されていた。


 拳銃はデザートイーグルのボディに似ているが、10インチのロングバレルだ。

 それも分解してみると、自動小銃と同じくユニークモデルらしい美しい仕上げだった。

 こちらは「散華」と刻印がある。

 

 特徴は二つとも弾丸だ。

 弾頭に鉤十字のマークがあり、どういう金属か分からない。

 薬莢にも同じ鉤十字の刻印があった。

  

 見知らぬ銃なので試射はしないが、どうにもよく分からないものだった。


 虎白さんが入って来た。


 「おい、なんだそりゃ?」

 「ああ、これですね」


 俺は新幹線の中の出来事を話した。

 虎白さんが真剣な顔で聴いていた。

 組み上げた銃を、虎白さんが持った。


 「おい、こりゃ尋常なものじゃねぇな」

 「そうなんですか?」

 「「虎眼」って特別な見方をしてる。とんでもねぇしろもんだぜ」

 「そうですか」


 言われても分からない。


 「高虎は何て言ってる?」

 「ああ、すっかり忘れちゃってて、まだ話してないんですよ」

 「そいつは……」


 虎白さんが待ってろと言い、出て行った。

 すぐに、あの真白の婆さんを連れて来た。


 「こいつだよ」

 「……」


 真白の婆さんが「聖光」と「散華」を見ていた。


 「これは凄いね。妖魔を殺すものだよ」

 「やっぱそうか!」

 「ああ。特別に創られたもんだ。多分、「虎王」に似てる」

 「なんだと!」

 「誰が創ったのかね。さっぱり分からんよ」


 「虎王」はトラが持ってる特別な刀だ。

 




 俺はトラに電話した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黒姫の逸話はどんなものがあるのだろうか…。 この二丁の銃の曰くも気になりますね。
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