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グアテマラ強襲作戦 Ⅳ

 「トラ、あれはなんだよ、あれは!」


 「魔方陣だな。召喚のためのものだろう」

 「破壊するか?」

 「待て、そうすると何が起きるか分からん」

 「そっか」


 俺たちが近づくと、床の魔方陣が天井に反転して映った。

 やはり仕掛けがあったのだ。

 そして天井の魔方陣から何かが滴って来た。

 タールのような漆黒の粘液のようだった。

 それが床にボタボタと落ち、やがてその床から何かが現われた。


 「トラ!」

 「!」


 距離は50メートルほどある。

 敵は細身で身長は2メートル半。

 全身が鉄板を貼り付けたような異様な姿だった。

 8対の腕があり、左右でそれぞれ一対ずつ身体の前で手首辺りを交差させている。

 絶対に違うが、何かに祈るかのようなポーズだった。

 圧倒的な存在感だ。

 「地獄から来た悪魔」に間違いない。

 あの北アフリカの砂漠の戦闘で感じた邪悪で強大な圧力だ。

 俺の指示なく、デュールゲリエが3体突っ込んだ。

 

 「待て!」


 しかし3体がそのまま突っ込む。

 俺には分かっていた。

 未知の敵を相手に、自分たちを犠牲にして能力を発動させるつもりなのだ。

 だから俺の命令でも止まらない。

 デュールゲリエの愛の自己犠牲なのだ。


 デュールゲリエが5メートルまで近づくと、地獄の悪魔が一番下の手を開いた。

 突然、デュールゲリエが全て捩じれるように宙を飛び、破壊された。

 10メートルも吹っ飛んだ3体は、全身が途轍もない力で捩じられたように粉砕されていた。


 「亜紀ちゃん! 天井を破壊しろ!」

 「はい!」


 100メートル後ろで亜紀ちゃんが始める。

 ハーが周囲を索敵し、ルーが亜紀ちゃんに声を掛けている。


 「それじゃでか過ぎ! みんな死んじゃうよ!」

 「えぇー!」

 「「槍雷」で撃ってみて!」

 「分かった!」


 亜紀ちゃんの技の出力をルーが解析し、アドバイスしている。

 いい感じだ。

 ハーが俺たちの後ろに近づいて来た。


 「タカさん! あの魔法陣の範囲から出られないんだと思う!」

 「そうか!」

 「召喚の制約だね! だから離れて攻撃して!」

 「おし!」


 俺が突っ込み、聖は「レーヴァテイン」で援護する。

 最大出力のプラズマ弾が地獄の悪魔に吸い寄せられるように集弾していく。

 やはり頼りになる。

 俺は「虎王」で斬り込んだ。


 「星魔!」


 10メートル離れた場所から、「虎王」の斬撃を飛ばした。

 地獄の悪魔の下から2本目の交差が開かれた。

 斬撃「星魔」がことごとく霧散した。

 気付いた俺は高速で接近した。


 「なんだぁー!」


 地獄の悪魔が俺に向かって来た。

 俺は床を蹴って距離を取ろうとする。


 「おい!」


 そのまま地獄の悪魔が迫って来る。

 完全に、魔法陣から飛び出していた。


 「ハー! 話が違うじゃねぇか!」

 「ごめーん!」


 ハーを亜紀ちゃんたちの場所へ戻す。

 俺は空中で「虎王」を振るい、地獄の悪魔がまた最下の腕を開いた。

 「飛行」で瞬間に離れようとしたが、右の足首が間に合わず、強烈に捩じられた。

 飛んでいなければ、俺の身体は先ほどのデュールゲリエと同様に捩じ切られていただろう。

 右足首は、捻挫はあるが骨は破壊されずに済んだ。

 

 右側で、亜紀ちゃんがついに天井に大穴を開けていた。

 ルーが叫ぶ。


 「タカさん! 壁に妖魔が埋め込まれてた! もう全部死んでると思う!」


 妖魔を埋め込み、何らかの方法で波長を整えて頑強な防衛システムにしていたのだろう。

 瞬時に理解し、亜紀ちゃんが穴を空けた理由も分かった。

 もう防衛システムは全ての妖魔が死んだことでただのベトンになったのだ。

 そして膨大な妖魔は、この地獄の悪魔を召喚することに使われた。


 高速で移動する地獄の悪魔を、聖が射撃で追い続けている。

 何発かヒットしているのは、流石の聖だ。

 銃創から黒い液体のようなものが漏れている。

 受肉したことで、血液のようなものが流れているのだろう。


 あの交差した腕が問題だ。

 あれを開くことで、何らかの能力を発現するらしい。

 まだ、下の2組しか開いていない。

 捩じ切る能力が一番下。

 その上は自分の周囲に結界を展開することか。

 しかし結界は長続きはせずに、一度また交差させる必要があるらしい。

 聖はそのタイミングを既に理解していた。

 戦闘の天才だ。


 だが、上の2組の手はまだ一度も開いていない。

 どのような能力なのか不明だ。

 デュールゲリエが「スズメバチ」を全機飛ばして来た。

 100体が地獄の悪魔の周囲に展開し、一斉に「虚震花」を撃ち込む。

 すると、地獄の悪魔の下から3番目の手が開いた。


 「全員シールドに入れ!」


 俺は叫んだ。

 地獄の悪魔の体表に無数の赤い点が浮かんだからだ。

 レーザーのような光が無数に伸び、俺も5発喰らった。

 範囲攻撃か。

 「スズメバチ」の半数が床に落ちた。

 すかさずデュールゲリエ7体が突っ込んで来る。

 俺を護るためだろう。

 俺の胸部に2発、腹に1発、右の太ももと右肩に1発ずつ。

 デュールゲリエは俺の前に来て、そのまま地獄の悪魔に突っ込んで行った。

 ブレードでの攻撃だ。

 4体が瞬時に捩じ切られた。

 

 「どけぇ!」


 俺はその後ろから走った。

 デュールゲリエたちが一斉に左右に開いて行く。


 「夢想煉獄!」


 高速で連撃を繰り出し、地獄の悪魔に斬り掛かった。

 手が開かれる前に斬り落とし、下の2対は使えなく出来た。

 しかし地獄の悪魔も必死に回避し、下から3番目の組が開かれる。

 「スズメバチ」が瞬間に体表に取りつき、一瞬の間を作った。

 俺が腕を斬り落とした。

 だが先ほどのダメージでそれ以上の追撃が出来ず、距離を取られた。

 最後の最上段の腕が開かれる。


 「全員退避! 急げぇ!」


 俺の号令で全員が亜紀ちゃんの空けた穴から飛び出す。

 俺はデュールゲリエたちを抱えて外へ飛び出した。

 上空から見下ろすと、基地の建物全体に黒い血管のようなものが拡がっていた。

 そのまま急速に腐敗するかのように、黒い粉塵となって、崩れて行った。

 30秒後には、もう黒い堆積しか残っていなかった。

 地獄の悪魔の姿も消えていた。

 俺たちは尚も空中で見下ろしていた。

 デュールゲリエが俺に自分で飛ぶと言ったが離さなかった。


 「お前ら、無茶をし過ぎだ。蓮花が泣くだろう」

 《……》


 20分後、ようやく俺たちは地上へ降りた。





 「トラ、ヤバい奴だったな」


 聖も流石に疲弊していた。


 「ああ、一瞬の勝負だったな。あんな敵は久しぶりだぜ」

 

 亜紀ちゃんが俺に駆け寄って来る。


 「タカさん! 傷を見せて下さい!」

 

 俺はコンバットスーツを脱いだ。

 双子も来て、すぐに「エグリゴリΩ」「オロチ」「手かざし」を始める。

 胸部の傷は、肺を貫通している。

 腹部のものは小腸か。

 光線のように見えたが、何か物質が貫通した感覚がある。

 よくは分からない。

 粉末を口にして、たちまち傷が塞がって行く。

 他の人間に負傷が無いかを確認したが、みんなシールドで守られたようだ。

 聖は自分で回避していた。

 距離が近かった俺だけが受けたようだ。


 「「虎王」の極星結界も抜けやがった」

 「そうか。回避するしかない攻撃だな」

 「ああ」


 俺も聖も、既に考えている。


 「タカさん! すぐにアラスカで検査を!」

 

 亜紀ちゃんが半狂乱だ。


 「ああ、分かったよ」


 皇紀が「タイガーファング」を呼んでいる。

 もう戦闘は無いだろう。

 亜紀ちゃんの指示で俺はベッドに寝かされて移動した。


 「聖、「業」もやはり強くなっているな」

 「そうだな。まったく油断できねぇ奴だ」

 「でも俺たちなら撃破出来るな」

 「当たり前だぁ!」


 みんなが笑った。

 皇紀が3体のデュールゲリエに説教していた。

 そして泣きながら俺を護ってくれたことに感謝していた。


 亜紀ちゃんが俺の頭を抱き、柳が俺の足元で泣いていた。


 「柳、よくやった」

 「石神さん!」

 「お前は最後まで戦った。立派だったぞ」

 「石神さん!」


 柳が大泣きした。



 俺たちもまだまだ強くなる。

 どんなに「業」が前に進んでも、俺たちは絶対に負けない。

 そう誓いを新たにした。

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