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挿話: 蓼科夫妻のNY見物

 朝食の会場は非常に賑やかだった。

 石神の大勢の下良い仲間が集まり、俺や静子の所へみんなが挨拶に来てくれる。

 

 「花岡さん、また一段と綺麗になったね」

 「まあ! 院長先生、ありがとうございます! でも院長先生たちもお若くなりましたよね?」

 「そうかな」

 「そうですよ! 前にお会いした時も思いましたけど、また一段と」

 「石神のお陰かな」

 「アレですよね?」

 「うん。アレのもっと効能の上がるものが出来たと言ってな。二人で口にしたんだ」

 「それで!」


 花岡さんと子どもの士王君、それに桜花さんたちと一緒のテーブルだ。


 「士王君もしっかりしてきたね」

 「はい! もう歩き出したんで、毎日大変です」

 「こないだレストランで食事をしてたら、いつの間にか知らない女性のテーブルに行ってしまって」


 桜花さんが話してくれた。


 「あれは困ったよねー」

 「何があったんだ?」

 「金髪のカナダ人の女性だったんですけどね。オッパイが大きくて」

 「ああ!」

 「女性の膝に乗って、胸を……」

 「ワハハハハハハ!」


 士王君は女性の胸が大好きだ。

 静子もやられた。


 「その女性は笑ってくれてましたけどね。説明が大変で」

 「コンピューター技師の方だったんですけど。「虎スパ」の招待券を差し上げたら喜んでくれまして」

 「そうだったか」


 「虎スパ」は、花岡さんの提案で出来た浴場施設らしい。

 俺は行ったことは無いが、日本でも人気の、様々な風呂が体験できるもののようだ。


 「あの、院長先生。本当に私たちと一緒にニューヨークを周りませんか?」


 花岡さんが気を遣ってくれる。

 でも、俺たちのような年寄りと一緒では楽しめないだろう。


 「いや、静子と二人でのんびりと周るよ。石神がガードと案内の人間を手配してくれたしな」

 「そうですか」


 石神が、それぞれの招待客が楽しめるように添乗員を大勢手配してくれた。

 事前に行きたい場所などを相談し、万事調整してくれている。

 俺たちはマウントサイナイ病院の視察を頼んでいた。

 全米で最高峰の病院だ。

 新たにアラスカでの病院長就任の前に、海外の病院を見ておきたかった。

 その他は、石神の勧めでニューヨーク近代美術館に行くことにしている。

 大きな建物なので、石神が見ておくといいという場所も聞いた。

 ガードに着く人たちに任せておけば大丈夫ということだった。

 ずっと車で案内してくれるそうだ。


 部屋で待っていると、二人の女性が迎えに来た。


 「ルーシーです!」

 「ハーマイオニーです!」


 身長175センチの外国人の双子の女性のようだった。

 キラキラの銀色のストレートの長髪。

 目の色がルーシーさんが空色で、ハーマイオニーさんがピンクだった。

 ピンクの瞳は珍しい。


 「ルーとハーって呼んで下さいね!」

 「皇紀様とはフィリピンで親しくさせていただいていました!」


 それで分かった。

 人間にしか見えないが、この二人は石神が作ったデュールゲリエなのだ。


 「ルーちゃんとハーちゃんか! そうか、じゃあ今日は一日お願いします」

 「「はい!」」


 明るい性格のようで、静子も楽しそうだ。

 二人に連れられて、俺たちはホテルの地下の駐車場へ向かった。

 

 「この車です。ベントレーの「FLYING SPUR MULLINER W12」というモデルになります」

 「へ、へぇ」


 紫色の大きな車だった。

 俺がいつも乗っているダイムラー・ジャガーよりも大きく見える。

 ルーちゃんとハーちゃんが後ろのドアを開けてくれた。


 「「どうぞ!」」


 静子と二人で乗り込んだ。

 やはりシートが素晴らしい。


 「じゃあ、最初はマウントサイナイ病院で宜しいですね?」

 「ああ、宜しく頼むよ」

 「「はい!」」


 ルーちゃんが嬉しそうに発進させた。


 



 車の中で、二人からいろいろ話し掛けられた。

 フィリピンでの皇紀君の活躍や日常などで、楽しい話ばかりだった。

 静子もすぐに打ち解けて一緒に話して笑っていた。


 「石神様から、蓼科様たちをご案内するように命じられて、本当に嬉しかったんです!」

 「それはどうしてだい?」

 「だって! 石神様が最も尊敬して敬愛されているお二人ですよ! 最高の栄誉じゃないですか!」

 「そんなことはないよ」


 でもそう言われて嬉しかった。

 石神が言っていた。

 デュールゲリエは純粋なのだと。

 だから二人が本当に喜んで俺たちを案内してくれていることが分かった。

 石神が二人に話したことも、その通りなのだろう。

 だから嬉しかった。


 「あ! どこか行きたい場所がありましたら、いつでも言って下さいね!」

 「ニューヨークのことは大体把握してます! 行けない場所は多分殆どないですからね!」

 「分かった、ありがとう」

 「ホワイトハウス、行っときます?」

 「いや、そこはいいよ」

 「「ワハハハハハ!」」


 本当に行けるのか。

 デュールゲリエは大勢いるが、ほとんどは画一的な鏡面仕上げの頭部だ。

 ルーちゃんとハーちゃんのような人間的なタイプは「ユニーク・モデル」と言うらしい。

 

 「でも、他のデュールゲリエも感情はあるんですよ」

 「最初は違いましたけど、今は全て会話が出来るようになっています」

 「そうなのか」

 

 知らなかった。

 石神と蓮花さんがデュールゲリエを本当の仲間だと思っている証だろう。


 「オッパイもついてますよー!」

 「士王さんに気を付けろと言われてます!」


 俺と静子で笑った。





 マウントサイナイ病院に着き、玄関で案内してくれる人間が待っていた。

 サイモン・ガーナーという副病院長らしい。

 俺は名刺を交換して、今日の礼を言った。


 「「タイガー・ホール」の方をお迎え出来て名誉に思っております。何なりと仰って下さい」

 「ありがとうございます。お世話になります」


 俺は英語で話しているが、静子にルーちゃんたちが同時通訳をしてくれていた。

 静子には退屈かもしれないが、ルーちゃんたちがいろいろ話し掛けてくれている。

 一度ティールームへ案内され、病院の概要を説明してくれた。

 7400人の専門医と、42000人の従業員。

 桁外れの規模だ。

 アラスカの「虎病院」は更にそれを上回る規模になるらしい。

 驚いたのは、うちの病院でも一部でやっているが、研究機関の充実だった。


 「高度な技術を持つことは重要です。でも、それ以上に重要なのは、新たな技術を求める精神です」

 「なるほど」


 俺が興味を持ったので、研究施設から案内してもらった。

 免疫学、細菌学、血液学、薬学、その他あらゆる治療に必要な学問の専門研究機関があった。

 医科大学も設立され、そちらでも重要な研究が進んでいる。

 企業の協賛も多く、資金面でも盤石の態勢が整っていた。

 そして実際の診療の風景や最新の医療機器、その他の設備も見て回った。

 その間に、俺や静子の体調を気遣って、時々ルーちゃんたちが休憩を進言してくれた。

 ちょっとソファに座ったりして、俺と静子は快適に病院を回ることが出来た。


 「今日はいろいろとありがとうございました」

 「いいえ、御満足いただけたでしょうか」

 「もちろん! 貴重な体験を致しました」

 「それは何より」


 ガーナー副院長は、帰り際にハードディスクをくれた。


 「今日だけでは全てを周れませんでしたので、うちの病院のことをまとめておきました」

 「それは有難い!」

 「私たちは「タイガー・ホール」に全面的に協力いたします。これからも、どうぞよろしくお願いします」

 「こちらこそ!」


 握手を交わして駐車場へ向かった。


 「あ、ちょっとテストしてみていいですか?」

 「ん?」


 ルーちゃんが言うので、駐車場前で立ち止まった。

 何かが飛んで来た。

 大きなごつい機関銃と、大きな曲がった刀剣が猛スピードで何かに運ばれて来た。

 XM250という機関銃と、クックリナイフというものらしい。

 運んで来たのは、ハチの形をした50センチほどの飛行体だ。

 他にも拳銃の入ったベルトやよく分からないものを吊って来ていた。


 「大丈夫でした!」

 「お二人を護る体制はバッチリですよ!」


 「「……」」


 



 そういうの、必要なのか?

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