挿話: スパイダーマンのドライブ
「皇紀ちゃん、今日は何しよっか」
タカさんたちが出掛けたので、ハーと皇紀ちゃんと相談した。
まだ食堂だ。
ロドリゲスさんが、追加でパンケーキを持って来てくれた。
三人でそれを食べていた。
「ニューヨークって言ったらアレじゃん」
ハーが言う。
「やっぱ?」
「そうだよ!」
「アレかー」
三人で話していると、響子ちゃんが来た。
「出掛けるの?」
「うん。またスパイダーマンやって来ようかなって」
「いいなー」
「響子ちゃんも一緒に行く?」
「え!」
いつも響子ちゃんと一緒にいる六花ちゃんは、タケさんたちと遊んでいるはずだ。
響子ちゃんはここで独りで寂しいだろう。
「でも、私動けないし」
「そっかー」
「皇紀ちゃん、何とかして」
「えぇー!」
皇紀ちゃんは困っていたが、それでも考えてくれた。
「クッション性のいい物に乗ってもらって、僕たちが運ぼうか」
「あ! いいね!」
「でも、どんなの?」
「うーん。ベッドじゃ落ちるかもしれないなー」
「どうする、作る?」
「材料とかなー。そうだ! 車とか!」
「なるほど!」
「オープンカーとか良くない?」
「いいね!」
執事長さんに聞いてみた。
皇紀ちゃんが英語が随分と出来るようになった。
フィリピンでのエロ英語学習が役立っている。
執事長さんは最初は意味が分からなかったようだけど、分かってから大笑いされた。
「なるほど、それは楽しそうですね」
「ね! それでオープンカーはあります?」
「はい、ございますよ。一応ご主人様にお話ししますね」
「「「おねがいしまーす!」」」
すぐに静江さんに連絡してくれ、許可を得た。
「シズエ様が笑っていらっしゃいました。宜しくと仰ってましたよ」
「「「はい!」」」
早速オープンカーを借りた。
ベンツのロードスターで、タカさんのと同じものだった。
色は白だ。
私たちはスパイダーマンの服を着て、響子ちゃんには亜紀ちゃんのものを貸してあげた。
「ちょっと胸がきゅうくつかな」
「「「……」」」
背中に切れ込みを入れて調整した。
響子ちゃんをベンツに入れ、ロボも一緒に乗った。
「いくよー!」
前が私。
後ろをハーと皇紀ちゃん。
三人で担いで、外へ出た。
「たのしー!」
響子ちゃんが喜んでいる。
みんな私たちを驚いて見ている。
最初は広い歩道を走っていたが、そのうちに車道へ出た。
時速50キロ。
「ワオ!」とか「アメイジン!」とか言われ、スマホでどんどん撮影された。
響子ちゃんは上でロボと叫んで興奮している。
隣を走る車の人たちも驚いていた。
「どこに行こうか?」
「セントラルパークでソフトクリーム!」
「おっけー!」
道は覚えている。
私がどんどんセントラルパークに向かって行った。
セントラルパークに着いて、みんなでソフトクリームの屋台を探した。
「あっちだ!」
皇紀ちゃんが見つけて指差した。
車での販売だ。
私たちが近くへ行くと、店の人や周りにいた人たちに驚かれた。
「おい! それ担いできたのかよ!」
「そうだよー」
爆笑された。
そっとベンツを地面に降ろした。
周りにいた人たちが集まって来る。
作り物だと思った人が持ち上げようとした。
「本物だぞ!」
「なんだと!」
みんなが持とうとして出来ない。
「触らないでね。高級車だからね!」
みんなが驚き、拍手してくれた。
ソフトクリームは、みんながご馳走すると言ってくれた。
響子ちゃんにはミニサイズを頼んだ。
私たちが食べていると、前にスパイダーマンを観たと言う人たちがいた。
「君たちだね?」
「たぶんねー」
大勢が集まって来て、いろいろ聞かれた。
楽しかった。
「じゃあ、出発しようか!」
またベンツを担いで移動した。
「ルー!」
皇紀ちゃんに呼ばれた。
あ、サイレンの音がする。
「パトカーだよ!」
「うん!」
「どうする?」
「これって、違反かなー」
「運転してないよ?」
「そうだよね?」
「そういう問題じゃ……」
そうかなー。
パトカーが来て、私たちの前に止まった。
警察官が二人来る。
ニューヨークは常にツーマンセルだ。
「「「はろー!」」」
二人の警察官は驚いていたが、そのうちに笑った。
「ヘイ、スパイダーマン! 何をやってるんだ?」
「ちょっとドライブ?」
「「ワハハハハハハ!」」
顔を見せるように言われた。
またそっとベンツを降ろし、覆面を取った。
「まだ子どもじゃないか!」
「おい、これ本物だぞ!」
警察官たちが驚いている。
「お前ら、前にもニューヨークで騒いでいた連中だな?」
「しらなーい」
無線でどこかに連絡していた。
「このナンバー! ロックハート家のもんだぞ!」
「なに!」
「おい、君たちは「虎」の軍の人間か?」
「そうだよー」
「「!」」
警察官たちが敬礼をして来た。
「失礼しました! どうかこれからも頑張って下さい!」
「「「はーい!」」」
パトカーで先導すると言われたけど、めんどくさいので断った。
「ルー、そろそろお昼だよ」
「そっか!」
11時を回っていた。
そろそろ帰らなきゃ。
「じゃあ、行くね?」
「「はい!」」
「飛行」で飛んだ。
警察官たちがポカンと口を開いていた。
そのまま飛んで、ロックハート家の庭に降りた。
執事長さんが外へ出て来た。
「お帰りなさいませ。楽しかったですか?」
「「「うん!」」」
響子ちゃんも楽しかったと興奮していた。
ロボも嬉しそうだった。
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ブロード・ハーヴェイからの帰りのリムジンの中。
静江さんが俺に笑って言った。
「実はね、午前中に執事長から連絡があったの」
「はい?」
子どもたちが、響子を連れてドライブに行ったそうだ。
「そうですか。どなたが運転して下さったんです?」
「それがね。みなさんで担いで走ったそうよ」
「……」
あいつらー。
戻ると、子どもたちと響子が俺に寄って来て、楽しかったのだと言った。
俺も仕方なく笑って、良かったなと言った。
亜紀ちゃんのスパイダーマンの衣装を響子が着たそうだ。
胸が小さかったので、背中がカットされていた。
亜紀ちゃんが呆然としていた。
響子は順調に成長している。