表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2029/3031

石神家 歓待 Ⅱ

 「やっとこのメンバーになったな」


 ワイルドターキーを出し、つまみを並べた。

 雪野ナス。

 ラムチョップ。

 冷奴。

 チーズとソーセージ盛り合わせ。

 カプレーゼ。

 マッシュルームのアヒージョ。

 キャビア。

 ムール貝の酒蒸し。

 

 「今日は俺の奢りじゃねぇな」

 「何言ってんだよ、奢れよ」

 「どうやるんだよ!」


 聖が笑う。

 三人で乾杯した。


 「まあ、日本でこの三人で飲むとはな」

 「トラのお陰だな」

 「そうだな」


 色々な人間がいるが、俺もこの三人で飲むのは格別だ。

 

 「しかしよ、何度も言ったけど、あのトラの演奏って最高だったぜ」

 「おい、もういいよ」

 「だけどよ!」

 「いいって。もう勘弁してくれ」


 俺は好きなギターを弾いて来ただけだ。

 他人に評価されるためじゃない。


 「ジャンニーニ、トラはシャイなんだぜ」

 「そうなのかよ!」

 「おい!」


 聖が笑っていた。


 「こいつ、いつもカッコ付けてるくせによ。肝心なことはいつも口にしねぇ」

 「ああ、なるほどな」

 「トラはさ、いつもお前のことを心配してる」

 「え?」

 「俺と話す時は、毎回お前のことを聞くよ。それで最後にはお前のことを護ってやってくれってな」


 「言ってねぇよ!」


 「トラ、ほんとかよ?」

 「だから言ってねぇって!」


 聖の胸を叩いた。


 「な、シャイだろ?」

 「そうだな」


 二人で笑いやがった。

 ジャンニーニは聖が純粋な男で、嘘を言わないことを知っている。


 「まあ、お前らは大事だからな」

 

 二人が微笑んでいた。


 「ジャンニーニ、仕事の方はどうだよ?」

 「ああ、儲かってるぜ! 軍の方からバンバン仕事が入って来るし、建設関連でもあちことでなぁ! トラのお陰だ!」

 「俺は手伝ってもらってありがたいだけだよ」

 

 ジャンニーニ一家の流通と建設の会社を使っている。

 それらの企業はどんどん拡大し、全米屈指のものとなっていった。

 また、昔からの特殊なコネクションでの情報もありがたい。

 政治や司法にまで食い込んでいる。

 千石の情報を最初に掴んでくれたのもジャンニーニだった。

 そこからアメリカの司法に俺が圧力を掛けることが出来た。


 「今度はフィリピンだな!」

 「ああ、皇紀が渡りをつけた。大変だったぜ」


 俺はちょっと待ってろと言い、ノートPCを持って来た。

 二人に皇紀の金髪ポンパドールを見せてやった。


 「「ギャハハハハハハ!」」


 「な、いいだろ? 舐められちゃいけねぇから、俺がこの格好にして送り込んだ」


 基盤の弱い現大統領のために、敵対するギャングや軍の連中をぶっ潰して回った話をする。


 「二人のデュールゲリエを付けてやったんだ。戦闘狂のモードにしてなぁ。まあ、派手に暴れまくったぜ」

 「すげぇな!」

 

 幾つか戦闘シーンを見せた。

 でかいマシンガンで敵を即座に制圧していく。


 「それでよ、皇紀ってお年頃じゃない」

 「なんだ?」

 「溜まってんだよ! だからあいつ、毎晩女を買いに行った」

 「おお」

 「それが全部記録されててなぁ。婚約者の風花にバレた」

 

 「「ギャハハハハハハ!」」


 「こないだ謝りに行ってなぁ。面白かったぜ」

 「ひでぇな」

 「あいつ、女性は風花さんだけです、なんて言ってたからな。風花も若いしショックを受けてたしよ」

 

 何とか許してもらった。

 2日間、風花の家の庭で土下座をした。

 まあ、元々愛情がある二人だったので、それで終わった。


 「またやるだろうけどな」

 「トラの子どもだしな!」

 「ジャンニーニ、俺は溜まってねぇ」

 「おお、あちこちに女がいるしなぁ」

 「うるせぇ!」


 その通りだ。

 楽しく話して、またジャンニーニが潰れた。

 酒に弱い男ではないのだが、俺たちと飲むとペースを忘れて飲み過ぎてしまう。

 俺が笑って担いで、部屋に運んだ。

 マリアが起きて、俺に礼を言った。


 「何かあったら、内線で呼んでくれ」

 「はい、いつもありがとうございます」

 

 「幻想空間」に戻り、聖と飲み直した。


 「トラ、いよいよ戦争が始まるな」

 「ああ」


 聖も感じている。

 戦争の風が吹き始めた。


 「多分、南米が主な戦場になる」

 「そうか。何か掴んだか?」

 「こないだ羽入と紅がブラジリアに出張っただろう。お前に助けてもらった」

 「ああ、相当な施設だったな」

 「あれだけの規模で、しかも厄介な新種まで開発してやがる。それは「業」がブラジルに深く喰い込んでいるからだろうよ」

 「そうだな。他の国にもな」

 

 南米の多くは政府の力が弱い。

 政治的に反米の人間も多くいる。

 それにアマゾンや多くの人間が入らない土地が広大にある。

 資源もだ。

 「業」にとっては喉から手が出る程に欲しい場所だろう。


 「あの柱の化け物はヤバかった。俺も初見でぶつかったら危なかったかもしれねぇ」

 「何しろ紅が羽入を護ることに夢中だからな。だから何とか凌いだ」

 「あの二人はいいな」

 「そうだろ! 最高の連中だぜ」


 羽入たちには危険な任務をさせてしまっている。

 俺たちが予想できなかった危地に何度も立たせてしまった。

 それでもあの二人の愛がそれを突破させてきた。


 「本当に愛し合っているんだ。だから強い」

 「そうだな。お互いに命を擲って相手を救おうとしている」

 「ああ、美しい連中だ」

 

 俺は虎白さんたちの話をした。


 「あの人らは親父のことが大好きでさ。だからな、俺は心のどこかで死なせたくないと思ってたんだ」

 「ああ」

 「でもな、こないだ虎白さんに言われた。俺の戦場でみんな死にたいんだと。本気だったよ。俺はぶん殴られた以上に驚いた」

 「そうか」

 「石神家っていうのはさ、戦って死にたいっていう狂信者なんだよ。それは知ってたけどな。でも俺なんかのためにと思っていたようだ」

 「いい人たちなんだな」

 

 聖に言われて嬉しかった。


 「最高だぜ! あんなに純粋な人たちはいねぇ。昔の侍だってよ、あんなに純粋に死ぬことを求めていた奴はいないと思うよ。だから石神家っていうのは、どこの大名にも恐れられていた。徳川からもな」

 「そうか」


 「聖、あの人たちを使ってくれ」

 「俺が?」

 「まあ、他の軍隊組織じゃ無理なんだよ。誰にも止められねぇ」

 「トラが使えばいいじゃないか」

 「俺なんか全然言うこと聴いてくれねぇよ!」

 「お前が当主なんだろ?」

 「名前だけだって散々言われてるよ!」


 聖が大笑いした。


 「じゃあ、俺なんかも無理だろう」

 「いや、お前は目標を与えるだけでいい。絶対に撃破するから、そのつもりで突っ込ませればいいから」

 「なんだ、そりゃ」

 「強さは保証する。でも言うこと聞かねぇってだけだからな。作戦にはそういうつもりで組み込んでくれ」

 「殲滅戦ってことか?」

 「そういうこった。皆殺しとぶっ殺しとぶっ壊しだ。誰かと連携しろとか拠点を防衛しろとか無理だからな!」

 「ミサイルみたいな連中だな」

 「その通り!」


 撃ったら爆発させるしかない人たちだ。


 「ただな、自分たちを上回る強敵には「見切り戦」というのをやる」

 「それは何だ?」

 「一人が残って出来るだけ敵の攻撃を出させる。数人が離れてそれを見て、その情報を持って帰るんだ」

 「おい、すげぇな」

 「石神家はそうやって技を練り上げて来た。だから最強なんだよ。必ず撃破する方法を見出す」

 

 俺は前に「花岡」を使おうとして、それが既に返し技があったことを話した。


 「「花岡」まで知ってるのか!」

 「そうだよ。前に磯良が使う「無限斬」を虎白さんが使ってた。一子相伝の技のはずだぞ?」

 「とんでもねぇな」

 「だろ?」


 遅くまで聖と話しながら飲んだ。

 3時を回り、そろそろ寝るかと言った。


 「トラ、明日頼みたいことがあるんだ」

 「なんだよ?」

 「帰る前に、お袋の墓参りがしたい」

 「!」


 「ずっと行ってなかったからな。トラ、お前がいつも俺の代わりに行ってくれてたんだってな」

 「おい……」

 「知らなかったよ。ありがとうな」

 「いや、お前、どうして……」


 聖にも話していなかった。

 こいつが気にして俺に礼なんか言うのが嫌だったからだ。

 俺が勝手にやっているだけで、聖が気に病む必要はない。


 「トラ、お前には本当にいつも感謝しかない。ありがとう」

 「よせよ、俺が勝手にやってただけだ。お前はアメリカにいるんだからしょうがないだろう」

 「うん。こないだ小島将軍から教えてもらった」

 「なに! お前、小島将軍に会ったのかよ!」

 「突然会いに来てな。ニューヨークのアパートメントだ。驚いたぜ」

 「……」


 まさかと思った。

 だが、日本で俺が聖のお母さんの墓参りをしていることは、ほとんど知らない。


 「俺ってこんなだろ? だからお袋に会わせる顔もなくてさ。行っても誰もいないしな」

 「聖……」

 「だから、日本にいた時にも全然行かなかった。もう死んじまった人だから、俺には関係ねぇってさ。でも違ったよ。トラ、お前がずっと大事にしててくれた。俺が見捨ててたのによ! トラ! お前は俺の最高の友達だ!」

 

 聖が泣いていた。

 

 「小島将軍は、アンジーと聖雅に会ったか?」

 「ああ、一緒にいたからな。聖雅を抱かせて欲しいと言うんで、そうしたよ」

 「そうか」

 「おっかない人だって知ってるけどな。意外と優しい顔をしてたぜ」

 「そうか」


 親子の名乗りはしなかったのだろう。

 まあ、今更だ。


 「「虎」の軍と一緒にやって欲しいと言われた。もちろんだ。俺はそのために生きていると言ってやった」

 「そうか」

 「トラのことを相当気に入っているみたいだったぜ。だから俺なんかのとこにも来たんだな」

 「そうかもな。ああ、前に小島将軍がお前のことを褒めていたよ」

 「そうなのか? まあ、帰り際にな、お袋の墓にお前がよく行ってることを教えてもらった。日本に行ったら自分でも行くといいってさ」

 「そうだったか」


 「ああ、土産ももらった。なんか白い陶器の像でな。仏像だと思うんだけど、俺、よくそういうの知らないから」


 聖がスマホで撮ったものを見せてもらった。


 「!」


 「トラ、お前分かる?」

 「あ、ああ。俺にも分からない。観音像だと思うんだけどな」

 「そっか。まあいいや。凄く綺麗だよな!」

 「そうだな、綺麗だ」


 聖の母親の顔だと思う。

 一度だけ、聖のお母さんの初さんの法要に呼ばれ、写真を見せて頂いた。

 その顔に似ている。


 「何だか分からないけどな。大切にするよ」

 「それがいいだろう」


 俺が何かを話すべきことではない。

 でも、聖も気に入ったようで良かった。





 俺たちは解散して寝た。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おぉ!聖と小島将軍、一歩進みましたね! 戦局がどうなっていくかは不透明ですが、色々なことがいい方向にまわり始めていてこれからも楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ