表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2028/3030

石神家 歓待

 最後に橘弥生と徳川さんに挨拶に行った。


 「石神さん、今日の演奏も良かったわ」

 「ありがとうございます。こんな遅い時間までお付き合い下さいまして」

 「本当に良かった。あなたは最高ね」

 「そんな! でも俺も楽しかったですよ」

 

 「トラ、私もお礼を言うわ。今日はありがとう」

 「恋人の頼みですからね」

 「トラ!」


 徳川さんが笑った。


 「あなたたち、本当にお付き合いするのね」

 「まあ、橘さんには逆らえないですからね」

 「あなた!」

 「今後ともお願いします。でも、ギタリストじゃないんで、手加減して下さいね」

 「あなたは本当に!」


 俺も笑った。

 ほとんどの人間が告白の話はジョークだと思っていることは、橘弥生も分かっている。

 一緒にいた古賀さんと西木野さんはドギマギしているが。

 その西木野さんから言われた。


 「石神さん、僕も感動した。本当に素晴らしいコンサートだった」

 「ありがとうございます。でも俺なんてちょっと毛色が変わっているだけですよ」

 「そんなことはない。サイヘーさんの跡を継ぐ人間だ。僕はまた確信したよ」

 「大袈裟ですよ。貢さんは俺の永遠の憧れです」

 「僕も頑張るよ。今になってこんな気持ちになるなんて思わなかった」

 「頑張って下さい」


 古賀さんからも褒められ、照れ臭かった。


 「今日のコンサートのことも記事にするからね」

 「お任せします。貢さんと門土のことをメインにして下さい」

 「アハハハハ! うん、そこもちゃんと書くよ。門土君も来てくれてたと思うよ」

 「そうですか」


 『虎は孤高に』で、門土が俺にデビューコンサートで呼び掛けたシーンが出て来る。

 俺の最後の呼び掛けは、大勢の人間が分かったことだろう。

 俺は門土に礼が言いたかったのが、このコンサートの大きな目的の一つだった。

 橘弥生が門土と同じサントリーホールを押さえてくれた気持ちが分かったからだ。


 時間となり、解散した。

 俺は出口で一人一人に礼を言い、挨拶した。





 俺の運転で、ロールスロイスに聖とアンジー、聖雅を乗せた。

 ジャンニーニたちは柳の運転でアルファード。

 他の連中は便利屋の運転でリムジンに乗り込む。


 家に着いて、すぐに風呂に入った。

 「虎温泉」に最初は女性陣から案内した。

 全員の浴衣を用意している。

 栞、麗星、アンジー、マリアとシルヴィア、エミー、それと亜紀ちゃん、柳、双子だ。

 少しきついが、まあ余裕はある。

 俺はその間に食事を摂った。

 次に俺と聖、ジャンニーニ、五平所、皇紀、マリオ、それに士王と天狼、聖雅。

 チビたちは早めに上げた。

 ジャンニーニが大喜びだった。

 前回うちに来た時には、風呂には入れなかった。

 

 「おい、こりゃいいもんだな!」

 「そうだろう」


 聖と一緒に笑った。


 「じゃあ、今日はスペシャルを喰わせてやる」

 「なんだ?」


 内線で双子を呼び、かき氷を作らせた。

 五平所が喜び、ジャンニーニが狂喜した。


 「おい、なんだこれは!」

 「かき氷って言うんだ。日本の夏の食い物だ」

 「俺は将来日本に住むぜ!」

 

 慌てて喰うなと言ったのに、ジャンニーニが頭痛を起こして文句を垂れた。


 風呂から上がり、リヴィングで酒を飲んだ。

 エミーを隣に座らせる。

 今日はいろいろな人間がいて、エミーとは全然話せなかった。


 「エミー、わざわざお前まで来てくれるなんてな!」

 「トラ! 感動したよ! あのギターだよね?」

 「ああ、お前のせいでこんなことになっちまった」

 「えぇー!」


 みんなが笑った。

 経緯を知らない人間もいるので、簡単にエミーの店でジョン・ウェラーのギターをもらい受けることになった話をした。

 亜紀ちゃんが英語で通訳する。


 「不思議なんですよ! ウェラーさんが弾くと、音が抜けちゃうんです!」


 亜紀ちゃんがウェラー氏の所でのことを話した。


 「トラ、うちじゃしょっちゅうお前のCDを掛けてるんだ」

 「聖が音楽なんか聴くとはなぁ」

 「トラのだからだよ。でも、俺も音楽が好きになった」

 「マジか!」

 

 「私も毎日聴いてるよ!」


 シルヴィアも言った。

 エミーも店で時々掛けていると言った。


 「でも、うちってクラシックって感じじゃないから」

 

 客の少ない時らしい。


 「ねぇ、トラ。モンドって誰なの?」

 

 エミーが聞くので、俺がかいつまんで話してやった。

 知らない人間たちが泣く。


 「聖とはこんな仲だけどな。門土とはガキの頃から本当に仲良しだったんだ。あいつはピアニストとしても最高だった。ずっと母親の橘弥生を追い掛けてな」


 最後の呼びかけは門土がデビューの時に俺にしてくれたことだと話した。


 「俺はステージに行けなかった。俺なんかがあんな素晴らしくなった門土に顔を出せなかったよ。でも、俺も呼び掛けて分かった。あいつに、本当に来て欲しかった。門土の顔が見たかった」

 

 みんな黙っている。


 「俺がその時座ってた席を、橘さんが調べ直してくれた。円城寺さんというサントリーホールの偉い人も過去の記録を辿ってくれてな。その席に門土の遺影を置いた。あいつ、来てくれたかな」

 「きっと来ましたよ、タカさん!」


 亜紀ちゃんが言った。


 「みんなが出て行ってからな、橘さんと遺影を一緒に取りに行った。もう一度あの席に座ってさ。懐かしく思い出したよ」

 「そうだったんですか」


 雰囲気を変えるために、俺は麗星と一緒に篠笛とギターで演奏しようと言った。


 「あなた様、申し訳ありません。今日は持って来ておらずに」

 「大丈夫だ!」


 俺は地下から篠笛を持って来た。

 麗星がうちに来たら演奏出来るように用意していた。

 麗星に手渡す。


 「これは! まさか「龍砲」ではございませんか!」


 麗星が叫ぶ。


 「ああ、確かそんな名前。小島将軍がくれたんだ」

 「「!!!!」」


 麗星と五平所が驚いている。

 前に会った時に、俺の子を産んだ道間家の女が篠笛が上手いと言った。

 そうしたら、出産祝いだと俺にくれたのだ。


 「これは国宝級のものですよ!」

 「え、そうなの?」

 「あなた様!」

 「いやー」


 空気を変えるつもりが、とんでもない騒ぎになった。

 まあ、あの小島将軍がくれたものだから、高級品だとは思っていたが。


 「俺も篠笛のことって知らなくてさ」

 「……」

 「まあ、それ、お前のものだから」

 「あなた様……」

 「良かったね!」

 「……」


 なんか、金額の付かないものらしい。

 数億でも無理だって。

 へぇー。


 麗星の背中をバンバン叩いて、やろうぜと言った。

 麗星はヘンな顔をして立ち上がり、「龍砲」を口に当てた。

 ひとしきり音を試して、吹き始める。

 俺も静かに合わせて行った。

 次第に麗星も気が乗って来る。

 流麗で華麗で美しい旋律になっていった。

 みんな聴き入っていた。

 突然、大音量が響く。


 「おい!」

 「すみません! 鳴り過ぎました!」

 

 麗星が口から離し、大きく息を吸っていた。


 「あなた様、これは少々練習をいたしませんと」

 「そっかー」


 俺も驚いた。

 「龍砲」の名の通り、とんでもない大音量が出るようだ。


 「伝説では、木花之佐久夜毘売このはなのさくやびめが使っていたと」

 「マジか」

 「はい。龍笛の時代に作られたものとされております」

 「え、篠笛じゃないの?」

 「まあ、厳密には」

 「そっかー」


 知らないよー。


 




 俺もよく分からないことになったので、一旦解散にした。

 俺と聖とジャンニーニとで飲むことにし、「幻想空間」に移動した。

 他の人間は飲みたければリヴィングで続けて飲むことにする。

 桜花に、栞に気を付けろと言った。

 亜紀ちゃんに、今日は客を歓待しろと言っておく。

 まあ、楽しく飲んで欲しい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ