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2024/3031

TORA コンサート

 「石神部長! 土曜日は楽しみにしてますねー!」

 「ああ、よろしくね」


 またナースが俺の部の前で手を振って挨拶に来た。

 俺も仕方なく手を振って挨拶する。


 「はー、部長、鬱陶しいですね」

 「お前がその顔で言うな!」

 「なんですよ、もう!」

 

 一江が文句を言うので、ヘン顔にして遊んでやった。


 「私! 部長のために一生懸命にやったのに!」

 「ありがとさん!」


 顔面を物凄いことにして、大森に写真を撮れと言った。

 鼻の穴にシャチハタとタンポンを突っ込む。


 「一江! すまん!」

 「ヴぉーヴぉびー!」

 「ガハハハハハハ!」


 まあ、一江には世話になった。

 チケットの発売と同時に一江の量子コンピューター「セラフィム」が俺の関連者のチケット予約をした。

 0.0001秒で完売した。

 サントリーホールの大ホール2006席のうち、予約席1950席を俺の関連者で埋めることに成功した。

 26席を橘弥生が招く人間たちが座る。

 橘弥生、徳川さん、音楽友人社の古賀さん、ギタリストの西木野さんやCD録音でお世話になった技師長さんら、他に音楽関係の偉い人たち。

 残る30席は俺の裁量になっていた。

 一般予約では、俺に媚びを売ろうとする政治家や大企業の連中が狙っていたようだが、一切そいつらはチケットが買えなかった。

 後から俺や御堂にチケットが手に入らないかと問い合わせが来たが、全部断った。

 付き合いで来るような人間はいらない。

 

 一江にはそういう世話になったのだが、病院内での予約者を募ったのは主に響子だ。


 「部長! 勘弁して下さいよ!」

 「あー、楽しかった」

 「もう!」


 他の部下たちもいつものことで笑っている。

 パワハラで訴える奴はいない。


 「しかし、響子はいつの間にラインなんて作ってたんだ?」

 「あー、「TO-Line」ですよねー。私も入ってますけど」

 「お前、俺に教えてくれよー」

 「やですよ」


 また一江の顔を掴もうとしたが、大森が「今日はこの辺で」と言うので辞めてやった。


 「週一ですけど、結構面白いですよ?」

 「何を流してるんだ?」

 「そりゃ部長のことですよ。一緒に散歩したとか、エッチなことをされたとか」

 「そんなこと書いてんのかよ!」

 「みんな知ってるからいいじゃないですか」

 「うーん」


 まあ、その通りだが。

 

 「おい、うちの病院内だけだろうな?」

 「一応は。でも関連や傘下の病院と、東大病院でも人気ですよ?」

 「あっちもかよ!」

 「それと製薬会社とか出入りの業者さん。ああ、患者さんたちもいます」

 「おい!」

 「ほら、広報部と秘書課が毎年バレンタインデーの企画で作ったじゃないですか」

 「あー、あれかー」

 「あのデータをそのまま繋げてまして。もちろん脱退は自由ですけど、いませんね」

 「……」






 一江の顔に飽きたので、響子の部屋へ行った。

 離れた場所から、俺のCDの音が聴こえる。


 「よう」

 「タカトラー!」


 響子が抱き着いて来る。

 ついでに六花もどさくさに紛れて抱き着いて来る。

 オッパイを触りながら、仕事中だから辞めろと言った。


 「また聴いてんのかよ」

 「うん! 土曜日まで耳を慣らしておかないとね!」

 「そういうもんじゃねぇだろう」


 響子は本当に楽しみにしている。

 外に出られるからだ。

 しかもコンサートなど、滅多に行けない。

 大勢の人間が集まる場所は、免疫力が低い響子に良くないためだ。

 今回は俺が特別に許可した。

 響子の周囲の人間は俺の関連者で俺が徹底的に管理出来るためだ。

 移動に関しても、他の人間となるべく接触しないように考えている。


 「アルや静江さんたちも来るからな」

 「うん!」


 アルと静江さん、それにロドリゲスと執事長も一緒に来る。

 アビゲイルも大使夫妻と一緒に来る。

 ニューヨークからは、他に聖とアンジー、聖雅、クレア、ジャンニーニたち、スージー、エミーも来る。

 聖は興味が無いと思ったのだが、ブロード・ハーヴェイでのライブのことを話すと、自分も絶対に行くと言った。


 「俺、トラのギターって好きなんだ」

 「ほんとかよ」


 CDを今もよく聴いているらしい。

 それで俺が日本でコンサートをやるのだと話したら、そっちも絶対に行きたいと言った。

 予定外だったが、俺のチケットの持ち分30枚があったので、それで確保した。

 エミーやジャンニーニも亜紀ちゃん経由で聖から聞いて来たがった。

 ジャンニーニはマリアや二人の子どもたちもだ。

 他にも早乙女から頼まれた。


 「うちの早霧たちの分って、どうにかならないかな」

 

 アドヴェロスのハンターたち4人分だ。


 「うーん」

 「早霧と磯良が特に行きたがっててなぁ。チケットがすぐに売り切れになって落ち込んでるんだよ」

 「わかったよ! 世話になってる連中だしな」

 「ありがとう!」


 早乙女夫婦の分は確保してあった。

 まあ、俺が「虎」の軍の人間と明かされる場ではないのでいいだろう。

 早霧が俺の大ファンらしい。

 その影響で磯良や他のハンターも来たがっているということだった。

 へー。


 「じゃあ、響子。身体検査をするからパンツを脱げ」

 「やー」

 「モジャモジャが落っこってるかもしれないだろう!」

 「落ちて無いよ!」

 

 六花も「心配です」と言い、一緒に脱がした。


 「タカトラのエッチィー!」

 「おう!」


 ちゃんとモジャモジャはあった。





 家に帰ると、ロボと一緒に亜紀ちゃんがギターを持って出迎える。


 「さー、タカさん! 練習しとかないと!」

 「先にメシだぁ!」

 

 着替えてリヴィングへ行き、唐揚げ大会で残った3つの唐揚げを食べた。

 一つに歯型が付いていた。


 「……」


 自分でサーモンフライを作った。


 「橘さんから今日も電話が来ましたよ!」

 「毎日だな」

 「はい! ちゃんとタカさんに練習させるって言っときました!」

 「そうか」


 まあ、気遣ってくれているのだろう。

 俺に直接言って来ないのは、先日俺にした思い切った告白を恥ずかしがっているのだろうか。  

 可愛らしい人だ。


 食事を終えて、俺はギターを抱えた亜紀ちゃんと地下へ行った。

 最近はずっと亜紀ちゃんが一緒に来る。

 別に誰がいても邪魔にはならないので放っておいている。

 亜紀ちゃんはニコニコして俺がギターを弾くのを観ている。

 1時間ほど弾いて、亜紀ちゃんにコーヒーを頼んだ。

 すぐに持って来る。


 「コンサートでは、新しいCDの曲を中心にやるんですよね?」

 「そうだな。まあ、全曲じゃないけどな」

 

 俺は『KYOKO』でステージに響子を上げ、『父から捧げる』で三人の子どもたちを上げる演出を亜紀ちゃんに話した。


 「ほんとですかぁ! スゴイじゃないですかぁ!」

 「うるせぇ!」


 本当にうるさい。

 亜紀ちゃんは大興奮で俺の肩をポコポコする。


 「『御堂』と『聖』もな。まだ全然話してねぇんだ」

 「びっくりしますよねー!」

 「そうだと面白いな。特に聖な」

 「はいはい!」


 御堂は会場が大騒ぎになるかもしれない。

 あの御堂総理がステージに上がって来るのだ。

 当日はマスコミも一部入る。

 ヤマトテレビは独占放送だ。

 俺が手配したのではなく、向こうから申し出があって俺が受けた。

 世界的にヒットしたTORAの初のコンサートを取材したいと言って来たのが始まりだ。

 石神高虎だとは、ヤマトテレビも知らなかった。

 俺だと分かって驚かれ、是非バックヤードも取材したいと言って来た。

 最初は1時間のドキュメンタリー構成のつもりだったようだが、俺だと分かって3時間の特番に拡大しやがった。

 まあ、俺の個人情報は伏せるということで、それも許可した。


 「明日はここにヤマトテレビが取材に来るからな」

 「エェー!」

 「別にお前らは関係ないよ。ちょっとここで俺が練習する風景を撮るだけだ」

 「そんな! 私どこにいればいいですか!」

 「出て行け!」

 「えーん」


 その後2時間練習し、風呂に入って寝た。

 流石に酒を飲む余裕もない。


 




 「き、金曜の晩は私たち『虎は孤高に』観てますけど、タカさんは練習してて下さいね」

 「お前がうるさくて出来ねぇよ!」

 「ちょ、ちょっとは大人しくしますから」

 「ちょっとなのかよ!」

 

 俺、結構大変なことやるんだが。

 ド素人がサントリーホールだぞ?

 まあ、遠慮されるよりはいい。

 それに、何だか俺も楽しみだった。

 門土のデビュー・コンサートを思い出した。

 門土もそれをサントリーホールの大ホールでやった。

 俺は橘弥生があそこを俺のコンサートで押さえた気持ちが分かっていた。

 門土の清冽でしかも情熱の籠もった演奏を思い出した。


 懐かしくて涙が出た。

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