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2020/3034

道間家の休日 Ⅴ

 「さて、次の問題だ」

 「はい」

 「新宿でザエボスの種子を埋め込まれた片桐だ。あいつが女性を犯した後で、女性たちが変性した。こういうことはあるのか?」

 「はい。但し、それも滅多にあることではありません。種子を直接埋め込む妖魔も少ないですし、ましてそこからまた派生することは道間の記録でもほとんど無いと思います」

 「そうか」

 「特異な例でございますので、あったのならばわたくしも記憶しております。恐らく一例だけかと」


 麗星は俺と関わることになってから、五平所と一緒に道間家の記録を詳細に調べてくれるようになった。

 俺に役立つものが無いかと頑張ってくれている。

 以前に一江の先祖の編纂していた『週刊特ダネ妖怪』を見つけたのもその一環だ。


 「五平所はどうですか?」

 「はい、私も江戸時代の「鈴懸」だけかと」

 「鈴懸?」

 「はい。蛇性の妖魔だったようです。性的交渉によって眷属を増やすという。虎之介様に成敗されたようですよ?」

 「ああ! 『週刊特ダネ妖怪』か!」

 「あなた様はお読みにはなっておりませんの?」

 「ちょっと気持ち悪くてな」

 

 一江がな。


 「さようでございますか。でも、わたくし共も、あのくらいしか存じません」

 「セックス以外でも、接触して何か変わることは無いのか?」

 「多少のことは。妖魔が意図せずとも強い波動である程度の影響があることもございますが、精神が変容してそれまでと違う行動まで取ることまでは。まして殺人は今も昔も禁忌ですので」

 「じゃあ、ザエボスの特異性と考えていいんだな?」

 「はい」


 まあ、一安心した。

 あんなことはもう御免だ。


 「ああ、妖魔が人間の子を産む場合もあるのか?」

 「それの方が滅多には。道間家では昔に実験的に試みましたが、成功とは言えない形で終わりました」

 「それは?」

 「何とか受精してもほとんどが生後間もなく死に、生き延びた者も生物としても妖魔としても脆弱で」

 「へ、へぇー」

 「人間と妖魔とでは構成が違いますので。そのせいかと」

 「そ、そっかー」


 あれ?

 麗星が俺を睨んでいた。


 「あなた様、何かお知りになっておられますか?」

 「!」

 「あなた様、お話し下さいませ」

 「え、えーと……」

 「あなた様!」


 麗星と五平所が怖い顔になっている。


 「いや、あのさ、お前タヌ吉を知っているだろ?」

 「絶対に忘れません!」


 麗星はタヌ吉に「地獄道」を見せられた。

 相当なショックだったらしい。


 「あのタヌ吉と俺との間に子どもが出来てさ」

 「「なんですと!」」

 「いや、なんとなくだよ」

 「一体何があったのですか!」


 俺はパンチを入れる真似をした。


 「ほら、シュッ、シュッ」

 「「?」」


 「まあ、とにかくさ。野薔薇と名付けて、今大阪の風花のとこにいんの。あのタヌ吉に迫る強さだぜ?」

 「あなた様はまったく……」


 麗星と五平所が呆れている。

 この二人には、俺がセックスしたと分かっているのだろうか。


 「カワイイ子でさー! 一生懸命に風花と大阪の街を守ってくれてるのな」

 「そういう事例は初めて聞きました」

 「そう?」

 「はい」


 さて、話題を変えよう。

 今度は地雷を踏まないようにしなければ。


 「まあ、道間家でも人間と妖魔との間に子どもって知らなかったかぁ」

 「はい。あなた様、まさか他の妖魔とも「交渉」があるのではないでしょうね?」

 「!」


 地雷を踏んだ。

 

 「え、えーと」

 「あなた様!」

 「石神様!」


 二人が一層怖い顔で迫る。

 正直に言った。


 「えーと、あの、タマとイリスとも時々」

 「「!!!!!」」


 麗星が五平所に何かを耳打ちした。

 五平所が部屋を出ていく。


 「おい、何をするんだ!」

 「あなた様の安全のためです」

 「なんだ?」

 「股間のものを調べさせていただきます」

 「なんでだよ!」

 「何か妖魔の残滓が残っていると大変ですので。わたくしや、他の人間の女性のためにも」

 「なんともねぇよ!」


 麗星が呆れた顔でまた俺を見ている。

 

 「はぁー。まさか大妖魔と気軽にまぐわう人間がいるとは思いませんでした」

 「おい!」

 「節操をお持ちなさいませ」

 「すまんね!」


 なんか、物凄く恥ずかしい。 

 五平所が背中に何かを背負って戻って来た。

 そこから伸びた木製の30センチほどの棒を二本、俺にかざす。

 そのまま全身を探られ、股間は念入りに調べられた。


 「お屋形様、ご安心下さい」

 「そう、とにかく良かった」

 「そうだな!」

 「お黙りなさいませ!」

 「はーい」


 一旦休憩にした。

 ふー。





 五平所が葛のシャーベットを持ってきた。

 上質の葛湯は冷やすとプリンのようになり、更に冷やすとシャーベット状になる。

 優しい甘さが嬉しい。

 他の人間に天狼も連れて来られ、俺の隣で少量のシャーベットを食べる。

 ニコニコして、俺の顔を見ながら食べていた。


 「天狼はやっぱり顔が高貴だよなぁ」

 「さようでございますか!」

 「ああ。それでいて弱さが無くて精悍だ」

 「はい! それはあなた様の御血でございましょう」

 「いや、道間家に全部入っているんだろうよ。本当にいい顔だ」


 他人には言えない、我が子の誉め言葉だ。


 「あの、野薔薇さんといつかお会いしたく思います」

 「そうか? 野薔薇!」


 廊下で大きな音がした。

 大木が引き裂かれるようなバリバリという音だった。


 「あなた様!」

 「石神様!」


 麗星と五平所が慌てて立ち上がって叫んだ。


 「あ! ここは不味いんだっけか!」

 

 道間家は様々な結界がある。

 つい失念していた。


 「おとうさまー!」

 

 廊下から可愛らしい野薔薇が入って来た。

 その後ろから黒煙がもうもうと立ち込めてくる。

 野薔薇の綺麗な着物に、よく分からないヒモのようなものや細い手のようなものが引っ付いていて、ボロボロと崩れ零れて行った。


 「おい、大丈夫か!」

 「はい、何ほどのこともございませんね」


 「最大の結界を張っておりましたのに!」


 俺たちが機密の話をするので、そのようにしていたのだろう。

 それに今は天狼もいる。

 野薔薇が後ろを振り向いた。


 「お前か! 最後までしつこい!」


 ハイファが立っていた。

 

 「ハイファ、石神様がお呼びになったのです」

 「はい、かしこまりました」

 「ハイファ、悪かったな。ここをお前が守っていることをうっかりしていた」

 「いいえ、石神様」


 ハイファは消えた。

 野薔薇はハイファの結界も破って来たのか。


 「野薔薇も悪かったな。もっと場所を選んで呼べばよかった」

 「いいえ、お父様に呼ばれればどこでも参ります」


 俺は野薔薇を手招いて肩を抱いた。

 野薔薇が愛らしく微笑んで俺を見た。

 椅子に座って俺たちを見ている天狼を紹介した。


 「野薔薇、お前の弟だ。天狼だよ」

 「まあ、お父様! 可愛らしい子ですね!」

 「そうだろう! 天狼にはまた気品があるんだよな!」

 「はい! おっしゃる通りです!」


 二人で天狼をしみじみと眺める。

 天狼もニコニコして俺たちを見ていた。


 「天狼、お姉ちゃんの野薔薇だ。よろしくな!」

 「のばら」

 「あなたは敵に恐ろしく、味方に優しい者になりますね。頼もしく、そして愛らしい」

 

 野薔薇が天狼をそう評した。

 妖魔として、何かが見えるのだろう。

 野薔薇が天狼の頭に、そっと手を乗せて撫でた。

 

 「いずれあなたを鍛えてあげましょう。それまでは優しい方々の中でお暮しなさい」

 

 野薔薇は何かを見ているようだった。

 俺たちには分からない。


 「野薔薇さん」

 「何ですか、道間の娘」

 「天狼にお力をお貸しして頂けるのでしょうか」

 「もちろんです。お父様の血を引いている子ですから」

 「ありがとうございます」

 

 野薔薇が微笑んだ。


 「お前もなかなかお父様のために頑張っているな」

 「はい!」

 「この先も励め」

 「はい! 必ず!」


 俺は野薔薇を抱き締めた。

 不意にそうしたので、野薔薇が驚いていた。


 「お前は俺の大事な娘だ。いつもそう思っている」

 「お父様!」

 「愛している、野薔薇」

 「お父様! 私もです!」


 野薔薇を離すと、そっと俺から離れた。

 

 「ここにいると、道間家の様々が乱れるようです」

 「ああ、悪かったな。また会おう」

 「はい! いつでも御呼び下さい」


 野薔薇が廊下へ去って行った。

 その場で消えないのは、タヌ吉と同じだ。





 「さーて、じゃあ続きをやるか!」

 「あなた様……」


 麗星が恨めしそうな顔をしている。

 やっぱ相当不味かったよね?

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― 新着の感想 ―
[一言] 妖魔とそういうことをするって、言われてみれば確かにけっこう危ないですよね…。 代表的なのは淫魔とかでしょうけど、他にも影響があってもおかしくないですものね…。
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