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2017/3030

挿話: ネコ塗れ「秘密兵器」

 少しさかのぼって、4月のある晩。

 柳が御堂と一緒に食事をして帰って来た。

 俺も行きたかったのだが、ちょっとスケジュールが合わなかったのと、たまには御堂と柳で食事をさせようと思った。

 新宿の「銀河宮殿」に行ったはずだ。

 柳は酒を飲むので電車で出掛け、また電車で帰って来た。

 満月の晩だった。

 俺と亜紀ちゃんは風呂上がりに軽く飲んでいた。

 柳が帰って来るなり、俺に興奮気味で語った。


 「石神さん! スゴイのを見ちゃいましたよ!」

 「御堂はスゴイよな」

 「違いますよ!」

 「なんだと! お前は御堂が凄くないって言うのか!」

 「だから、なんでいつもお父さんの話になるんですか!」

 「おい! 誤魔化すんじゃねぇ!」


 亜紀ちゃんが御堂の話だから取敢えず謝った方がいいと言い、柳が頭を下げて謝った。


 「すいませんでした」

 「おし!」

 「もう!」


 柳のテンションが下がった。

 それでも話を続ける。


 「さっき、「花見の家」の庭を見たんですよ」

 「ああ、あそこか」

 「ネコの集会やってました!」

 「マジか!」


 ロボがいつも満月と新月に出掛けるので、そういうものがあるのだろうとは思っていた。

 まさか本当にそうだったとは。


 「数十匹いましたよ。ロボが中心でした」

 「ほう!」


 「石神さん、見たことあります?」

 「いや、ねぇ」

 「私、見たんですよ!」


 なんかいつもこいつの言い方って気に障る。


 「良かったな」

 「はい!」


 柳がニコニコしている。

 

 「タカさん、今度見に行きましょうよ!」

 「そうだなぁ。でも折角ネコ同士で仲良くしてるのに、人間がお邪魔しちゃなぁ」

 「えー、ちょっとだけいいじゃないですかー」

 「うーん」


 柳が手を挙げた。


 「私、ちょっと輪の中に入って来ました」

 「えぇー」

 

 またこいつはどこでも遠慮なしに何でもやりやがる。

 それにちょっと自慢気なのも気に喰わない。


 「お前よ、ちょっとは相手のことも考えろよな」

 「大丈夫でしたよ?」

 「ネコがどう感じるなんて分からないだろう」

 「大丈夫ですって」


 ロボが庭で鳴いていた。

 気分のいい柳が、自分が中に入れると言って出迎えに行った。


 「あぁー!」


 柳の叫び声が聞こえ、亜紀ちゃんと見に行くとロボにぶっ飛ばされていた。


 「「……」」


 亜紀ちゃんがロボを抱きかかえて足を拭いてやった。






 ロボは段ボール箱が大好きだ。

 身体が大きいのでしょっちゅうではないが、大きな段ボール箱が空くとロボにやる。

 ボロボロになるまで楽しむ。

 リヴィングに置いておくと、ロボが中に入る。

 中でスヤスヤ寝ていることもあるし、顔だけ出してジッと楽しそうに俺たちを見ていることもある。

 誰かが近づくと箱の底に身を潜め、「遊べ」と合図する。

 箱の縁をトントンすると、シュバっと手を出してくる。

 俺たちも楽しく遊ぶ。

 上のフタを閉じて、側面に穴を空けてやったりする。

 そこから外を見るのも大好きで、時々手を出して「遊べ」と合図する。

 箱の上と下をたたんで穴だけにすると、ロボが箱の中に飛び込んで床を滑る遊びを始める。

 まあ、ロボも俺たちも楽しい。


 御堂の実家からまたオロチの抜け殻が届いた。

 軽いものなのだが何しろでかいので、大きな段ボール箱に入って来た。

 特注で作ってくれたのだろう。

 長さ2.4メートル、高さと幅1メートル。

 中にはいつものように黄色のウコン布に包まれて、軽く折り返されてオロチの抜け殻が入っていた。


 すぐに双子が「Ωケース」に入れて、「飛行」で蓮花研究所へ運んだ。

 御堂の実家から直送はしない。

 蓮花の研究所との関連を隠すためだ。


 段ボール箱なので、ロボにやった。

 俺を一度見てから、中へ入った。


 「……」


 ジッとしていて俺をまた見ていた。

 なんか、楽しくないらしい。

 やはりでか過ぎるのだろう。

 近づいて撫でてやり、俺も入って横になった。


 「にゃ!」


 容積が狭くなったことで、いつもの感覚になったか、ロボが喜んで箱の中で遊んだ。

 俺に身体をすりよせ、子どもたちが箱の縁を指でトントンし、ロボが楽しそうにシュパッとやる。

 大喜びだった。





 次の新月の晩。

 俺はオロチの入っていた箱を持って、「花見の家」に行った。

 子どもたちも付いてくる。

 ロボたちが集会をしていた。

 みんな俺をジッと見ていた。

 俺はそっとその中に入り、箱を横たえた。


 「ニャー!」


 ネコたちが喜び、俺の傍に寄って来る。


 「タカさん、いーなー」


 亜紀ちゃんたちは刺激しないように離れて見ていて、俺は段ボール箱の中に入って寝転がった。


 「にゃー!」


 まずロボが嬉しそうに中に入り、続いて他のネコたちも一斉に入って来る。

 数十匹のネコが全部入り、俺はネコ塗れになった。


 「おぉー! すげぇぞ!」

 

 ネコたちが中で喜んでくんずほぐれつで動き回る。


 「た、タカさん! わたしもー!」

 「石神さん! わたしもー!」


 亜紀ちゃんと柳が入ってこようとしたが、ネコでいっぱいなので足の踏み場がない。


 「「えーん!」」


 しばらくネコ塗れ風呂を楽しみ、俺は外へ出た。

 ネコたちはしばらく中で遊んでいたが、出て来て俺の傍に寄って来る。

 亜紀ちゃんと柳が段ボール箱に入ると、残っていたネコたちが一斉に逃げて出た。


 「「えーん!」」


 「あー、楽しかったぜ!」


 俺は周りにいるネコたちの頭を撫でて、空になった箱を抱えた。


 「じゃー、帰るよ! 邪魔したな!」


 「にゃー」


 ネコたちが一斉に鳴いて挨拶した。

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