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2006/3033

吉野 牛鬼狩 Ⅳ

 突然、巨大な気配が湧き起った。

 丁度虎白さんに、3本目の「カサンドラ」を届けた所だった。


 「なんだこりゃ!」

 「でかいですね!」


 50メートル級の時も大きかったが、それよりも遙かにでかい。


 「こいつはまずいぜ」

 

 あの虎白さんが少し脅えの気配さえ浮かべている。

 そんな顔は初めて観た。


 「高虎! とにかく急いで行くぞ!」

 「はい!」


 俺も呼んでもらえた。

 今度は失敗しないぞー!






 山頂に近い場所だった。

 体長240メートルの桁違いの牛鬼だった。

 集まって来る剣士は、剣聖たちが離れているように言っていた。

 剣士では多分一蹴で殺される。

 5人の剣聖だけが現場に集結した。

 他の剣士から預かったらしい「カサンドラ」を大量に持っている。


 「虎白! こりゃ見切戦か?」


 見切戦とは、多分一人が犠牲になって次に繋げるあの作戦のことだろう。

 先ほども、他の剣士たちがやろうとしていた。

 石神家の剣士たちは、敵の強さを見誤らない。

 それ程の強い敵だということだ。

 虎白さんが俺を見た。


 「どうだ、高虎?」


 虎白さんはやれると踏んでいるようだった。

 俺まで加えてくれるのは嬉しかった。

 俺も笑顔で応えた。


 「ぶっ殺しましょうよ。あんなのは残しとくと不味い」

 「そうか!」

 「はい!」


 虎白さんが俺の背中を叩き、他の剣聖たちも笑った。

 どうやら討伐に決まったようだ。


 「二人一組だ。一人は虎楯に徹しろ。「カサンドラ」はどうだ?」

 「さっき離れた連中から全部もらってきた」

 

 全部で30本ほどあった。


 「5本ずつ持て。50分はもつな」


 ロングソード・モードは10分でクールタイムに入る。


 「高虎はさっきの攻撃で仕掛けろ」

 「分かりました!」

 「てめぇ、分かってるだろうなぁ!」

 「身に染みてます!」


 俺にとどめを刺すなということだろう。

 あんなに恐ろしく強大な敵を前に、流石に石神家の剣聖たちは違う。

 

 「じゃあ行くぞ!」


 虎白さんが号令を掛け、全員が散っていく。

 俺はまた空中へ上がり、「オロチストライク」を連射した。

 さっきは「オロチ大ストライク」で一撃で仕留めてしまったからだ。

 予想通り、「オロチストライク」は全然効かず、痛みは与えているようだがダメージはほぼ無かった。

 やはり異常に頑丈な奴だ。


 虎白さんたちが俺を見ている。

 怖い顔をしているのが見える。

 俺は笑顔で手を振って斃さないので安心するように伝えた。

 でも、虎白さんたちも攻めあぐねているようだった。

 何しろ巨大な体躯だ。

 一人が奥義で攻撃し、もう一人は敵の攻撃を防ごうとしている。

 防衛担当がさっき虎白さんが言っていた「虎楯」ということなのだろう。


 剣聖の一人が倒れた。

 何かおかしい。


 その時、俺は空中から急速に接近する気配を捉えた。

 プレッシャーは無いので敵ではない。

 しかし、ここには石神家の剣聖以上の強い者はいないはずだた。


 「あれは!」


 緑色の影が高速で移動し、巨大牛鬼の頭部へ迫った。


 ぺちん


 牛鬼の頭が破裂した。


 「!」


 怒貪虎さんだった!

 怒貪虎さんは地上に立って、何か舞のような動きをし、牛鬼の粉砕された首の巨大な傷へ向かって何かを撃ち込んだ。

 牛鬼の身体に亀裂が入り、バラバラに刻まれて沈んだ。

 周囲にいた虎白さんがちが一斉に地面に倒れた。

 俺は急いで救出へ向かった。


 ほとんどの剣聖たちは意識を喪い掛けていた。

 俺は全員に「Ω」「オロチ」の粉末を飲ませて離れた場所へ移動させた。

 怒貪虎さんも、そっちへ行く。

 虎白さんはかろうじて意識があった。


 「高虎……」

 「はい、勝ちましたよ!」

 「……」


 運んだ。

 俺はハマーに戻り、「エグリゴリΩ」の粉末を取り出した。


 「「タカさん!」」


 ウインナーを焼いていた双子も呼ぶ。


 「一緒に来い! 急げ!」

 「「はい!」」


 双子がウインナーを口に咥えて一緒に空中へ飛んだ。

 空中で繋がったウインナーが次々と双子の口に消えた。





 倒れていた虎白さんたちに「エグリゴリΩ」の粉末を飲ませ、双子が「手かざし」をして回った。

 全員が意識を取り戻し、20分もすると動けるようになった。


 虎白さんたちは怒貪虎さんに土下座で感謝した。


 「ありがとうございました! お陰で命拾いしました!」

 「ケロケロ」

 「すいません! 俺らだけでやれると踏んでいたんですが」

 「ケロケロ」

 「はい! おっしゃる通りです!」


 俺には相変わらず「ケロケロ」は分からん。

 虎白さんが俺を向いた。

 他の剣聖たちもだ。


 「高虎」


 俺なんかにまで礼を言われるのは違う。

 俺は万一のために持って来た「エグリゴリΩ」を使っただけだ。


 「高虎、お前……」


 虎白さんは立ち上がりながら手足を動かしていた。

 自由に動くのを確認しているようだ。

 他の剣聖たちも同じように動いていた。


 「虎白さん、俺はたまたま持って来た「Ω」の粉末を使っただけで、あ、あれはちょっと特殊なもの……」

 「高虎ぁ!」

 「はい!」


 虎白さんが恐ろしい声で叫んだ。


 「てめぇ! なんであいつをすぐに殺さなかったぁ!」

 「へ?」

 「てめぇがぐずぐずしてやがったから! 俺らは死ぬとこだったぞ!」

 「はい?」


 俺の頭が真っ白になった。


 「最初に言ったよな! お前に頼むってよ!」

 「あ、あれは、俺に余計なことをすんなって……」

 「このバカヤロウ!」


 虎白さんにぶっ飛ばされた。


 「死んだ女房と子どもたちが見えたぞ!」


 他の剣聖たちも来た。


 「死んだお袋が手を振ってた!」

 「じいちゃんが花畑にいたぞ!」

 「ポチが足元にいた!」

 「……」





 全員にボコボコにされた。

 「エグリゴリΩ」の粉末が無ければヤバかった。

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