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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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あの日、あの時 Ⅲ アラスカ前編

 「高校生の頃からの友だちで、アメリカに住んでいる奴がいるんだ」


 照明はほとんど落ち、淡い光になって、俺たちはほとんど夜の闇の中にいた。


 「俺は高校を卒業して、半年くらいアメリカで働いていたんだ。その時一緒にいた奴なんだよ」



 「その後もそいつはアメリカに残り、石油の会社に勤めて、当時はニューヨークにいた。俺は夏休みとか、時間があるとニューヨークに行って、そいつに会っていたんだ」


 「ずい分と親しい方だったんですね」

 亜紀ちゃんが聞いた。




 「そうだな。御堂とは違う、俺の大親友だったよな。俺が一番苦しい時に助けてくれ、一緒にいてくれた、というな」

 「そうなんですか」


 俺はそれ以上のことは語らない。


 「聖という奴な。御堂と違って、俺と一緒にバカなことをやる奴だった。だからしょっちゅう喧嘩もしたよなぁ」

 「タカさんと同じだったら、大変ですよね」

 俺は皇紀の顔を掴んで握り締める。

 痛がってるが、声は出ない。


 「お前、ずい分と言うようになったなぁ」

 他の三人が笑った。


 「でも、まあそうだな。本当にバカなことをしてた。これから話すオーロラのこともそうだ。そういえば、お前ら、オーロラって何か知ってるか?」


 「「「「はい!」」」」


 「高緯度地方で見られる、美しい空の光だよな。実はまだなんでオーロラが出るのか、詳しいことはわかってねぇんだ」

 

 「俺が大学の冬休みに聖のアパートメントにいた時、テレビでオーロラの特集をしてたんだよ。それを二人で見て、「見てぇなぁ」って言ったの。それで行こうってことになったんだ」

 「ずい分と軽いノリですね」

 「そうだな。まあ、それが後で話す喧嘩の原因にもなるんだけどな」




 「アラスカに飛行機で行くのはいいんだけど、他にどうしたらいいのか分からない。取り敢えず、「寒いんだろうな」ということは思ったわけだ。ニューヨークもいい加減寒いけど、アラスカは多分もっと寒いだろう、と」

 「本当にいい加減ですね」

 「皇紀、あんまり調子に乗るなよ!」

 俺は笑って言った。


 「でも、皇紀の言う通りだった。俺たちが考えたのは、寒いだろうから、防寒着を用意しようってことだけだったからな。まあ、多少知恵を回して、今度だけだから買うのはもったいないって。じゃあレンタルしようってなぁ」




 別荘の周辺には街灯もない。

 広い山林は闇に溶けている。

 今、この場所だけに微かな灯がある。




 「丁度季節柄で、毛皮のレンタルのためのでかい倉庫があったんだ。そこへ行って毛皮を選んだ」

 「どうして毛皮だったんですか?」

 ルーが聞く。


 「ああ、今ならもっと安いダウンコートとかアルミ蒸着の機能性の高いものもあるけどな。当時は毛皮が一番だったんだよ」

 

 「それで、俺は出会ったんだ!」

 「なにに?」

 ハーが言う。


 「オオカミの毛皮だよ! まあ、今だったら確実に買ってるな。当時は俺もまだ金がそんなにねぇからな。もったいないからレンタルって言ってたんだけど、それを見たら、もう欲しくてたまらなくなった」

 「どんな毛皮だったんですか?」

 亜紀ちゃんが聞く。


 「シルバーの美しい毛並みに、薄っすらと黒い筋が何本かあってなぁ。それで肩にあったんだよ!」

 「何がですか!」

 「オオカミの頭だ!」

 子どもたちがみんな笑った。


 「あ、お前ら笑うけどな! 本当にカッチョ良かったんだよ、あれは!」


 「それで店の人に聞いたの。気に入ったから売って欲しいって。そうしたら6000万円だって」

 また子どもたちが笑う。

 「まあ、流石になぁ。それでレンタルでってことで聞いたら、一週間で140万円だと!」

 「えぇー!」


 「そんなの、レンタルしたんですか?」

 「お前! そんなのって言うな! 皇紀くんは明日の朝食はいらないそうです」

 「えぇー!」


 「他の毛皮は全然安いんだよ。シルバー・フォックスで一日1万円とかな。今思うと吹っかけられたのかもな」

 

 「聖はそういう安い奴を借りてさ。それでチケットも手配してアラスカへってなったのな。もう翌日よ」


 「ニューヨークじゃ、全然必要なかったんだけど、俺はもう嬉しくてさ。颯爽と毛皮を着て空港へ行ったのな。聖もそう。飛行機の中でも脱がねぇ。まあ、暑かったよなぁ」

 爆笑。




 「それでアラスカにはすぐに着いたんだ。ああ、二人とも手ぶらな。二、三日だろうからって、何も持ってねぇ」

 「下着とかどうしたんですか?」

 「そんなもの! 若い男は数日同じパンツでいいんだよ!」

 「きったなー」

 「げぇー!」

 双子が非難する。

 聞いた亜紀ちゃんも困った顔をしていた。


 「まあ、そういうのもアレだ。ロマンティシズムよな」

 「誤魔化してませんか?」

 「皇紀くんは来週から斬のじじぃのところで鍛えてもらいます」

 「勘弁してください!」





 「それで空港に着いたんだ。俺が聖に「どこへ行くんだ?」って聞いたの。もの凄い寒いから、早く宿で何か喰いたかったんだよ。そうしたら「え?」って」

 「ホテルとか取ってなかったんですか?」

 「そーなんだよ、亜紀ちゃん! あいつ、チケットだけ手配して、ホテルを予約してねぇの! 信じられないよなぁ。外は吹雪なんだぜ?」


 「どうしたんですか?」

 「取り敢えずぶん殴った」

 爆笑。




 「空港のロビーで殴り合いの喧嘩よ。あいつも俺みたいに強かったからなぁ。そうしたら警備員が飛んできて、俺たちはすぐに肩を組んで笑った」

 爆笑。


 「とにかくホテルを探そうって、空港を出て。吹雪になってるから、通りには誰もいねぇ。辺りは薄暗いしな。日本みたいにあちこち交番があって道を聞けるわけでもない。土産物を売ってる店で、ようやくホテルの場所を教えてもらった」











 あの日、俺たちは罵り合いながら、吹雪の中を進んだ。

 三十分も歩くと、お互いに安否確認だけになった。


 更に三時間ほど歩き、ようやく俺たちはホテルの前に立った。

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