別荘の日々 Ⅱ
別荘に着くと、中山夫妻が待っていてくれた。
「お久しぶりです」
「みなさん、ようこそいらっしゃって下さいました」
子どもたちも挨拶をする。
俺は土産のマッサージ器を渡した。
他にも和菓子を少し。
お二人で食べられる量だ。
「まあ、わざわざこんなものを」
恐縮されていたが、やはり食材を冷蔵庫に入れてくれていたらしく、こちらも恐縮する。
「じゃあ、鍵をお渡ししますね」
俺は鍵を受け取り、お茶を飲んでもらった。
「ごゆっくり楽しんでください」
お二人は軽トラに乗り、帰られた。
去年とは違い、5部屋にベッドを置き、リヴィングには大きな十二人掛けのテーブルを入れている。
俺が注文し、様々な家具の搬入を中山夫妻に立ち会って入れてもらったのだ。
これで俺、亜紀ちゃん、皇紀、双子、そして六花もそれぞれの部屋で寝られる。
響子は俺か六花と一緒だ。
子どもたちの勉強はリヴィングでやってもいいし、それぞれの部屋にデスクも入れてある。
屋上の硝子の部屋にも、8人が座れるテーブルと椅子に入れ替えた。
テーブルの搬入はちょっと苦労し、結果的にクレーンで屋上に上げ、硝子を一部外して設置した。
各部屋はカーテンも新調し、壁紙も張り替えたりしている。
他にもでかい冷蔵庫を入れ、タンスやら小物なども増えた。
俺は一通り家の中を点検し、庭に出た。
植栽も綺麗にされている。
もちろん改装や搬入、植木屋の費用は俺が出しているが、立会いなどで本当に中山夫妻にはお世話になっている。
子どもたちは綺麗になった部屋を喜び、家の中を探検していた。
しかし、誰も屋上には上がらない。
夜を楽しみにしているのだ。
一段落したところで、リヴィングに集まり、みんなで休憩にする。
俺と亜紀ちゃんはコーヒーを飲み、皇紀と双子はジュースを飲む。
「タカさん、去年と大分雰囲気が違いますね」
亜紀ちゃんが申し訳無さそうに言う。
「ああ、いろいろ中山さんたちにお願いして改装したからな」
「屋上も変わったんですか?」
皇紀が聞いてきた。
「夜を楽しみにしろよ」
双子もワクワクしていた。
子どもたちが勉強を始めたので、俺は買出しに行く。
中山夫妻が結構な量を買い込んでくれていたが、まあ子どもたちの食欲は想定外だ。
米や調味料、また寸胴などの調理器具などは積んできたが、肉を中心に買い足さなければならない。
俺は四十分ほど走って、長野市内の大きなスーパーに入った。
大量の食材を買い込んでいると、店員が声を掛けて来た。
「宜しければお手伝いいたします」
おれはありがたく礼を言い、一緒にカートを引いて回る。
店員は途中で仲間を呼び、最終的に四人で回った。
会計を済ますと、車まで運んでくれた。
ハマーを見て驚くが、荷物を入れてもらい、俺は千円ずつ店員に渡した。
遠慮されるが、また来たときに手伝ってもらいたいと言うと、受け取ってくれた。
車を発進させると、四人はずっと腰を折ったままでいた。
別荘で子どもたちを呼び、食材を運ばせる。
「あの、こんなに必要ですか?」
亜紀ちゃんが言う。
「お前らなぁ。どうせ二日もすればまた買出しに行くことになるぞ」
「すいません」
「別に俺は楽しく喰ってもらえばいいんだよ」
「はい」
「まあ、みんなお前らのウンコになるんだけどな」
「エヘヘヘ」
冷蔵庫はたちまち一杯になる。
夕飯の支度まで、俺は仮眠をとった。
メニューは伝えてあるので、下ごしらえは子どもたちでやる。
今日は豚のしょうが焼き(一人500グラム)と、ベーコンを入れた野菜スープ、スモークサーモンとブロッコリーのマリネを作る。
俺が下に降りると、子どもたちがワイワイと支度をしている。
みんなそれぞれのエプロンを付けている。
俺と皇紀は黒の無地。
双子はネコとウサギのプリント。
これは院長夫妻からプレゼントされた。
亜紀ちゃんは「弱肉強食」のプリント。
これは六花の仲間のタケからもらった。
俺が気に入ったのだ。
亜紀ちゃんも気に入ってくれている。
「なんか、気合が入りますね」
「……」
タケに伝えてもらうと、大変喜んでくれたそうだ。
是非会いたいと言っている。
まあ、面白いかもな。
夕飯を並べたが、どう見てもしょうが焼きが多い。
俺は300グラムでいいと言ったが、その倍以上盛ってある。
「お前ら何グラム焼いた!」
700グラムだと言いやがった。
まあ、遠慮されるよりはいいけどな。
楽しく夕飯を終え、そろそろ暗くなってきた。
子どもたちがワクワクしている。
俺は先に風呂に入れと言い、子どもたちはいつもの倍の早さで出てきた。
俺はレモネードを大量に作り、氷を入れたでかいタンブラーを運ぶ。
亜紀ちゃんにクッキーを、皇紀にはグラスを持たせ、屋上に上がった。
去年は硝子の通路の天井にライトがあったが、今年は足元にスポットライトを並べている。
通路でも天井の星が見れるようになった。
中心の部屋も壁の照明を取り払い、四隅のスポットライトがテーブルを照らすようにした。
外の闇が一段と見えるようになった。
子どもたちはまた黙り込んだ。
あれほどうるさい双子も呑まれている。
俺はみんなにレモネードを配り、スポットライトの光量を下げ、アラスカの話を始めた。
子どもたちの目が、星のように煌いていた。




