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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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第七回(石神くんスキスキ)乙女会議 ゲストが来たよ!

 院長室に行った。


 「石神、入ります!」


 院長は各部から上がってくる報告書に目を通していた。

 毎週月曜日の一番の仕事だ。




 「どうした、話があるんだって?」

 「はい」


 俺はソファに座らされた。

 「それで何だよ?」

 



 「実は、あの女子会のことで」

 「また何かやったのか!」

 院長が激高する。

 無理もないよなぁ。



 「いえ、そうではなくてですね。いい加減、あれを何とかしないといけないと思いまして」

 「どういうことだ?」


 「最初の数回は、あいつらの自業自得です。まあ、情状酌量の余地は少しはありますけどね」

 「うん」

 「でも、あいつらなりに何とかしようとして、酒を抜いて乱れないようにしようとか」

 「ああ、集団食中毒な」

 「最後は茶話会にしようとしてまで」

 「ああ、銀座の火事な」


 改めて人から聞くとひでぇ。





 「まあ、その、ここまで来ると、あいつらだけではどうにもならないのではないか、と」

 「うーん」


 「でもあいつらは仲良しで、仕事も頑張ってる連中じゃないですか」

 「そうだな」


 「だから我々で何とかしてやりたいと思って」

 「そうかぁ」




 院長も感じるところはあるようだ。

 俺は計画を話す。



 「お前、それは幾らなんでも!」

 「院長、お願いします。このくらいやらないと、あの呪いは解けませんよ」

 「そうは言っても、無茶苦茶じゃないか!」

 「お願いします!」


 俺は頭を下げた。

 「俺ももちろん、付き合うんですから!」


 腕組みをして考える院長だったが、最終的には了承してくれた。


 俺は院長室を辞し、ガッツポーズを決めた。








 一江には、院長と俺の同伴で地獄の女子会を開けと命じた。


 「え、でもそれじゃ女子会じゃないじゃないですか」

 「それはだなぁ……」

 俺は一江に計画の詳細を話す。


 「それって大丈夫なんですか?」

 そう言う一江だったが、既に顔は綻んでいた。

 

 「もちろん、本人の了解も取った。それに俺も晒すんだしな」

 「そうなら、ええ、楽しみですねぇ」

 「ああ、ちょっと怖いけどな」

 フッフッフと二人で笑う。


 窓の外で俺たちの様子を見ていた部下が、怪訝な顔をしている。

 俺は大森を呼び、計画を聞かせた。

 大森はビビッたが、うなずいて言う。


 「部長がいらっしゃれば、花岡さんが暴れても大丈夫ですね」

 「おう、任せろ!」






 金曜日の夜。

 俺たちは予約した新橋の高級居酒屋の個室に集まることとなった。


 院長は一度俺と一緒に自宅へ帰る。

 そして静子さんに手伝ってもらって着替えた。

 俺も一室を借りて着替える。




 離れた部屋から、静子さんの大きな笑い声が聞こえた。


 院長は、フリルのたくさんあるワンピースを着て、両おさげの金髪のウィッグを被って現われた。

 静子さんは身体を折り曲げて笑っていた。


 「よくお似合いですよ」

 「そうか」


 俺は濃紺と白のチェックのワンピースだ。ウィッグは黒のストレートロング。

 俺の姿を見て、また静子さんが笑う。



 「それでは、行ってらっしゃいませ、くふふ!」

 「うん、行って来る。今日は夕飯はいらないからな」

 「わ、分かりました、クハハ!」


 「では、ご主人をお預かりします」

 「は、はい、よろし、アハハハ!」


 俺は笑いが止まらない静子さんを置いてタクシーを拾った。

 運転手がギョッとした顔で見るが、流石にプロとして笑わない。

 まあ、東京ではこういう人間も多いからなぁ。





 新橋の居酒屋では、既にみんな集まっていた。

 20畳の広めの座敷だ。

 6人がけのテーブルが二つ繋げてある。



 俺たちの登場に、全員が硬直する。

 一江と大森は知っていたはずだが、一緒に固まっていた。



 俺は院長を上座へ案内し、自分も席に着く。

 隣には栞がいる。

 万一があれば、俺が制止するためだ。


 その隣に六花、向かいに一江と大森だ。




 「それでは、ええと」

 「第七回です」

 一江がフォローする。

 六回も地獄の宴会をやったのかよ。


 「ええ、第七回乙女会議を始めます」

 「あ、大事な言葉が抜けた」


 「はい、そこうるさい」




 「今日は女子だけの集まりですからぁ、みんな楽しんで一杯お喋りしましょうねぇ! はい乾杯!」

 「「「「「乾杯!」」」」」


 コース料理を頼んだので、既に料理の一部が並べられ、ビールも数本ある。

 飲み放題なので、後は好きな飲み物を注文するようになっている。

 料理の追加もできる。



 乾杯の後、俺が楽しんでお喋りしろと言ったにも関わらず、誰も喋らねぇ。

 俺が言ってるのに。



 「おい、一江! なんか面白いことを話せ!」

 「エェッ!」


 院長は腹が減っていたのか、料理に早速箸をつけた。

 みんなそれを見て、噴出しそうになる。

 ちなみに院長は酒が飲めないのでジュースだ。



 「ええ、今日はありがたくも私たちのために院長先生が」

 「ゴリ子だ!」

 一江は俺に頭をひっぱたかれる。

 院長が俺を睨む。


 「すいません、ゴリ子様がいらっしゃり……部長、勘弁してください!」

 病院の人間にとって、院長は神に等しい。

 俺にとってはただの類人猿だが。




 「あの」

 大森が手を挙げる。

 「なんだ」

 「部長のことはなんと?」

 「あたしは虎子だ」

 「……はい」



 また黙り込む。

 お前ら、折角の俺の用意した飲み会を!


 「おい、六花!」

 「はい!」

 「なんか芸をやれ!」

 「はい、それでは脱ぎます!」


 全員で止めた。

 院長も半腰になる。

 雰囲気に呑まれない六花を指名したが、こいつは常識にも呑まれない奴だった。

 




 「あの、虎子さん」

 「おう」

 「ゴリ子さんはお綺麗ですね」

 

 「「「ブフォッ!」」」

 他の三人が噴出す。

 汚ねぇなぁ。



 「おう、そうだろう! 今日はサン・ローランだしな!」

 飲め飲め、と大森にビールを注いでやる。

 それを皮切りに、徐々に会話が始まった。




 「今日は私たちのために、本当に申し訳ありません」

 一江が言う。

 「まあ、カワイイ部下たちのためだ。幾らだって苦労をするよ」

 「ありがとうございま、ブフォ!」

 院長を見やがった。


 「おい、一江、ゴリ子さんにバナナを剝いて差し上げろ!」

 「は、はい!」

 

 院長の前には、店に頼んでバナナを一房置いてある。

 院長は剝かれたバナナを受け取って、俺を睨む。

 でも食べ始めた。





 「花岡さん、今日は俺たちがいますから、安心して飲んでくださいね」

 「あ、うん。ありがとう」


 「六花、お前も遠慮しないでどんどん飲み食いしろよ!」

 「はい、らいひょーふれふ!」

 口一杯に唐揚げを詰め込んで六花が応える。




 俺は話しかけながら、どんどん飲ませた。

 俺は栞と席を替わり、院長に栞を近づけた。

 まあ、今日の足労のサービスだ。


 「ほら、花岡さん。ゴリ子さんのバナナが無いじゃないか。新しいのを剝いてやって」

 「は、はい! 失礼しました!」

 栞は新しいバナナを院長に差し出す。

 院長はニッコリと笑って受け取った。


 

 「ぶ、あ、虎子さん、両手に花でいいですね!」

 一江が無理矢理世辞を言う。

 「俺も乙女だけどな」

 「し、失礼しました!」


 少し盛り上がりに欠けるが、宴は順調に進んだ。





 栞が俺に日本酒を注いでくれる。

 俺は熱燗に切り替えていた。

 一江と大森は焼酎のお湯割を、六花はウイスキーを飲んでいる。

 院長は栞が剝くバナナを少しずつ味わって食べていた。


 栞も俺に合わせて日本酒を飲む。

 「花岡さん、酔ってませんよね?」

 「うん。大丈夫だよー」

 アレ?




 一江と大森が緊張した目で俺に訴えて来る。

 「ああ、今日は慣れない服のせいか酔いが早いな。花岡さん、一緒にジンジャーエールを飲みませんか?」

 「うん、一緒にのむー!」

 やばかった。



 「そういえば、五月に伺って以来、双子が「花岡流!」とかって言いながら、俺を起こしに来るんですよ」

 「なーに、それ?」

 俺は双子の暴力を話した。パンチや蹴りは止めたことを伝える。

 「じゃあ、今度また教えに行くよ!」

 いや、そういう話じゃねぇんだが。




 「そうだ、六花! 最近は料理の腕前が上がったそうじゃないか!」

 俺は六花が毎日弁当を持参することを聞いていた。

 

 「はい、花岡さんにいただいた人参は、それはもう迸るような」

 「やめろ!」




 俺は場を盛り上げるために必死で話題を振るが、すべて最悪の展開に転がりそうで難儀した。

 しかし、何とか事件も起きずに二時間が経過し、お開きとなる。


 俺が会計をし、待っている間に店員が皿を下げに来る。

 一人の若い男が院長を見て硬直し、足を絡めて転んだ。


 生憎と角に額を打ち、見る見る流血した。

 全員が青ざめる。


 院長と俺が抱き起こし、傷口を見た。


 「「大丈夫だ!」」


 奇跡の外科医と世界的外科医が太鼓判を押した。

 傷口は小さかった。

 俺は手ぬぐいを額に当て、しばらく強く押さえるように言った。



 全員、ホッとして店を出た。


 四人は銀座線の駅に向かい、院長と俺はタクシーを拾った。











 「石神、今日は気持ちよかったぞ」

 「それは良かった。またヤリましょうね!」

 「うん」


 タクシーの運転手がバックミラーで俺たちを見ていた。 

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