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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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挿話 斬・14歳、戦場。

 1945年8月。

 花岡斬は父・無有の命により、満州帝国ハイラル市にいた。

 日本軍のものではない、黒い戦闘服を着ている。

 身体に武器は帯びていない。

 

 

 若干14歳にして、花岡の暗殺拳の奥義を授けられていた斬は、その威を戦場にて試せと言われた。


 日ソ中立条約が一方的に破られ、今、ソ連軍は満州を目指して進軍中とのことだった。

 





 ソ連軍は、関東軍第三方面軍の数倍の規模で襲ってきた。

 関東軍は次々と撃破され、蹂躙されていく。


 「ふん、こんなものか」


 斬は市内のビルの屋上から、しばらく関東軍の惨状を見物した。

 反抗の銃声は、瞬く間に掻き消えていく。


 やがて斬はビルの壁をそのまま走破し、地上に着いて一層そのスピードを上げて疾走した。

 地上のソ連軍の小隊の前に立つ。


 「空震花!」


 斬は前方の小隊に向け、手を振る。

 直前に斬に気付き、銃を向け始めていた数十人の者たちは、上半身を瞬時に大きく抉られた。


 「虚震花」


 残った者たちの身体が蒸発し、赤い霧となった。





 離れた場所にいた三個小隊が斬の攻撃を見て取り、叫び声を上げつつ街路に拡がり、またビルの中に入って集中砲火を浴びせる。

 しかし銃弾は斬の身体を逸れ、また体表を「流れ」ながら通過する。


 「銃にも有効か」


 斬の呟きは誰も聞いていない。






 斬は200メートルの距離を一気に縮め、街路20メートルに広がる兵士を瞬時に蒸発させ、ビルの壁に密着する。


 「螺旋花」


 斬がビルの壁に掌底を打つ。

 一拍おいて斬がガラスのなくなった窓から中を覗くと、そこには肉塊と化した元人間の残骸があった。




 狙撃された。


 斬は熱さを感じ、僅かに身をよじる。

 地面に堅いものが跳ねた。

  

 斬は足裏をねじり、そのまま人差し指を熱を感じた方向へ突き刺す。

 離れたビルの上階に、赤い花が広がる。


 「70丈(約200メートル)といったところか」

 二度と銃弾は放たれなかった。




 斬は兵士相手に飽き、機甲部隊を探した。




 機甲部隊の一部が市街に入っていた。

 T34戦車だ。


 斬はそのまま正面から突っ込む。

 ハッチから身を乗り出した兵士に機銃で掃射されるが、すべて斬の体表を流れ去った。


 斬は戦車の横腹につく。


 「螺旋花」


 上で機銃を持っていた兵士が崩れ落ちた。

 その死骸を引きずり上げ、街路に投げ捨てる。

 下半身が消失していた。


 ハッチから中を覗くと、狭い室内は血の海となっていた。


 「はっ、他愛もない」


 斬はその後、二個中隊を撃破し、戦車を18両沈めた。

 戦車のうち1両は横に大穴が空き、もう一両は2メートルに及ぶ切断痕があった。




 


 「試しは十分でしょうか」


 斬は近づいて来た男を振り向かずに答える。


 「まあ、こんなものですかね」

 

 市街のあちこちで戦闘の大音響と逃げ惑う人々の絶叫が響いている。


 斬の身体には傷一つないばかりか、数百人を屠ったにも関わらず、一滴の返り血すら無かった。


 一台の車が近づいてきて停まった。

 「では、お乗りください。港の船までお送りします」

 「いえ、車に乗っていては対処ができません。走っていきますよ」

 「!」


 男は驚いたが、すぐに頷く。


 「それでは、御話しました場所に。明日の朝5時には出港いたします」

 「分かりました。それでは」


 そう言うと、斬の身体がブレ、見えなくなった。

 港は数百キロ先にあるが、時間通りに斬が行くだろうことだけは分かった。



 「中尉、早くお乗りください!」

 車の中の兵士が叫んだ。

 男は助手席に乗り、車は猛スピードで市街を走った。



 「あの少年は何者なんですか?」

 

 男はポケットからタバコを取り出し、火を点ける。


 「お前は知らなくてもいい。ある家の少年だ。○○少将の密命により、私も来ただけだ」


 運転する兵士は口をつぐむ。






 「日本は、化け物を飼いならそうとした。しかし化け物は化け物だった」






 兵士は横目で上官を見たが、すぐに前だけを見て必死に運転に集中した。

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