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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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TKG

 「おい」

 「なに」

 「生きてるか」

 「なんとか」



 相変わらず凄まじい、花岡家高麗人参の威力だった。

 いや、まだ全然衰えていないところがますます恐ろしい。



 「腹が減ったな」

 「そうね」

 「ちょっとキッチンから何か持ってきてくれ」

 「あたしは客よ」


 「しょうがねぇ。亜紀ちゃんに持ってきてもらうか」

 「あんた、正気を喪いかけてるわよ!」




 性中枢は独立したかのように激しく起動中だが、他の体力はみるみる消耗していく。

 この状態は不味い。

 本気で死を目の前にする。


 「ああ、こういう暗殺もあるのかもな」

 「なによ、それ」



 意識が不味い。

 何か口に入れなければ。

 これまでの経験で、食事を摂ればたちまちに回復することも分かっている。

 異様な効果を持つ人参だった。

 俺は緑子に、食事を摂ればいいのだと説明する。



 「お前の方がちょっと元気だな」

 「ああ、ちょっとあんたのを飲んだりしたからかも」

 「俺にも飲ませろ」

 俺は緑子の股間にむしゃぶりつく。

 「それは、また繰り返しになるって!」

 後頭部を何度もはたかれた。



 何とか正気をかき集め、俺は風呂を出た。

 何も身に付ける余裕もない。

 濡れた裸のまま、キッチンへ向かう。


 冷蔵庫を開け、ハムの塊を取り出し、包丁でビニールを切り裂く。

 取り敢えず、一口かぶりつく。

 瞬間、俺の意識は多少持ち直した。



 分子生物学の福本先生が本に書いている。

 「分子が身体を駆け巡る」

 と。

 胃に入った食事は、消化の後に体内に取り入れられると考えられていた。

 しかし福本先生は、我々が考えるよりずっと早くに分子の一部が吸収されていくことを確認している。

 それを実感した。



 俺は多少落ち着いて、冷蔵庫をもう一度開ける。

 御堂家でもらった卵があった。

 おれはボウルに10個全部を入れ、果汁百%のジュースなどと共に、風呂場に戻った。


 緑子とふたりで、貪り喰った。

 すぐに意識が明白になり、今のうちに、と脱衣所へ向かう。

 ダメだった。

 脱衣所でもう一度催した。

 二人で頬を叩き合い、今度こそ寝巻きを着て、それぞれの部屋へそっと戻った。


 


 亜紀ちゃんに揺り起こされた。

 8時だ。


 「どうした?」

 「タカさん、大変です!」


 亜紀ちゃんは、キッチンの床がビショビショに濡れていると言った。

 ああ。


 「皇紀かルーとハーが悪戯したんでしょうか」

 「悪い、俺だ。風呂場でのぼせて、ちょっとな」

 「そうなんですか!」


 亜紀ちゃんは、心配そうに俺を見た。

 「大丈夫ですか?」

 「ああ、もう平気だ。緑子はどうしてる?」

 「まだお部屋へは行ってませんが」

 「そうか」




 俺は起き上がった。

 亜紀ちゃんが尚も心配そうに見ているので、呼んで頭を撫でてやる。

 瞬間、俺が起き上がった。


 「!」


 亜紀ちゃんは目を閉じて撫でられているので、見てはいない。

 俺は布団をずり上げた。


 「じゃあ、俺も起きるから、朝食は任せていいかな?」

 「はい、もちろんです。ゆっくり来てください」


 部屋を出ようとする亜紀ちゃんが振り向いた。


 「あ、卵とか飲み物もなくなってるんですが」

 「ああ、それも俺だ、悪いな」

 「いいえ」


 ちょっと不審そうな顔を見せるが、亜紀ちゃんは下へ降りていった。




 俺は緑子の部屋へ行く。

 ノックはしない。

 どうせ起きていない。



 緑子は、裸だった。

 非常に不味い。

 そういえば、栞が無防備に寝ていて、俺が我慢できなかったことを思い出す。


 俺は後ろ向きにベッドへ近づき、緑子の身体を揺する。

 ムニュっという感触に必死で耐え、何とか肩を掴んだ。


 ムニュ、で緑子は目を覚ましていた。

 「おい、起きて服を着てくれ」

 緑子は寝ぼけて裸のまま俺の背中に覆いかぶさる。


 「いしがみぃ、すきなんだよー」

 「し、知ってるから! 頼むから起きてくれ!」

 

 何とか、緑子は起きてくれ、身支度を始めた。

 「おい、お互い身体が触れないように気を付けてくれ」

 「うん、分かった」


 「さっき亜紀ちゃんにも反応したからな。お前は皇紀に気をつけろ」

 「うん」


 

 俺たちは恐る恐る二階へ向かう。

 双子が騒いでいるのが聞こえた。


 「今日は卵かけご飯にする日なのにー!」

 「昨日、あんなに卵があったじゃない!」

 「しょうがないでしょ、もう無いんだから!」

 

 俺と緑子は互いに顔を見合わせ、俯いた。

 子どもたちは、御堂家の卵を気に入り、毎週卵かけご飯の朝食を楽しみにしていた。

 一人二個まで。

 今日で最後の日だった。




 俺はキッチンに入って、俺が食べたと言った。

 「えぇー、今日で最後だったのにぃー」

 「楽しみにしてたのにぃー!」

 双子が猛烈に抗議する。


 「うるせぇ! 俺が家長だ! 俺は好きなようにやるんだぁ!」

 横暴だの、信じられないだの文句を言う。

 亜紀ちゃんが双子の頭をはたく。

 全然効いてねぇ。



 緑子が見かねて、

 「また手に入らないの?」

 と言った。


 「「それだ!」」


 「え?」


 俺は双子の反抗に押され、御堂に連絡すると約束させられた。

 まあ、自業自得だからなぁ。






 


 「どうしたんだ?」

 お世話になった礼は、翌日に電話で伝えてある。

 

 「実はな、いただいた卵が本当に美味しくて、毎週日曜日にみんなで卵かけご飯を頂いているんだよ。それを子どもたちが楽しみにしててなぁ」

 「それは良かった。じゃあ、また送るよ」

 「いや、それは流石に申し訳ない。ただな、今朝、俺が最後の10個を割っちゃったんだ」

 「え、そうなのか。子どもたちは残念がってるだろう」

 「そうなんだよ。そういうわけで、今回だけ、10個ほど譲ってもらえないかな」

 「そんなこと、すぐに送るよ。今後も遠慮なく言ってくれよな」

 「ありがたい。助かるよ」


 俺たちは簡単に雑談をし、電話を切った。

 後ろで双子が見張っていた。







 二日後、50個の卵が送られ、俺は御堂に心底感謝した。


 そして柳が夏休みの間に遊びに行くからと言われ、俺は快諾せざるを得なかった。

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