御堂家 Ⅴ
御堂の家の風呂は温泉を引いている。
だから24時間、温かなお湯が張られている。
檜のいい香りと温泉の匂いで、非常に良い。
俺は手足を広げて寛いでいた。
戸が開いた。
「御堂か?」
俺が声をかけても返事がない。
立ち上がって振り向くと、柳がいやがった。
「お前、何やってんだ?」
「背中をお流しします」
「あ?」
「お背中をお流しします」
丁寧に言い直した。
「冗談じゃねぇ、すぐに出て行け!」
「嫌です」
「大声を出すぞ!」
「どうぞ」
家の人が来たら、俺も困る。
「おい、背中を流すだけだぞ」
柳は嬉しそうに笑い、タオルに石鹸をこすり始めた。
「石神さんの身体って傷だらけですよね」
「おう、気持ち悪いだろ?」
「いいえ、全然」
柳は丁寧に背中をこすり始めた。
「はぁー」
「どうしたんですか?」
「御堂にどう言おうかと悩んでるんだよ!」
「黙ってればいいじゃないですか」
「俺と御堂はなんでも話してきたんだ。今更俺が不利だとしたって、隠すことはねぇ」
「本当に仲がいいですよね」
柳はシャワーで俺の背中を流す。
「おい、もう」
柳が背中に抱きついてきた。
「明日、帰っちゃうんですよね」
「そうだよ、お前離れろ!」
「寂しいです」
「……」
柳が泣き出した。
俺は仕方なく湯船に一緒に入った。
「お前なぁ、親友の娘とかって冗談じゃねぇぞ」
柳は返事をしない。
「私じゃダメですか?」
「ああ、ダメだな」
柳がまた泣く。
どうしたものか。
「花岡さんって女がいるんだよ」
「はい?」
俺は大学時代の俺たちの友達であることを説明した。
「俺が子どもたちを引き取るときに、御堂に止めてくれって話したらしい」
「そうなんですか」
「その時に御堂に言ったらしいけどな。俺と御堂の間にどうしても入れないんだと」
「……」
「柳、お前も同じことを言ってたよな」
「はい」
「なんだか知らないけど、そういうことらしいぞ?」
「なんですかそれ」
柳がやっと笑った。
「全然説得になってませんよ」
「そうかよ」
俺はまた、響子の話、栞と関係がある話、他にも好きな女がいる話をしてやった。
「なら、私も入れそうですね」
「そうなのか?」
「はい、そうです」
「石神さん」
「あんだよ」
「ピチピチの女子高生の裸が見れて、良かったですね!」
「お前、ふざけんな!」
先に上がるので、ごゆっくり、と言われた。
もう、いい加減のぼせそうだよ。
俺は火照った身体を涼ませるため、また縁側に出た。
栞に電話した。
「遅い時間に悪いですね」
「ううん、全然平気だよ」
「俺と御堂の間に入ってこれませんか?」
「え?」
「さっき、女子高生に言われたんです」
「そっちで何やってるの?」
栞が電話の向こうで笑っている。
「その話はね、諦めてるの」
「……」
「石神くんと御堂くんは特別なのね。女じゃ無理なのよ」
「そうなんですか」
「自分のことじゃない」
「俺は自分のことはよく分からなくて」
「もう! でもね、それでもいいんだ」
「はい」
「女の側ではちゃんと私を見てくれてるから」
「はい」
「電話をくれてありがとう」
「俺も花岡さんの声が聴きたくて」
「女子高生に手を出さないでね!」
俺は笑って返事をし、電話を切った。
御堂、月が綺麗だなぁ。




