御堂家 Ⅳ
三日目。
御堂の案内で、山を散策する。
昼食は後で車で澪さんが運んでくれると言う。
子どもたちの食う量を持ち運ぶと、とても散策ではないためだ。
柳が一緒に来て、正利は部活の練習に行った。
剣道部らしい。
出発前に、御堂が子どもたちに虫除けスプレーをかけてくれた。
柳は亜紀ちゃんと双子に日焼け止めを塗ってくれる。
「皇紀くんも塗ってあげるよ」
「いえ、僕は大丈夫です」
皇紀が赤くなって答えた。
「柳に惚れたか?」
俺がからかうと、必死に否定する。
「でも、柳は綺麗だろう?」
「はい、それはもちろん」
俺と御堂が笑った。
「石神さん、私って本当に綺麗ですか?」
「もちろん。学校でもモテモテじゃないのか?」
「そんなこともないですけど」
柳は照れて顔を赤くしている。
山の麓にあるとはいえ、ずいぶんと歩いた。
東京よりはずっと涼しいが、汗ばんでくる。
しかし普段は見ない自然の景色に、子どもたちは楽しそうだ。
「ちょっと山菜を取ろうか?」
御堂が言い、俺は子どもたちに命ずる。
「いいかお前ら! 散々御堂家の食材を食い荒らしたんだ! ここでちょっとは挽回しろ!」
「「「「はい!」」」」
「ほんとに面白いー!」
柳が喜んでいる。
御堂がみんなに手袋を渡し、手分けして山菜を集めた。
どれが食べられるのかを説明してくれ、柳も一緒に教えながら探す。
まあ、群生地でやらせてもらっているので、簡単に集められた。
双子がキノコが一杯あったと持ってくる。
「あのな、キノコの90%以上が毒なんだよ」
俺は説明し、捨てさせる。
マジで死ぬからなぁ。
柳がずっと俺の傍にいる。
「お前、もっと離れて探せよ、うっとうしい」
「だって、石神さんといられる機会って無いじゃないですか」
俺は柳の尻をはたいて追い返す。
「おとーさーん! 石神さんがお尻に触るよー!」
とんでもねぇことを言った。
「石神、18歳まで待ってくれな」
「お前!」
大量の蕨や薇などの山菜が集まった。
御堂はシートを広げてチェックする。
美味そうなものを選んでいるのだろう。
子どもたちは柳に連れられ、近くの川で軽く手を洗った。
そうしていると澪さんの軽トラが来て、俺たちは適当に座りながらおにぎりを頂く。
おかずもいろいろと用意してくださった。
山菜は澪さんが持ち帰った。
もうしばらく歩き、綺麗な景色を見せてもらった後、俺たちは帰った。
澪さんが俺たちが持ってきたスイカを切ってくれた。
みんなで縁側に集まる。
正巳さんや菊子さんも来てくれた。
二玉しかないので、小分けに切り分けられている。
みんなで頂く。
「何これ!」
柳が叫んだ。
「こんな美味しいスイカって食べたことありません!」
正利も褒めてくれる。
正巳さんたちも、御堂も澪さんも、それぞれ驚いてくれた。
俺は双子を呼び寄せ、説明した。
双子に花壇の管理を任せたこと。
上司の特別な呪いをかけたら、こんなに美味しいスイカができたこと。
ガウラが3メートルを超えて膨大な花をつけたこと。
クレメオが七色の花弁を広げ、ネットの投稿サイトで話題になったこと。
御堂家のみんなが驚いていた。
俺は残り少ないスイカを御堂家の方々に食べてもらうため、子どもたちに宣告した。
「お世話になった御堂家の方々のために、あとは残せ!」
「「「「はい!」」」」
菊子さんは双子を呼び、褒めてくれた。
柳も、ありがとう、と抱きしめる。
双子は大喜びだった。
澪さんが言う。
「みんな、種はこの中に入れてね!」
バケツを持ってきて、指示した。
自分でも育てたいようだ。
その後、夕飯の支度まで、子どもたちものんびりとする。
俺はそのまま縁側に座り、庭を見ていた。
柳が俺によく冷えた麦茶を持ってきてくれ、自分も隣に座る。
距離が近ぇ。
「おい、柳、本当に世話になったな」
「喜んでもらえたなら、良かったです」
「お前、大学は東大か?」
「はい。医学部に行きます」
「お前も医者になるのか」
「ええ、石神さんの病院に行くので、宜しくお願いしますね」
「ああ、任せろ!」
俺は病院の話をしてやった。
院長は類人猿であること。
恐ろしい女子会があるから、そこには行くなということ。
「どんな女子会なんですか?」
「最初は酔って暴れて警察に捕まり、何度も問題を起こし、ウンコを撒き散らし、最後は店を燃やす、という恐ろしい会なんだよ」
「エェッー!」
「お前のウンコを片付けるのは嫌だからな」
「絶対しません!」
「石神さんって、彼女はいないんですか?」
柳が唐突に聞いて来た。
「いねぇな」
柳はにっこり笑った。
夕食は性懲りも無く、鍋だった。
山梨の名物、ホウトウの鍋だ。
その他に膳には川魚の焼き物、山菜料理が大量にあった。
まったく、御堂家の人間も好きだなぁ。
子どもたちの戦場に、正巳さんが一番喜んだ。
鍋は本当に大量に作ったようで、澪さんは自信ありげだった。
しかし、結局はすべて子どもたちの胃袋へ消えた。
正巳さんと御堂、俺の三人でまた飲む。
明日は車の運転があるので、俺は控えたが、正巳さんが大層酔われた。
御堂が肩を貸して部屋へ連れ帰った。
「石神さん! 本当に楽しかった。是非また来てください!」
正巳さんはそう行って出て行かれた。
俺は縁側に出て、庭を眺めた。
御堂が戻ってきて、風呂を勧めてくれたが、俺は先に入ってくれと言う。
しばらくして御堂が上がったことを伝え、部屋に戻る。
俺も立ち上がり、風呂へ向かった。
とんでもねぇことになった。




