第六回石神くんスキスキ乙女会議 響子も来たよ!
栞は、食堂でまた一江に捕まっていた。
「だからね、本気で挽回しなきゃならないの!」
一江はA定食を掻き込みながら力説する。
「ねえ、陽子。いい加減にあれはやめましょうよ」
「ダメよ、人間負けっぱなしは絶対にダメ。歯を食いしばって勝利しなきゃ」
「そんなこと言っても、もう五回よ? 最後なんてお酒を抜いたのに、もっと悲惨なことになっちゃったじゃないの!」
栞は泣きそうなって叫ぶ。
「何よ、ウンコの一つや二つ」
「それが最悪だって言ってるの!」
「でも、その後でも、ちゃんと抱いてもらってるんでしょ?」
「!!!!!」
一江は栞の肩を抱いて優しく言う。
「今度こそは大丈夫」
「また、いつもそう言ってるじゃない」
「今度は茶話会です」
「え」
「しかも、絶対の守護天使が来ます」
「なによ、それ」
栞はいつもながらに、一江に抱き込まれていく。
「響子ちゃんと一緒に茶話会をします」
「えぇー、ほんとにぃ?」
「ね、完全無欠に大丈夫だって分かったでしょ?」
「うーん」
「じゃあ、月末の土曜日の三時に。場所は後でメールするから」
「分かった」
いつものことである。
「それでは、第六回石神くんスキスキ乙女茶話会を始めます!」
「あ、また変わってる」
「そこ、うるさい」
銀座の数寄屋橋近くの喫茶店。
そのテラス席に5人の乙女が集っていた。
一江、栞、大森、六花、そして響子。
一江の情報操作により、院長の許可は取りつつ、石神の耳には入っていない。
「今日はお酒抜き、暴力抜き、いいわね、そこ!」
一江は栞を指差す。
「重々反省の上、誓います」
栞はうなだれて言う。
「今日の超特別ゲストは、天使・響子ちゃんでーす!」
みんなで拍手する。
響子はニコニコしていた。
外に出るのが嬉しいのと、みんなが自分を主役にしてくれているためだ。
「みなさん、ありがとう。タカトラの嫁、響子です」
立ち上がろうとする栞を大森がフルパワーで止める。
六花は、身を挺して響子を防御する体勢。
「さあ、今日は響子ちゃんをお迎えし、石神部長の魅力について語り合いましょう!」
拍手。
一人むくれて拳を打ち付けている。
五人はメニューを見ながら、好みの紅茶とケーキを選び始めた。
六花は日本語のメニューを読み上げ、響子に注文を決めさせた。
注文の間、響子が先日石神と行ったドライブの話をした。
「あの車って、相当特殊だったんでしょ?」
一江が誰ともなく聞いた。
「ええ、石神先生の知り合いの会社で手配したようで」
「へぇー、部長も顔が広いよねぇ」
「それでね、タカトラが海辺のお店を借りてくれてたの」
「へぇー、貸切!」
「えーとね、お店の人はいなくて、お店だけなの。鍵を預かって中に入ったの」
四人はその情景を思い浮かべていた。
石神が響子のために手配した、響子の休憩所。
「二人でソファに座ってね」
「「「「うんうん」」」」
「寝たの」
ガタッ!
大森がフルパワーで栞を座らせる。
六花は、両手で十字受けの構え。
「あ、私ちょっとトイレに行ってくるね」
栞は立ち上がり、スタスタと歩いて行った。
トイレは厨房の隣にあった。
栞は化粧台にもなっている洗面所で手を冷水に浸す。
「子ども相手にムキになっちゃダメよね」
そう言いながら水道を止め、出口で壁を殴った。
奥義「螺旋花」。
甲冑の武者の内部を破壊する特殊な衝撃波だった。
減衰はすることのない正弦波は、壁を破壊することなく、壁の向こうへと消えた。
栞は冷静さを取り戻し、席に戻った。
注文の紅茶とケーキが届いている。
響子にニコリと笑顔を見せ、栞は座った。
「あとね、帰りに空港に寄ったの」
「羽田だそうです」
六花が解説した。
「すごく綺麗だったのね。そこでタカトラにチュッてしようとしたのね」
ガタッ!
大森がケーキを咀嚼しながらチキンウィング・フェイスロック。
六花はフォークを突き出す。
ベルが鳴った。
「火事だぁー!」
見ると厨房から炎が上がっていた。
室内の客は大混乱だ。
店員が必死で誘導を始める。
テラス席にも何人か出てきて、避難誘導を始めた。
「なんなのこれ、なんなのこれぇー!」
「一江、しっかりしろ! 六花、響子はあたしが担ぐよ」
「いえ、大丈夫です。私が命に代えても守りますから!」
「六花、なにが起きたの?」
「大丈夫です、必ず守ります」
「おい、栞! しっかりしろ!」
「え、私のせいじゃないよ?」
「何言ってんだ! 当たり前だろう!」
五人は無事に避難できた。
六花は急いで病院へタクシーで戻る。
残る三人は警察の簡単な事情聴取を受けた後、解散した。
「ご無事で何よりです。原因はこれからですが、どうも突然、ガス管が破裂したようでして」
私、何もしてないもん。




