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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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双子が、小悪魔すぎる件。

 みんなで朝食を食べていると、亜紀ちゃんが俺に頼み事があると言って来た。


 「友だちの家で、お泊り会をしたいんですが」

 「お泊り会?」


 「はい、今度の土曜日に友だちの家に、仲の良い三人で一緒に泊まろう、ということなんですけど」

 「ああ、いいんじゃないか?」


 俺は一応友だちの家の住所と連絡先を聞いた。


 「食事は、その家でいただくんだよな?」

 「はい」

 「亜紀ちゃん」

 「はい、なんですか?」

 「バナナを一房持っていけよ」

 「どうしてそうなるんですか?」

 「だって、お前……」


 「私、そんな大食いじゃありません!」

 「そ、そうか」


 

 俺はその日の午後に、先方のお宅へ電話をした。


 「石神と申します。亜紀の父親です」

 「ああ、お医者様の!」

 

 友人のお母さんが出られた。


 「いつも亜紀が仲良くしていただいて、ありがとうございます」

 

 俺たちは挨拶を交わし、土曜日に泊めていただく礼を述べた。


 「差し出がましいようですが、娘に和菓子を持たせますので、みなさんで召し上がっていただけないかと」


 遠慮されたが、俺は心苦しいので、と何とか了承いただいた。


 「それでは、何分よろしくお願いします。ご迷惑はかけないかと思いますが、何かありましたら、ご遠慮なく叱ってやってください」


 




 まさか、あのバカ共のような騒ぎにはならないだろうなぁ。





 土曜日。


 俺は前日に買っておいた叶匠寿庵の和菓子の詰め合わせを亜紀ちゃんに持たせる。


 「先方にはこないだ話しているから、これを最初に渡してくれ」

 「すいません、こんなお気遣いを」

 「かわいい亜紀ちゃんのためだからな!」

 「えへへへ」


 亜紀ちゃんは嬉しそうに笑って玄関へ向かう。

 

 「あ、タカさん、バナナも三本持ちました!」


 俺は笑って見送った。

 他の三人もいってらっしゃい、と言う。







 その夜、俺が9時頃にキッチンへ向かうと、リヴィングの灯がついている。


 「「お待ちしておりました!」」


 ルーとハーが座っていた。


 「なんだ、お前ら」

 「いつも亜紀ちゃんがタカさんと楽しそうにお話しているので」


 「ああ、そうだけど」

 「今日は亜紀ちゃんがおりませんので、二人でお相手しようかと」


 小学三年生になり、双子の喋り方は急激に変わってきた。

 以前は子どもらしい喋り方だったのが、段々大人びている。

 まあ、大人に憧れて変わってきたのだろうが。


 「それはありがたいような、迷惑のような」

 「「ありがたいのです!」」

 力説された。



 まあ、こんなのもいいだろう。

 俺は二人に葡萄ジュースを注ぎ、自分はいつも通り梅酒を用意した。

 二人は満足そうに、ジュースのコップを差し出す。

 ああ、乾杯ね。



 「それではどうぞ!」

 ルーが言う。

 俺が始めるのかよ。



 「ああ、お前ら、友だちはいるのか?」

 「はい? ああ、ほぼ手下と言ってもよいかと」

 「?」


 ルーとハーは順番に説明してくれる。

 二人とも成績はぶっちぎりでトップだ。

 それは俺も知っている。

 百点以外の点数がねぇ。


 ちなみに、二人とも小学校の教育内容はすべて修了している。

 俺が参考書や問題集をガンガンやらせたせいだ。

 夏休みからは、中学校の教材も与えるつもりだ。


 当然、先生からの覚えもよく、はっきりいって、可愛がられている。

 

 そして強い。


 どこの誰が教育したのか、思想的頑強さは、すでに小学生のものではない。

 担任に、『純粋理性批判』を読んだかと問い、辟易させたのを聞いた。


 前に俺に「一番難しい本は何か」と聞いてくるので、読ませたことがあった。

 そういう目的があったのか。

 もちろん、本人たちも、さっぱり分かってねぇが。


 また、意外に俺の話を覚えていて、ことあるごとに、それを引用しているらしいことも分かった。




 また、喰っているものの量か質か、力も強い。


 結果、クラス、学年、学校を支配しているような状態に成っていると言うのだ。


 「はっきり言って、逆らう奴はいないかな」

 「何度も思い知らせてるしね」


 なんだかなぁ。

 しかし、具体的な話を聞いて、俺は寒気がした。




 スカートをまくった男子の股間を蹴り上げた件。

 女子のいじめグループを体育倉庫でボコり、裸で土下座させた件。

 登校したら机にいたずら書きをされていたので、順番に十人ほど締め上げたら犯人が分かった件。

 その後でそいつと机を交換させ、休み時間に便器を舐めさせた件。

 担任がその子の机を見て、いじめの発生を心配した件。

 二人で「自分たちに任せて欲しい」と言い、翌日その子に「石神さんたちのお蔭で、いじめられなくなりました」と報告させた件、次いで担任に大変感謝された件。

 他の件、他の件。


 これは、ちょっと不味いのではないだろうか。


 俺は話を引き出すために、笑って二人の話を聞いていた。

 次第に顔が強張ってくる。


 「おい、アイスを食うか?」

 「食べるー!」

 「タカさんダイスキ!」


 この辺はカワイイのだが。

 二人は俺が開けた冷凍庫から、買い置きのハーゲンダッツを選んだ。



 

 「そんなにやりまくって、上級生から目を付けられたりしないのか?」

 「はい、何度か生意気だと呼び出されたことは」

 「それで?」

 「タカさんに教わったとおり、背が高い相手はレバーにパンチを集中させるね」

 「腰を折ったところで、顔面に膝入れて」

 「あ、両耳は持ったまま」


 なんでそんなに覚えてるんだよ。

 俺は話の合間にジョーク的に言っただけだろう。


 はっきり、不味い。

 ところで、こいつらは、さっきから誰の教えって言ってる?





 「それで先生から怒られたりしないのかよ?」


 双子はちょっと考えていた。


 「ありませんね。階段で転んだことにしろ、というタカさんの教え通りにしていれば、何の問題もありません」



 ダメだ、何も言えねぇ。

 こいつらは俺の言った通りにやってるだけだ。



 「それで、結局友だちはいねぇ、ということだな」

 「格下すぎるよねー」

 「そうだよねー」

 

 そりゃそうだな。





 12時近くまで楽しく話し、双子は俺と一緒に寝たがった。

 







 小悪魔たちは、俺の両脇ですやすやと眠った。


 俺は心の中で、山中に手を合わせた。

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