六花、ほんとに墓参り。
「ええと、シングルで」
「ははは、面白い旦那だ!」
巨漢に茶のカーリーヘアのよしこが豪快に笑う。
「じゃあ、総長、うちで一番の部屋にご案内します!」
おい、六花。俺たちは「墓参り」に来たんだぞ。
案内された部屋は「カトレア」。
まあ、花の女王だってお袋が言ってた。
思い出したぞ。
30畳ほどの広い部屋に、直径5メートルのベッド。
バスルームはガラス張りだ。
100インチの大型テレビ。
カラオケセットまである。
奥の壁にあるX字の木は、拘束具か?
ドアが開いて、またよしこが入ってきた。
「総長、これはオプションで有料なんですが、全部持ってきました!」
バイブの数々。
「ありがとうな、よしこ。ありがたく使わせてもらうぞ」
おい!
六花は既に服を脱ぎ、そのままガラス張りのバスルームへ行く。
「石神先生。見ちゃダメですよ!」
お前、何言ってんの?
六花は、俺に見せ付けるように洗う。
よしこのみやげを持っていったようで、それも使って見せる。
「……」
六花がバスルームから出て、水気を拭う。
ずっと俺の方を見て、「見てましたよね?」という顔をしている。
「さあ、石神先生も早く入ってきてください。
六花は、よしこのみやげを丹念に試しているようだ。
俺がさっさとシャワーを浴びて出てくると、両手に選び抜いたものを持っていた。
俺は黙ってロープを手にすると、六花の手首を縛った。
「あ、やっぱり、今日はそういう!」
俺はベッドの端に六花を押し倒し、布団をかけてやる。
そして六花から離れた位置に潜り込み、電灯を枕元のスイッチで切った。
「おやすみ」
「えぇー!」
「ばかやろう! 俺たちは墓参りに来たんだぞ!」
「そ、それはそうですけど」
六花は必死で俺の隣ににじり寄って来た。
「今日は何もしねぇぞ」
「そんなこと言わずに、折角のシチュエーションですよ?」
俺は六花の頭に強めの拳骨を入れる。
「おい」
「はい」
ちょっとむくれている。
「お前の仲間は、みんな気持ちがいい連中だったな」
「!」
「こんなにもお前のことを慕ってくれるなんて、なんだか俺も嬉しかったよ」
「はい、最高の連中です」
「あんないい連中、お前、一生大事にしろよな」
「はい」
「今日は寝ろ」
「クゥッー!」
「お前は本当にいい女だな」
「!」
「今日は惚れ直したぞ」
「ありがとうございます」
六花は俺に身体をピッタリ寄せて眠った。
俺は必死で理性を呼び起こした。
朝になり、電話が鳴った。
そういえば、アラームをセットしていなかった。
時計を見ると、朝の8時だった。
俺が電話に出た。
六花は縛ったままだったからだ。
「お目覚めでしょうか!」
「ああ、お蔭様でよく休めました」
「それは何よりです。朝食を支度したのですが、後ほどお持ちして宜しいですか?」
「それは大変ありがたい。六花も起こしますので、お願いします」
俺は六花を揺り起こした。
目を開けたが、唇を突き出してくる。
仕方がないと、俺は軽くキスをしてやる。
六花も俺も裸だ。
面倒で、俺も何も着ないで寝たのだ。
突然ドアが開いた。
俺は六花のロープを解いている途中だった。
「あ、失礼しました」
早ぇよ! 後ほどって言ってたろうが!
1分も経ってねぇ。
しかしよしこは構わずにテーブルに朝食の盆を置いた。
「ごゆっくり、どうぞ」
部屋を出て行くときに
「ご主人様だぁ」
と呟くのが聞こえた。
俺と六花は裸のまま、用意してもらったパンとスクランブルエッグ、果物の入ったヨーグルトを食べる。
俺たちは急いで顔を洗って、身支度を整える。
下に降り、顔の見えない受付で声をかけると、横のドアからよしこが出てきた。
「もう出発ですか」
「はい、お世話になりました」
俺が会計をと言うと、やはり固辞された。
無理矢理万札を数枚握らせる。
「ちょっとシーツを汚してしまいましたから」
「!」
六花の寝ていた下は、ぐっしょり濡れていた。
俺は何もしていない。
「またお出での際は、是非うちに泊まってください!」
「よしこ、またな!」
お前、何偉そうに!
ああ、紅六花みんなに広まるんだろうなぁ。
俺たちは、やっと六花の父親の眠る墓へ向かった。
寺の前に花屋があり、既に開店していた。
俺たちは花を選んで、墓花を作ってもらう。
桶を借り、俺たちは墓の掃除をする。
六花は花を入れ、俺は持ってきた線香を焚く。
高尾山のものだ。
甘い良い香りが立つ。
二人で手を合わせ、しばらく黙祷する。
「おい、六花。お前お経は何か知っているか?」
「すいません、あいにくと何も知りません」
俺は般若心経を唱える。
六花は、隣で手を合わせていた。
読経が終わると、後ろに寺の人が立っていた。
「何やら素晴らしい読経が聞こえましたので、後ろで聞き入ってしまいました」
「お恥ずかしい限りですが、お寺の方ですか?」
「はい、住職をしております」
「そちらは、一色さんのお嬢さんですね」
「はい、六花と申します」
「やはり。一色さんには、ずい分とお世話になったんですよ」
住職は、昔六花の父親に、寺の修繕などをずい分としてもらったのだという話をしてくれた。
もちろん顔の広い方だ。
六花の父親のその後のことも知っているのだろうが、口にはしなかった。
「死んだら皆仏。ありがたいことです」
そう話を締めくくった。
俺たちは礼を言い、お借りした桶やたわしなどを洗って戻した。
寺の駐車場で、しばらくフェラーリの暖気をした。
「ああ、なんかコーヒーが飲みてぇなぁ」
「あ、それでしたらヒロミの店に」
「絶対ぇ、行かねぇ」




