アロー『一般不可能性定理』、はちょっとだけです。
一旦、栞も一緒に俺の家に来る。
先にマンションへ送ると言ったのだが、早く子どもたちを家に帰して欲しいと言われた。
みんなでお茶を飲み、一息入れて、俺は栞を送っていく。
フェラーリを出す。
栞のマンションに着き、そのまま帰ろうとしたが、栞が上がっていって欲しいと言う。
「おい、もういい加減にそんな気分じゃないぞ」
「大丈夫、何もしないから」
俺はマンションの駐車場に車を入れ、栞の荷物を持ってやった。
部屋に入り、コーヒーを煎れてもらう。
茶請けに高麗人参が出た。
「おい、これ」
「ウソでしたー!」
栞が俺に抱き付いてきた。
日が暮れている。
俺はシャワーを借り、出てくるといつも俺が使っているジェルを渡された。
「髪がボサボサだとおかしいと思われるでしょ?」
用意がいいことで。
「その乱れた髪も好きだけど!」
はいはい。
「子どもたちも腹を空かせてるだろうなぁ」
「え、でもさっきあんなに食べたばかりじゃない」
「うちの子の食欲を知ってるでしょう」
「あぁ」
俺はマンションを出る前に、適当に出前をとるように亜紀ちゃんに伝えた。
「何かあったんですか?」
あったよ、たっぷり。
「ああ、ちょっと花岡さんと話し込んでしまってな。悪いな」
「そうですか。いろいろありましたもんね」
そうだよなぁ。
やっと家に戻った。
明日は何の予定もない。
俺は亜紀ちゃんが頼んでくれたマーボー丼を食べた。
また中華を喰ったのかよ。
風呂に入り、リヴィングへ行く。
高麗人参のせいか、まだ全然眠くない。
キッチンに亜紀ちゃんがいた。
「タカさん、お疲れ様でした」
「ああ、そうだよな。亜紀ちゃんもお疲れ」
喉が渇いたという亜紀ちゃんに、俺はいつもの梅酒を勧めた。
今日は土曜日だ。
亜紀ちゃんと梅酒を飲むのが恒例の日だった。
二人でバカラのロックグラスを当てる。
「そういえば、こないだ皇紀が言ってたんですよ」
「なんだ?」
「前に何度か、こうやって二人で梅酒を飲んでるのを見たって言うんです」
「なんだ、入ってくればいいのに」
「私もそう言ったんですけどね。でも「なんだか二人の大切な時間のような気がして」って言うんですよ」
「あははは、そうか」
「私も、なんだか納得しちゃって。タカさんとゆっくり話せる時間ですからね」
「そうだな」
「なんか、いろいろとスゴイ家でしたねぇ」
「まったくなぁ」
「あの優しい花岡さんの家が、あんなだったなんて、驚きです」
「俺はこないだちょっと聞いてたんだけどな。でかい屋敷とあのじじぃが強烈な印象だよな」
俺たちは声を上げて笑った。
「あのおじいさんは凄かったですよねぇ」
「まったくだ。俺も散々喧嘩してきたけど、あんな凄まじい相手は何人もいねぇなぁ」
「目に見えない速さでした」
しばらくじじぃの話になったが、気分が悪くなったので俺が切り上げていつもの話にする。
「じゃあ、今日はアローの『一般不可能性定理』の話をしよう」
「あ、なんか難しそうですね」
俺たちは深夜まで楽しく話した。




