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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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花岡流暗殺拳 Ⅴ

 離れに栞が来て、夕食の準備が出来たことを知らせてくれた。




 やはり和食だった。


 巨大な膳がみんなの前に置かれ、大人でも喰い切れそうもないほどの料理が並んでいる。


 刺身、鱒の塩焼き、幾つもの小鉢には山菜の煮物や数の子とキノコの和え物などなど。

 鳥のつくねに珍しい雉の七味焼き。

 丼が四つあり、普通にご飯とキノコの味噌汁、それにウニとイクラがたっぷりと入っていた。


 その他に、俺の膳には別なものもある。


 でかい丼に入った山芋の摩り下ろしに大量の高麗人参の漬物。

 なんでだ?




 「みんなとても良く食べるって栞に聞いたから。いつもより頑張ったのよ!」

 栞の母、菖蒲さんが明るく言った。


 「こりゃ喰いきれんわ」

 じじぃが言う。

 手錠を嵌めたままだ。

 てめぇはその辺の草でも喰ってろ。



 子どもたちは珍しい食材に、ワイワイと喜んでいた。


 鱒は亜紀ちゃんが双子のためにほぐしてやる。

 皇紀はかぶりついて、骨だけ口から出している。


 「キノコは、昨日おじいちゃんが山から獲って来たの」

 菖蒲さんが説明してくれた。


 じゃあ、喰いたくねぇな。

 でも美味しいから食べたけどな。



 「じじぃ! このキノコは美味くねぇな!」

 「全部飲み干してから言うな!」


 栞が空になった椀に、新たに味噌汁を注いでくれた。


 「たまには不味いものも喰わねぇとな!」

 「お前、喧嘩売ってるのか!」


 「へっ、さっきはぶっ飛んで負けたくせによー」

 「なにおー!」


 「もう! 二人ともいい加減にして!」

 栞が叫んだ。


 みんな笑った。


 俺は口の脇に両手をかざし、指を動かしながらじじぃを見た。

 じじぃは俺を睨みつけていた。




 「石神さんは、本当に面白いわね」

 菖蒲さんが言う。


 「ああ、それにしても父と互角にやりあうなんて、俺もおどろいたよ」


 「お父さん、もうその話はやめて」

 栞が困った顔で懇願した。


 



 子どもたちは膳を食いつくし、何倍もご飯と味噌汁をおかわりした。


 花岡家の人々が絶句した。








 一番風呂を勧められたが、断って子どもたちを先に、とお願いした。

 

 亜紀ちゃんと双子、それに栞が一緒に入ったようだ。


 皇紀も上がってきた。

 「タカさん、広いお風呂でしたよ」


 俺に教えてくれる。


 俺も風呂に入る。


 広い浴室には、これも巨大な檜の風呂があった。

 十人以上でも十分に入れる。


 身体を洗い、浴槽で足を伸ばしていると、戸が開いた。

 まさか栞か、と思ったらじじぃだった。


 頭に来た。




 「おい、隣に入るぞ」


 一応断ったのは、俺が警戒しないためだろう。

 無言で少し身体を移動すると、じじぃが隣に座る。



 「お前と違って、いい風呂だな!」

 「ふん!」


 しばらく、俺たちは無言で湯を味わった。




 「さっきも言ったが、「絶花」はどうやって身に付けた?」


 「だからなんだよ、「絶花」って?」



 「うちの流派の奥義のひとつだ。人間というのは、人を殺すのに結構面倒な準備がいる」

 「へぇ」


 「普通は、でかい声を出したりして、感情を高め切らないと、理性が邪魔をするもんだ」

 「……」





 「「絶花」は、準備もなく、一瞬で相手を殺せる」

 「……」


 あの時、俺がじじぃの目を躊躇い無く潰そうとしたことを言ってるのだろう。



 「それと「無間」だ。殴り合いのときには、間を取りたがるのが当たり前じゃ。人間の骨は、そう繋がっている」


 殴る行動は、振りかぶらなければ威力はない。

 蹴りにしても同じだ。


 「相手と密着して攻撃をできるのは、相当な鍛錬と技術が必要じゃ」


 なるほど、それで「無間」か。


 「花岡さんと組み手をしていた時に「蝮」とか言ってたぞ」

 「ああ、「蛇」の技の一つで、相手の一部に絡み付いて骨を砕くんじゃよ。飛び掛って避けようとした部分に絡むのが「蝮」じゃ」


 「栞はもちろん、砕くことは考えなかったじゃろうよ。でも、絡むことが出来ずに弾かれた。知っていなければやらないことじゃよな」

 「……」



 「お前、本当に何者じゃ?」





 「通りすがりの風車」

 「矢七か!」


 


 「まあ、いいわい。おい、背中を流せ」

 「なんで俺が」


 「これじゃ前は洗えても、背中は無理じゃ」


 じじぃは手錠をしたままだった。



 俺の返事も聞かず、じじぃは洗い場に座る。

 俺はじじぃの背中をあらってやった。


 じじぃの身体には、数々の傷がある。

 大きなものはなかったが、その数は多い。


 俺は洗い終わってシャワーで湯をかけて洗い流してやる。



 「ちょんまげー!」


 俺はじじぃの頭にチンコを乗せた。


 「お前、またやるかぁー!」


 



 俺は無視して、また湯船に戻った。

 じじぃも戻ってくる。




 「なあ」

 「あんだよ」


 「お前、栞に子種をくれ」

 「なんだと!」

 

 俺は思わず立ち上がってじじぃに向く。


 「その立派なもんで、栞に子種をくれ」


 「……」



 「間違いなく、花岡家最強の子どもが生まれる。わしが生きている間に、それを見たい」


 「じじぃ、今幾つだよ?」

 「あ? 87じゃが」


 「一体幾つまで生きるんだよ」

 「そうじゃな、300まででいいかな」


 生きそうで怖い。

 87歳の老人が、なんであんな化け物みたいに強いんだ。



 「なあ」

 「あんだよ」


 「高麗人参は効くじゃろ?」

 「あ、じじぃ、お前!」



 俺はじじぃを残して風呂を上がった。

 脱衣所前の廊下には、栞が座っていた。



 「何かあったら止めようと思って」

 そう言う栞を見て、俺の股間が盛り上がった。














 あのクソじじぃ!

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