表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1297/3215

百家訪問 Ⅱ

 山頂の偽牧場からハマーで走り、30分後に市内に入った。

 六花が調べてくれた蕎麦屋に入る。

 六花は同行出来ない代わりに、響子が好きそうな店を調べ上げてくれていた。


 「なんか、一番美味い蕎麦らしいぞ」

 「そうなんだ!」


 響子のテンションも高い。


 メニューを見て、響子は割子そばの1段を、俺は天ぷら割子そば3段と天丼を頼んだ。

 

 「可愛らしいお子さんですね」

 

 店の人が響子を見て言う。

 響子は喜んでいるが、もう「タカトラのヨメ」とは言わない。


 「日本語も堪能なんですよ。今日はここが一番美味しいと聞いて来たんです」

 「そうなんですか! じゃあ、頑張って作りますね」


 そろそろ昼時なので、店は段々と人が入って来た。

 俺は響子に海老の天ぷらをやった。


 「さっき食べたばかりだから、無理しないでいいぞ」

 「うん!」


 響子は可愛らしく蕎麦をすする。


 「美味しいよ!」


 蕎麦の香りが良く立っている。

 いい店だ。

 天ぷらも加減が絶妙にいい。

 冷酒が欲しくなる。


 大満足で店を出た。






 そのまま、百家へ向かった。

 食後に響子は少し眠る。

 そのことも百家には伝えている。

 俺は指定された駐車場にハマーを入れた。

 既に待っている人がいた。

 俺は挨拶し、ハマーから荷物を降ろす。

 広大な場所なので、響子はセグウェイで移動する。

 話は通していたが、俺の「荷物」を見て案内の人が驚いた。

 普通の俺と響子の手荷物は、案内の人が持ってくれた。


 奥の国造館に案内された。

 宮司や神官の住居になっている。

 漆喰の高い白壁に囲まれた敷地だ。


 響子は嬉しそうな顔で、俺たちに合わせて進んだ。





 大きな屋敷があり、俺たちは板張りの応接室のような部屋へ案内された。

 手荷物は部屋へ運んでくれるようだ。

 俺は「荷物」を床へ置いた。


 茶を出されてしばらく待たされた。

 響子は部屋の中を見て回っている。


 間もなく、百家の人間が入って来た。

 俺は立ち上がり名刺を渡して挨拶した。

 老人の男女と、60代の男性、それに40代前半の女性だ。

 大宮司の百家尊正たかまさ氏と奥さんのいづみさん。

 宮司の尊教たかのり氏と妹の緑さんだった。

 つまり、響子の祖父母と伯父、叔母にあたる。


 「突然に押し掛けてしまい、申し訳ありません。静江さんの娘の響子を是非一度こちらへ案内させたく」

 「石神さん、その前に、刀を是非テーブルの上に。今、台を用意させますので」

 「はい?」

 「その刀は床に置いてはなりません」

 「はぁ」


 俺は二振りの「虎王」、そして「常世渡理」と「流星剣」、銘の分からない二振りの刀を持って来ていた。


 「お聞きしていたのに準備もせずに申し訳ございません。神剣に失礼なことをいたしました」

 「いえ」


 俺は自分がそう言って良いのか分からなかった。


 尊教さんが部屋から出て、すぐに大きな刀掛けが幾つか運ばれて来た。

 驚いたことに、「常世渡理」の3メートルの長さが納まるものもあった。

 俺は断って、台に掛ける。

 反りが上になる。

 

 「その子が「響子」なのですね」

 

 尊正さんがそう言った。


 「はい。静江さんとアルジャーノン氏の間に生まれた娘です」

 

 四人が顔を綻ばせて響子を見ていた。


 「響子ロックハートです」


 響子が立ち上がって頭を下げて挨拶した。


 「お二人をお待ち申し上げておりました。ただ、響子はこの後でしばらく休むとお聞きしております。まずはこの辺りで、後程またゆっくりと」

 「ありがとうございます」


 俺と響子は緑さんに案内されて、部屋へ入った。

 和室で、響子の布団が敷かれていた。


 「石神様は、どうぞご自由に屋敷の中を御歩き下さい」

 「ありがとうございます。後程、庭を見せていただければと」

 「どうぞ。大したものではございませんが。宜しければ本殿の方へも」

 「はい、響子が起きたら一緒にお参りさせて頂きます」

 「さようでございますか」


 緑さんはにこやかに笑って、部屋を出て行った。

 俺は響子を寝間着に着替えさせて、近くの洗面所で歯を軽く磨かせた。





 「響子、ついに来たな」

 「うん。なんか懐かしい気がする」

 「そうか。じゃあ、将来の俺たちの家は、こんな感じの建物にするか」

 「素敵ね!」


 響子が笑った。


 「虎を家の中で飼うか」

 「うん!」

 「ロボは虎に負けないから大丈夫だ」

 「アハハハハ!」


 超高度文明のマザーシップを一撃でぶっ壊す。


 「庭で遊ばせたら、お前が足を拭ってやるんだぞ?」

 「やるよ!」

 

 二人で笑い、やがて響子は眠った。


 俺は玄関に回り、庭に出させてもらった。

 秋の日差しが温かく、気持ちが良かった。

 応接室から「常世渡理」を持ち出していた。


 一気に鞘から抜く。

 玉砂利を敷き詰めた庭の中央で、演武をする。

 「常世渡理」は、薙ぐ度に「シャララン」という美しい響きを奏でる。

 どういう構造かは分からない。


 刀身が長いため、俺は何度も空中高く跳び、「常世渡理」を振るい、舞った。

 舞う度に、空気が清澄になっていく気がする。

 楽しくなって、しばらく舞った。

 庭の隅で、先ほどの百家の四人と10人ほどの神官らしき方々が見ているのが分かった。

 何も言われなかったので、俺はそのまま自由にやらせてもらった。


 30分もやらせてもらっただろうか。

 俺は刀身を鞘に納め、見ている方々に一礼した。

 俺は歩いて行って、また頭を下げた。


 「すいませんでした。素晴らしいお庭で夢中になってしまい」

 「とんでもございません。大変良いものを観させて頂きました」

 「庭の空気が澄みましたね。流石は「常世渡理」です」

 

 尊正さんと尊教さんがそう言った。


 「銘を御存知でしたか」

 「はい。実物は初めてですが、その長さと神威で間違いなかろうと」

 「ご覧になりますか?」

 「いいえ! それは人の身で触れてはならぬものです」

 「はぁ」


 俺も人間だが。

 他の方々は屋敷の中へ戻り、緑さんが庭を案内してくれた。


 「先ほど、大きな神威を感じて、全員が庭に出ましたの」

 「それは、とんだことを!」

 「いいえ。とても澄んだ心地のよいもので。思わずどなたかが御降臨になられたのかと」 

 「はい?」

 「石神様がいらしていたことを失念しておりました」

 「はぁ?」

 

 よく分かっていない俺のために、緑さんは丁寧に説明してくれた。


 「神威というのは、神の威を感ずるということです。一般の人間にはそれは「畏怖」ということになるでしょうが、あやかしの恐怖の威圧とは異なり、生命を高める力です。但し、浴び続ければ生命の器が壊されてしまいます」

 「え!」

 「御心配なさらぬように。先ほどの神威はとても心地よく、いつまで浴びても良いものでした。石神様の清澄が出ていたのでしょう」

 「いいえ、俺なんて……」

 

 俺なんて「イヤラシー大王」だ。


 緑さんと庭をゆっくりと歩いたが、ほとんど庭の紹介は無かった。

 ただ、美しい庭を俺は味わって歩いた。


 「響子に会えて、本当に嬉しく思います」

 「そう言って頂けると。以前から響子には、ここを見せたかったんです」

 「姉は元気でしょうか?」

 「はい。事情があってこちらへは連絡出来ずにいますが、大変お元気ですし、お幸せそうですよ」

 「そうですか」


 緑さんは薄っすらと微笑んだ。


 「姉が連絡出来ない謂れは存じております。それは百家の運命ですので、私共も潔く。でも、響子にはずっと会いたかった」

 「そうですか」

 「一目見て分かりました。あの子は沢山の愛情を受けて育っておりますね」

 「ええ、みんな響子が大好きですよ」

 「特に石神様の愛情が」

 「アハハハハ! あいつ、今日は言いませんでしたが、ずっと「私がタカトラのヨメです」って言うんですよ。もう可愛くって」

 「ウフフフフ」


 緑さんが笑った。


 「今日は来ていませんが、一色六花という響子の専任の看護師がいるんです。響子が「ヨメです」って言うと、いつも一緒に「そして私が二号です」って。響子と本当に仲良しなんですよ」

 「ウフフフフフ」

 

 



 俺はここに来るに当たり、響子の状況を電話で話していた。

 末期がんから奇跡的には助かったが、一生をベッドで暮らすだろうこと。

 今も体力が無く、絶対に無理はさせられないこと。

 そして静江さんの特殊能力を知っており、響子にも何らかの能力の発現が見られることを話した。

 また、更に電話では話せないことがある、と。

 百家でも、俺と響子に話したいことがあると告げられた。


 「何よりも、響子が幸せそうで安心致しました」

 「そうですか」

 「身寄りの無い日本で、たった一人で入院していると聞き、可愛そうに思っておりました」

 「はい」

 「ですが、その心配は無さそうですね。響子を見て分かりました」

 「はい」


 「それに、姉も幸せだと」

 「はい。ロックハート家でも大事にされていますよ。でも、日本のことを忘れたことは無い。今もずっと日本を愛していらっしゃいます」

 「さようでございますか」


 緑さんは目を潤ませた。





 俺たちは屋敷の中へ戻った。

 「常世渡理」を台に掛け、与えられた部屋へ戻った。

 響子はスヤスヤと眠っていた。

 

 俺は、その美しい寝顔を眺めていた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ