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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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柳とデート Ⅲ

 「石神!」

 「よう、御堂! 皆さん元気か!」

 「元気だけど。それより、頼む! ジャングル・マスターを何とかしてくれ!」

 「どうした?」


 9月下旬の月曜日の夜だった。

 俺のスマホに直接御堂から電話が来た。

 夜の10時を過ぎていたので、御堂にしては遅い時間だ。

 緊急の用件でしか、この時間に話したことはない。

 まあ、御堂にとっては緊急だったのだろう。


 「今度、アメリカのマーティン大統領が来日して、僕に会うって言うんだ!」

 「ああ、聞いてるよ」

 「お前! 聞いてるなら止めてくれよ!」

 「なんで?」

 「何言ってるんだ! どうして僕なんかに会うんだよ!」

 「アハハハハハ!」


 もちろん、御堂もその理由は聞いているはずだ。

 ジェヴォーダンやバイオノイドの襲撃を撃退した人間として、同じく「業」のテロを受けたアメリカを代表して大統領が来日して御堂と話したい、というものだった。


 「御堂の政界進出の発表を、最も劇的に行なうためだよな」

 「それは聞いたけど、無理があるだろう!」

 「何も無いよ。あのジェヴォーダンの恐ろしさは日本中に広まっている。お前はヒーローなんだよ」

 「石神が撃退したんだろう!」

 「まあな。でもお前は日本で唯一、「虎の軍」に繋がりを持つ人間なんだ。「虎の軍」がお前の重要性を認め、お前を守るために動くんだからな」

 「僕の重要性って、本当にアレか?」

 「まあ、即物的にはそうだけど、お前の本当の重要性は別にある」

 「え?」


 御堂が徐々に落ち着いて来た。


 「お前の魂だよ。お前は本当に「虎」の親友であり、高潔で日本を真の意味で愛している。日本を絶対に守りたいと考えている、その魂こそが重要なんだ」

 「それは……」

 「なあ、御堂。利益で釣るのがお前の価値じゃない。お前の理想、美学こそがそうなんだ。大衆は利益に喰らいつくだろう。今は民主主義の世の中だからしょうがない。でもな、お前は理想の実現で、日本人を変革するんだ」

 「ああ」

 「俺とお前はそれを話し合った。後はやるだけだよ」

 「うん」

 「どんな相手と会うなんて、どうでもいいことだ。お前は堂々と理想に向かって行けばいい。俺もジャングル・マスターも、それを応援するだけだ」

 「ああ、分かったよ」


 御堂はいつもの御堂に戻った。

 誰にも言えない愚痴を俺にぶつけたかったのかもしれない。

 御堂は、弱音を吐けない人間になりつつあった。

 今は俺だけだろう。


 「大丈夫か、親友?」

 「ああ、ありがとう。スッキリしたよ」

 「お前には苦労を掛ける」

 「いや、僕が自分で決めたことだ」

 「そうか」

 「でも、余りにもな」

 「アハハハハハ!」

 

 俺は柳の話をした。


 「柳も頑張っているよ。「対妖魔技」を何とか見出そうとしてな。逆に頑張り過ぎで困ってるよ」

 「そうか。まあ、石神がいるから大丈夫だろうけど、無理をしないでと言ってくれ」

 「もう100回以上言ってるよ! でも全然聞かねぇ! なんなんだ、あいつ!」

 「アハハハハハハ!」

 「俺はさ、あいつに「出来ないこと」をやらせようと思ったんだよ。何をどうやっても辿り着けないことを経験させたかった。そこへ自分を投げ込むことを教えたかった」

 「うん」

 「それがさ、あいついつまで経っても「出来ない」って考えねぇんだ! 頭がおかしいぞ!」

 「アハハハハハハ!」

 「それによ、どうも何か形が出来つつあるんだ。毎日拳をブンブンやってるだけなのにさ。マス・オーヤマも真っ青だぞ!」

 「アハハハハハハ!」


 御堂が大笑いした。


 「おい、笑い事じゃないって」

 「柳は絶対に諦めないよ」

 「え?」

 「だって、石神のためだから。柳は石神のためなら、何でもやるよ。お前のためじゃなければ、諦めるかもしれない。でも、お前のためならば、絶対に諦めることはないよ」

 「そっか」

 

 俺も笑った。


 「石神」

 「ああ」

 「ありがとう、柳の話を聞かせてくれて」

 「あ?」

 「僕もやるよ」

 「そうか」

 「お前のためだもんな」

 「バカヤロウ! 御堂家のみなさんのためだ!」

 「アハハハハハ!」

 「ああ、オロチたちもな!」

 

 御堂が爆笑した。


 「分かった。夜遅くに済まなかった」

 「うちは全然遅くねぇよ。これから亜紀ちゃんと柳と飲み会だ」

 「そうか」

 「柳のことは任せろ」

 「うん。宜しくお願いします」

 「じゃあな」

 「ああ、また」






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「え! 私って出来ないことをやらされてたんですか!」

 「アハハハハハハ!」

 「そんなぁー」


 柳が泣きそうな顔をしていた。


 「お前は今日まで、「出来ない」って思ったことはあるか?」

 「ありませんよ! 石神さんがやれって言ったんですから!」

 「じゃあ、続けろよ」

 「はい?」

 「お前なら、いつか出来るかもしれない」

 「そうなんですか?」

 「お前がそう思い続ければな。お前の愛が奇跡を生むだろうよ」

 「!」


 料理はどんどん運ばれ、柳は鮑のスープを絶賛した。


 「亜紀ちゃんや双子なら、もっと簡単に出来るかもしれない」

 「え!」


 また柳が泣きそうになる。


 「あいつらは天才だからな」

 「じゃ、じゃあ!」


 俺は笑って柳に言った。


 「でもな、俺はお前にやってもらいたいんだ」

 「なんで!」

 「お前を愛しているからだよ」

 「!」

 「愛する柳が成し遂げた技を使いたい。何年掛かってもいい。出来なくたっていい。俺はいつまでも待つ」

 「でも、それじゃ「業」との戦いに」

 「そんなものはどうでもいい! 俺は勝利よりも大事なもののために生きているんだ」

 「石神さん!」

 

 柳が泣き出した。

 俺はまた立ち上がって柳に近づき、頭を抱いた。


 「柳、何も心配するな。俺たちは「愛」の戦いをしているんだ。「愛」を示し続ける限り、俺たちは負けることはない」

 「はい」

 「「愛」は全ての力の根源だ。大丈夫だ、俺たちは十分な「愛」を持っている」

 「はい」


 俺は笑って、また柳にどんどん食べろと言った。


 「この北京ダックは最高なんだぞ!」

 「はい! あ! 美味しい!」

 「な!」


 料理には魔力がある。

 本当に人間を捉えて離さないものがある。

 俺はどんどん柳によそり、柳も嬉しそうにどんどん食べた。

 柳はこの料理が美味しいですよと言い、俺は「知ってるよ」と言った。

 二人で楽しく話しながら食べた。


 



 「お前、さっき俺に何を聞こうと思ったんだ?」

 「はい?」

 「車の中でさ。御堂と一緒に来たのかを聞いて、その後でお前は口を噤んだ」

 「あれは、あの、何でもないんです」


 柳が口ごもった。


 「奈津江か?」

 「!」

 「なんだよ、俺に気を遣ったのか」

 「だって……」


 俺は小さく笑った。


 「もちろん来たよ。奈津江にはいつだって喜んで欲しかったからな」

 「そうなんですか!」

 「ああ。まあ、俺たちはあんまり金が無かったからな。ここは結構高い店だから」

 「はい」

 「だから一度だけだ。しかも奈津江と割り勘でな」

 「アハハハハハ」

 「今日もそうだけどな」

 「えぇー!」

 「冗談だ」


 柳が笑った。

 まあ、こいつも金が無い人間では無い。





 俺は思い出を語った。

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