静子、感謝。
夕飯の後、院長たちには風呂に入っていただいた。
「あ、ご一緒にどうぞ」
「ばかやろー!」
いいじゃねぇか、別に。
静子さんが入っている間、俺は静子さんが好きだというラフマニノフの協奏曲をかけた。
「おしゃれな機械があるのねぇ」
静子さんは喜んでくださった。
ゴリラは風呂が早いので、何もしない。
風呂上りに、リヴィングのテーブルで三人で話をした。
俺と院長は、一江たちの酒乱事件を静子さんに話し、大いに笑っていただいた。
あまりにも汚い場面は省略した。
「じゃあ、もう先に休ませていただきますね。今日は本当に楽しかった。ありがとう、石神さん」
「そう言っていただけると、俺も嬉しいです」
静子さんは部屋へ向かった。
「石神、今日は本当にありがとう」
「いえいえ。いつもお世話になってることですし」
「女房があんなに楽しそうだったのは、久しぶりだ。初めてかもしれん」
「院長も、奥さんを大事にしてますよねぇ」
「うるさい」
「じゃあ、お前はどうなんだ? 花岡さんに続き、六花にも手を出しただろう?」
「え、なんで」
「お前、俺を見くびるなよ。俺が見ればなんでも分かるんだ」
霊能力者めぇ。
「それでお前、どうするんだよ。どっちかと結婚するのか?」
「分かりません。それじゃいけませんか?」
「俺がとやかく言うことじゃねぇ。お前の好きなように決めろよ」
「なんでこんな話になったのか」
「お前が振って来たんだろうが!」
俺たちは笑った。
「響子のこともありますからね。みんな好きなんで、まあ成るようになる、というか」
「まったく、この家もそうだが、お前は贅沢な奴だ」
少し会話が途切れる。
まあ、今日は院長室のように、「出て行け」とは言われない。
「お前を引き抜いて、本当に良かったと思ってるよ」
「あんた、本物ですか?」
「ばっかやろー!」
「折角たまには褒めてやろうと思ったのに」
「気持ち悪いですよ」
「ふん。でもな、俺は本当にそう思っているぞ。お前にはいろいろ頭に来ることも多かったがな」
「すみませんでした」
俺たちは思い出話で盛り上がり、遅くまで話していた。
「なんだ、まだ起きてたのか」
「ええ、あんまり楽しかったので、寝付けなかったんです」
「なら、一緒に話していれば良かったじゃないか」
「いいえ、お二人できっと楽しいお話もあるんだと思いましたから」
「まったく」
「さあ、もう寝よう。いつもよりも、ずいぶんと遅くなった」
蓼科文学はすぐに寝入った。
隣のベッドの上で、その寝顔に向かって、静子は深々と頭を下げた。




